静岡県立総合病院で患者の検体を取り違えたことに起因し、手術の必要がない患者から前立腺を全摘出するという重大な医療事故が起きた。なぜ、このような事態に至ったのか。病院側が記者会見を開いた。
検体を取り違えた末に…患者に後遺症
「心から深くお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした」
10月20日。記者会見を開いた静岡県立総合病院(静岡市葵区)の小西靖彦 院長は開口一番、こう頭を下げた。
この記事の画像(5枚)なぜ会見をしたのかと言えば、重大な医療事故が起きたからだ。
まずは事故の概要を説明する。60代の男性患者(以下、A氏)は2023年4月に受けた病理組織検査の結果、“悪性度の高い”前立腺のがんと診断され、7月13日に前立腺を全摘出するに至った。
ところが大きな問題が発覚する。摘出した前立腺を調べたところ「手術前の検査結果とまったく異なるもの」(小西院長)であることが判明。このため、本人の同意を得た上で外部機関にDNA鑑定を依頼し、前立腺がんと診断された検体とは別の患者であることがわかった。
県立総合病院によればA氏の病理組織検査を実施した4月19日、別の80代の男性患者(以下、B氏)も前立腺に関する検査も行っていて、本来、前立腺がんと診断すべきはB氏の方であったが、検体を取り違えたという。A氏は、実際には“良性”だった。
このA氏は必要のない手術によって尿失禁や男性機能の低下といった後遺症が残り、現在、看護師が医療メディエーター(医療対話仲介者)として週1回、健康状態の確認をしているそうだ。
一方、B氏は当初“悪性所見なし”と伝えられていたことから、前立腺がんに対するホルモン療法の開始が約5カ月遅れることとなり、9月の検査ではリンパ節への転移も確認された。
検証を踏まえ事故調査委員会を開催
ここからは事故をめぐる県立総合病院の対応や検証について触れていく。
7月20日、泌尿器科は「検体の取り違えが発生した可能性がある」とのインシデントレポートを医療安全室に提出。これを受け医療安全室が関係部署への聞き取りを行った上で、7月27日に検査をどのように実施しているか、また、運用上の問題がないかを確認するため手術室への立ち入り検査を行った。
この際、4月19日に検査を行った医師や看護師も立ち会い検証したものの、3カ月前の出来事であったため原因の確定には至らなかったという。
7月31日には病理学部の立ち入り検査を実施。ここでは手術室で摘出された病理組織の受付から搬送、処理、診断までの過程で取り違えが発生するか否かの検証を行い、資料をまとめた上で9月5日に医療事故調査委員会を開催した。
調査委員会には関係者を含めた24人が参加し、この中で取り違えが起きた原因について7つの仮定を基に検証を進めたそうだ。
確定的な原因は見いだせなかったが…
では、検証結果を順に見ていく。
1つ目の検査時にB氏を先に手術室へ入室させるべきところを、A氏を入室させたという可能性については、手術室を利用する患者が装着したリストバンドの情報と電子カルテの情報を照合しているため、「可能性なし」とした。
一方、検査前に用意してあったA氏の検体容器にB氏の検体を入れてしまった可能性については「否定できない」との見解が示されている。
また、手術室から病理学部へ病理組織を提出する際に伝票と検体が入れ違った可能性や病理学部内で標本を作製する際にA氏の検体をB氏の検体としてしまった可能性については、いずれも否定。
さらにA氏の診断結果をB氏のカルテに記載した可能性、病理診断そのものを誤った可能性、手術時にA氏の検体がB氏の検体とされてしまった可能性については、いずれもDNA鑑定の結果から「可能性なし」と判断された。
このため、調査委員会は「確定的な原因は見いだせなかった」とした上で、患者名などが記載された検体容器と患者が装着したリストバンドを照合していなかったことで「取り違えが発生した可能性がある」と結論付けた。
県立総合病院では今回の事件を受け、複数の患者を連続して検査する場合は検体容器を患者ごとに別々の部屋で準備することや、検査前に検体容器と患者のリストバンド情報を照合することなど、再発防止に向けてマニュアルの修正を行ったという。
なお、A氏に対する金銭的な補償については弁護士や保険会社との相談を進めていて、小西院長は「出来る限りの補償を行いたい」としている。
(テレビ静岡)