馳浩石川県知事の東京オリンピック招致をめぐる発言。官房機密費を使って1冊20万円のアルバムを作成し、IOCの委員に配ったというものだ。本人は全て撤回したという一点張りだが、本当にそれで良いのだろうか?北陸中日新聞の奧田哲平記者に聞いた。

馳浩石川県知事の発言は何が問題なのか

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11月17日、馳浩石川県知事は東京都内で開かれた講演で、2013年の東京オリンピック招致活動で、投票権を持つIOC、国際オリンピック委員会の委員に、官房機密費を使って1冊20万円のアルバムを贈ったと発言した。馳知事はこの当時、自民党の衆院議員として招致推進本部長を務めていた。

馳知事は事実誤認だとしてその日のうちに発言を撤回。22日の会見でも五輪招致に関しては今後一切答えないとくり返した。

しかし国会でも、この発言が問題視され、野党側から参考人招致を求める声があがっている。

立憲民主党 石橋通宏参院議員:
これだけの疑念、疑惑が出てきた以上、それを総理の責任において調査をして報告を頂きたい。
岸田首相:
発言の撤回の経緯等をしっかりと踏まえた上で、具体的な対応を考えていきたい。

馳知事は手柄をアピールしたかった?

奧田記者:
馳知事は東京オリンピック招致運動の貢献度や手柄をアピールしたかったのだろうが、墓穴を掘ったという事だと思います。講演会は、日体大が主催しました。日体大の松浪健四郎理事長は、馳知事の恩師とも言える人。本人的にはその環境で口が滑ったのかもしれないが、その代償は大きかったですね。

稲垣真一アナウンサー:
馳知事は事実誤認だと言っているが、どの部分が、事実誤認か明らかにしていませんよね。

馳知事のブログ
馳知事のブログ

奧田記者:
ただ馳知事は、自身のブログで、2013年4月、当時の菅官房長官を訪ねて、招致活動の報告をしたと説明する中で、「思い出アルバム作戦」と綴っていました。先日の会見では、ブログの内容は事実と認めているので、自分で自分の発言が事実と裏付けてしまったことになります。

馳知事発言の問題点は2つ

問題点は2つある。1つはアルバムの贈答が、IOCの倫理規定に抵触するのではないか、つまり賄賂に当たらないのかと言う点。もう1つは、表に出ない官房機密費の使い道を明かしたと言うことだ。

奧田記者:
まず官房機密費。正式には内閣官房報償費と言います。政府が国の事務・事業を円滑、効果的に遂行するため、機動的に使える経費と位置づけられています。2023年度予算では、14億6000万円が計上されていました。支払い先や、使途の詳細はわからず、事実上、内容をチェックできません。慣例的に使い道を明らかにしないよう運用されいていますが、明文化されたルールはなく、従って、馳知事の発言がすぐにダメだと言うことにはなりません。

稲垣アナ:
むしろ国民にその内容を明かしてくれたと言うことで、皮肉交じりではあるが、たたえる向きもありますね。

奧田記者:
しかし、現職の知事で、しかも大臣経験者。さらに東京オリンピック招致を担当した元衆院議員の立場で、国の機密を漏らした言動は軽率と批判されても仕方ありません。

それでは、もう一つのIOCの倫理規定についてはどうなのだろうか?

奧田記者:
現在のIOCの倫理規定を見ると五輪関係者への贈り物の授受を禁じています。2013年当時の規定でも、授受を禁じる一方で、贈与は、地元の慣習に基づく名目的な価値のもののみ、敬意又は友好のしるしとしてオリンピック関係者から受け取る、または、贈る事ができるとの記載があります。
稲垣アナ:
そうすると当時は、問題なかったのでしょうか?

奧田記者:
五輪アナリストの春日良一さんに聞きましたが、アルバムは友好の記と言えなくもないという事でした。ただ問題なのは、金額を漏らしたと言うことです。春日さんが携わった1998年の長野冬季オリンピックでは、不文律としてお土産代が上限200ドルと決まっていました。当時1ドル100円と単純に計算しても2万円。馳知事の発言が事実なら、1冊20万円。総額2000万円以上かかったことになります。不適切な贈答があったのではないかという疑念が浮かび上がっています。

20万円のお土産について「あり得ない」と自ら発言

なお馳知事は20万円という金額を問われて次のように答えている。

馳知事:
相手にもよりけりだと思いますが、また、形態にもよると思いますが、(20万円する品物は)お土産としてはあり得ないですね。

東京オリンピックの招致活動をめぐっては、招致委員会と契約を結んだコンサルタント会社が、IOCの元委員の息子に多額の金を流したことが問題となり、フランスの司法当局が贈収賄の疑いでJOCの竹田元会長から聴取している。また、招致とは直接関係ないが、東京オリンピックでは、組織委員会幹部による汚職事件もあった。

稲垣アナ:
馳知事は、今後一切、この問題に対する発言はしないと言っているが、これで説明責任を果たしたことになるのでしょうか?
奧田記者:
中国の格言で「綸言汗のごとし」と言う言葉があります。国語教師だった馳知事はご存じだと思うが、君主がいったん発した言葉は、取り消したり訂正することができないと言う意味です。ご自身の言葉で説明を尽くすべきだと思います。都合の悪いことになると口をつぐむという説明責任を果たさない姿勢は、政治不信を招いてしまっています。その結果は、政治家自身に跳ね返ってくるでしょう。

稲垣アナ:
馳知事の国会の参考人招致はあるのでしょうか?
奧田記者:
現実には、与党自民党が認めないでしょうから、実現する可能性は低いですね。ただ、オリンピックの招致や運営をめぐって不適切なやりとりがあるというネガティブなイメージに馳知事の発言も加担してしまったわけです。

奧田記者:
五輪へのネガティブなイメージは、2030年開催を目指していた、札幌冬季オリンピックの招致に影響し、断念につながりました。馳知事は1984年のロスオリンピックにレスリング選手として出場し、スポーツに対する並々ならぬ思いがあります。自身の不用意な発言が、逆にオリンピックへのイメージを損ねてしまっているのは残念としか言いようがありません。

(石川テレビ)

石川テレビ
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