北朝鮮の朝鮮中央テレビは28日、金正恩総書記が27日に朝鮮人民軍の海軍司令部を訪れ将校たちに歓迎される様子を報じた。

ジュエ氏とみられる娘が報じられたのは3カ月半ぶり(朝鮮中央テレビ)
ジュエ氏とみられる娘が報じられたのは3カ月半ぶり(朝鮮中央テレビ)
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ジュエ氏とみられる娘と手をつなぎ集合写真に収まる金総書記。
その演説で注目されたのは、初めて口にした「大韓民国」だ。

日米韓首脳を「ごろつき」と批判

「アメリカと日本、≪大韓民国≫のごろつき頭目が集まって、3者間で各種合同演習を定期化することを公表し、その実行に着手した」

将校たちを前に日米韓の首脳を「ごろつき頭目(親分)」と呼んで、合同演習を毎年実施することで一致した日米韓を批判した形だが、金総書記が韓国を正式な国名「大韓民国」と呼んだのは初めてのことだ。

日米韓首脳を「ごろつき」と批判した金総書記(朝鮮中央テレビ)
日米韓首脳を「ごろつき」と批判した金総書記(朝鮮中央テレビ)

実は北朝鮮はこれまで、韓国を「南朝鮮」と呼んできた。
しかし朝鮮労働党の機関誌「労働新聞」も二重山括弧で≪大韓民国≫と表記し、強調して伝えている。
韓国・統一省も「金総書記が初めて言及したという点で注視している」とコメントしている。

南北統一の対象「南朝鮮」から敵国「大韓民国」へ

北朝鮮による「南朝鮮」という呼び方にについて、韓国メディアは「民族」の概念が含まれていると分析している。
つまり「同じ民族だった国家の南半分」という意味や、「南北統一を図る」という意味も含まれている。
しかし最近、北朝鮮は「大韓民国」という正式な国名で呼び始め、その回数も増えてきた。

金与正氏が談話で初めて「大韓民国」と表現した
金与正氏が談話で初めて「大韓民国」と表現した

金総書記の妹・与正氏は7月10日に発表した談話で「≪大韓民国≫の合同参謀本部がアメリカの報道官のように振る舞っている」と表現し、翌11日の談話でも≪大韓民国≫を使っている。
韓国・統一省は北朝鮮が談話で「大韓民国」と呼んだのはこれが初めてだとしている。

また27日の軍事パレードで演説した強純男(カン・スンナム)国防相も「わが国の武力行使が、アメリカと≪大韓民国≫に限っては防衛権の範囲を超えることになる」としている。

≪ ≫で表す敵対心 「国家 対 国家」へ

これらの談話や労働新聞では、二重山括弧で≪大韓民国≫と強調している。
この≪ ≫について韓国の通信社「NEWS1」は、「≪ ≫表記は、北朝鮮が通常、自分たちでは使わない言葉を表現する時に使う方法」と説明している。

あえて自分たちが使わない国名で韓国を指し、「敵対感情を表している」としている。
つまり韓国を「統一の対象である同じ民族」ではなく、「別の国家」とみなし、「国家 対 国家」として南北関係に明確な一線を引こうとしているとみられる。

演説後には海軍と空軍のバレーボールを観戦(朝鮮中央テレビ)

また別のメディアは、「北朝鮮の最高指導者まで≪大韓民国≫と呼ぶことで、南北関係を特殊な関係ではなく、国家 対 国家とみる距離感を表したもの」と分析している。

軍事偵察衛星の打ち上げ失敗には「沈黙」

金総書記が公の場に姿を見せたのは、24日に軍事偵察衛星の2回目の打ち上げに失敗してから初めてだった。
金総書記は演説で打ち上げ失敗には触れなかった。
海外向けには朝鮮中央通信を通じ失敗したことを明らかにしているが、北朝鮮の市民には積極的に知らせていない。

市民には失敗を伏せたまま、韓国、そして日米韓への敵対心をあらわにし、10月には3回目の軍事偵察衛星を打ち上げようとしている。

一之瀬登
一之瀬登

FNNソウル支局長。韓国駐在3年目。「めざましテレビ」「とくダネ!」など情報番組を制作。その後、報道局で東京都庁、東京オリンピック・パラリンピック担当キャップ。2021年10月ソウル支局に赴任。辛いものは好きですが食べると「滝汗」です。