「美人局(つつもたせ)」という、古来くりかえされる犯罪手口をご存じだろうか。女が男と共謀して他の男性を誘惑し金をゆすりとる行為だ。マッチングアプリを利用した“現代版 美人局”ともいえそうな犯罪が静岡市で繰り返されていた。17~20歳の男女5人組の犯行は立件されただけで3件、被害者はいずれも21歳の男性だ。警察は余罪があるとみている。
「美人局」って何?
集英社・国語辞典によると、美人局(つつもたせ)は「女が夫や愛人と示し合わせて他の男を誘惑し、それを種に金品をゆすること」とある。
広辞苑には読み方の「つつもたせ」について「『筒持たせ』の意か。もと博徒の語」とあり、イカサマを示す意味もあったようだ。
また表記の「美人局」について広辞苑は「『武林旧事』などに見えて、中国の元の頃、娼妓を妾と偽って少年などをあざむいた犯罪を言ったのに始まる」と説明する。
本来は関係がないふたつの言葉が合わさってできた言葉のようだが、中国の古典に出ているくらいだから、相当の昔からあった犯罪手口なのだろう。
被害者の相談から男女5人を逮捕
その「美人局」という手口を知ってか知らずか、マッチングアプリを使って美人局を現代風にしたような事件が静岡市内で起きた。若者たちの犯行が発覚した端緒は、2023年10月18日の被害者から警察への相談だった。
この記事の画像(5枚)静岡市に住む21歳の男性会社員3人はマッチングアプリを通じて知り合った女性と会う約束をして、18日未明 静岡市の待ち合わせ場所に向かった。
警察によると、被害者たちが女性と会っていたところに男たちが現れ、「なんで会っているんだ」「100万円用意するか」などと因縁をつけてきたという。さらに投げ飛ばすなどの暴行を加えてATMで現金を引き出させ、約80万円を奪ったとみられている。
被害者たちが18日昼に警察に相談し事件が発覚した。被害者は男たちから残りの20万円の支払いを求められたため、JR静岡駅北口を集合場所に指定した。そして19日午前1時頃、 受け取りに現れた男2人が張り込んでいた警察官に緊急逮捕された。
男A(三島市生まれ住所不定・無職・19歳)と男B(伊豆の国市・飲食店従業員・19歳)の2人で、被害者らに暴行を加え現金約80万円を奪った強盗の疑いだ。
さらに男たちの供述などから、10月29~30日 新たに3人が逮捕される。清水町に住む専門学校生の女(20)と、男C(住所不定・無職・19歳)、男D(伊豆の国市・無職・17歳)の3人だ。女はマッチングアプリで被害者たちと出会う約束をしていた者だ。
容疑の事件は、先に逮捕された2人と同じ18日の犯行だが、この時までに被害者が投げ飛ばされた時のケガが「肩の打撲 全治10日間」とわかっていたため、容疑は強盗致傷となった。
5人は知り合いで、住所や出身地がわかっている4人はいずれも県東部、年齢も17~20歳と近い。
犯行は少なくとも3件 一日に2件も
捜査を進めると10月18日の犯行が初めてではないことがわかった。
11月に入ると、警察は5人を10月12日の恐喝未遂容疑と、10月18日の恐喝容疑で再逮捕した。警察によると、いずれも女がマッチングアプリで知り合った被害男性と事前に決めた場所で待ち合わせ、そこから車や徒歩で移動した先に男たちが突然 現れたという。
10月12日の容疑は、静岡市で市内に住む21歳の男性会社員に対し、「なぜ女と会っているんだ。女の知り合いが怒っているぞ」「こっちは1人くらい殺しても大丈夫」「25万円準備しておけ」と脅迫し現金を脅し取ろうとした恐喝未遂の容疑だ。
10月18日の容疑は、静岡市で藤枝市に住む21歳の専門学校生に対し、「喧嘩だ、100万払うかどっちだ」などと脅迫し、現金約3万円を脅し取った恐喝の容疑だ。
この10月18日は、5人が最初に逮捕された事件があった日で、警察によると再逮捕の恐喝事件の方が、強盗致傷事件より先だったという。女は同じ日に少なくとも2組の男性たちと会う約束をしていたことになる。
逮捕された男女5人は17~20歳、被害にあった5人は奇しくも全員が21歳で、犯罪の容疑者も被害者も若者だった。出会いの機会を手軽に作り出せるマッチングアプリが、若者によく利用されていることを伺わせる。
5人組は「マッチングアプリを利用して簡単に金を脅し取れる」と味をしめ、犯行を重ねたのだろうか。安易な気持ちで始めた犯行かもしれないが、それで人生が変わってしまうかもしれない。
強盗致傷罪の刑罰は「無期懲役、または6年以上の懲役」だ。警察は余罪があるとみて捜査を続けている
(テレビ静岡)