京王線の電車内で、アメリカ映画の主人公“ジョーカー”に扮して乗客を刺し、車内に火をつけたとされる福岡市出身の男の裁判員裁判で、男に懲役23年の判決が言い渡された。

「2人以上殺せば」…身勝手な“動機”

初公判の時と同様、黒のスーツ姿で法廷に現れた男。

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殺人未遂などの罪に問われている福岡市出身の服部恭太被告(26)だ。

裁判長:
主文 被告人を懲役23年に処する

事件が起きたのは2021年10月31日、ハロウィーンの夜だった。

(京王線 撮影:しずくβ 2021年10月31日午後8時頃)
(京王線 撮影:しずくβ 2021年10月31日午後8時頃)

京王線の乗客:
あぶないあぶない。押さないで 押さないで

映画「バットマン」の悪役、ジョーカーに似た格好をした服部被告は、東京・調布市内を走行していた京王線の電車内で、当時72歳の男性の胸をナイフで刺し、殺害しようとした。そして…。

キャプション(京王線 撮影:しずくβ 2021年10月31日午後8時頃)
キャプション(京王線 撮影:しずくβ 2021年10月31日午後8時頃)

京王線の乗客:
降りよう

ライターオイルをまいて、火をつけ乗客12人を殺害しようとしたのだ。

(京王線 撮影:しずくβ 2021年10月31日午後8時頃)
(京王線 撮影:しずくβ 2021年10月31日午後8時頃)

警察官:
確保、確保

抵抗することなく警察官に拘束された服部被告。取り調べに対して身勝手な動機を語っていた。

服部被告の供述(逮捕当時):
2人以上殺せば死刑になると思った。殺せなくて悔しい

地元・福岡の中学時代の後輩:
常に静かな感じで、ワイワイ騒いで中にいるような人ではなかった

被告が語る当時の状況

福岡市内の集合住宅で家族と暮らしていた服部被告。

介護ヘルパーやネットカフェで働くなど職を転々とする傍ら、プライベートでは中学時代から年下の女性と交際していた。ところが…。

地元・福岡の後輩:
恋人のお母さんに会って、「続いとると?」と聞いたら、「もう別れとるよ」と聞いたので。(服部被告は)本当に一途でしたよ、メチャメチャ

事件が起きる前年の2020年11月。服部被告は自身の誕生日に交際相手の女性から別れを告げられ交際は破局。さらに、女性は半年後に別の男性と結婚した。

その後、服部被告は2021年7月に福岡を離れ、消費者金融で借金を重ねながら、兵庫・神戸市や愛知・名古屋市などを転々とし、東京にたどり着く。その道中、服部被告はホテルで映画「バットマン」を鑑賞し、劇中に登場した悪役、ジョーカーの姿に刺激を受けたという。

服部被告の供述(逮捕当時):
人を殺しても何とも思わないジョーカーの態度にひかれた

裁判の中で服部被告は何を語るのか。6月に開かれた裁判員裁判の初公判に注目が集まった。

服部被告の供述(初公判):
男性をナイフで刺したこと、ナイフを携帯したこと、火をつけたことは認めます。ただ、男性以外の12人が殺人未遂の対象になるかは分かりません

起訴内容を一部否認した服部被告。

一方、検察側は犯行の動機について元交際相手の女性の結婚を知ったことなどをきっかけに「自分には存在価値がない」、「死にたい」、「死ぬしかない」、「大量殺人をして死刑になりたい」と思うようになったと述べ、走行中の電車内で乗客を刺し殺し、逃げる乗客を追い込み、オイルをまいて焼き殺す計画を立てたと指摘した。

裁判で服部被告は、ジョーカーに扮した際の心境も語った。

服部被告の供述(被告人質問):
「なりきろう」という気持ちだった。人を傷つけることを何とも思っていない、その気持ちを持たないと殺人を犯せないと思った

その後、裁判の中で自身が刺した男性やほかの乗客に対し、「申し訳ないと思っています」と初めて謝罪の言葉を口にした服部被告。死刑になるために殺人を計画したことについては「まともではなく、無謀な考えだった」と反省の言葉を述べた。

検察側は「多数の死傷者が出る危険性があった」と懲役25年を求刑。一方、弁護側は、「ライターを投げた時には乗客は危険な場所から逃げていて、死亡する危険性があったとは言えない」と、懲役12年が相当と主張した。

「恐怖や不安は計り知れない」

7月31日に開かれた服部被告の判決公判。

東京地裁立川支部の竹下雄裁判長は、「自分勝手な理由から多数の命を狙った無差別的犯行」と断罪。

さらに争点となっていた、12人への殺人未遂について12人のうち、10人に対して成立を認定した形で「落ち度はない被害者の精神的苦痛、焼き殺されるのではないかという恐怖や不安は計り知れない」として懲役23年の判決を言い渡した。

じっと前を見据えて判決を聞いていた服部被告に、裁判長はこう言い聞かせた。

竹下雄裁判長:
23年と長い服役期間になりますが、事件のことや被害者のこと、そういったことを考える期間にして下さい。被害者との関係はこれで終わりではありません。苦しくても生きて、償いをすることを忘れないで下さい

服部被告は深々と頭を下げて法廷をあとにした。閉廷後、裁判員が会見し、今回の判決に至った思いを語った。

裁判員:
弱い人間という印象を受けた。表情ひとつ変えず、ずっと座っているなという印象を受けた。正直言うと「彼は何を考えてるんだろう」と公判中、思っていました。反省の言葉は述べましたが、あまり私には刺さらなかった。「その場しのぎで言っているな」という印象を受けました

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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