「やはり映画の通りだった」

米・ニューヨーク州ロングアイランドで11人の遺体が見つかりながら13年にわたって捜査が進展せず迷宮入りかと言われていた事件で、捜査の指揮官が代わると事態が急展開して犯人が逮捕され、このような声が巻き起こった。

その映画というのは、動画配信大手のネットフリックスが2020年に配信したドキュメンタリードラマ「ロストガールズ」(訳:消えた女の子たち)で、この事件で行方不明になった女性の母親が警察との葛藤にかられながら娘を探すというストーリーだ。

11人の遺体発見も捜査に進展なし

事件の現場はニューヨークのマンハッタンから100キロほど東のロングアイランドにあるサフォーク郡の海岸地帯で、日本で言えば湘南地方のような静かな住宅街として知られる。

「誰かにつけられている」と警察に助けを求めていたシャナンさん
「誰かにつけられている」と警察に助けを求めていたシャナンさん
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そこで2010年、シャナン・ギルバートさんという24歳の女性が緊急電話で警察に助けを求めた後、行方を絶った。しかし警察は、シャナンさんがコールガールであることを知ると捜査がおろそかになり、業をにやした母親のメアリーさんが自ら捜索を始める。

シャナン・ギルバートさんが発見された場所(ニューヨーク州サフォーク郡)
シャナン・ギルバートさんが発見された場所(ニューヨーク州サフォーク郡)

しかし素人の母親の捜索には限界があり、何も手ががりがないまま時が過ぎて半年後、海岸で4人の麻袋に詰め込まれた白人女性の白骨死体が発見された。シャナンさんではなかったが、いずれもコールガールであることがわかった。警察が改めて海岸地帯を捜索した結果、さらに5人の遺体が発見され、シャナンさんの腐敗遺体も2011年12月に見つかったが、警察は死因を自然死としてさらなる捜査を行わなかった。

「警察は見捨てた。私たちと娘たち全員を。
危険に瀕した彼女らを守らず、行方不明も真剣に扱わなかった。
彼女たちを利用した人々を追わなかった。警察もその一部かも。
私を無視した。あの晩シャナンのSOSを1時間も無視したように。
なぜ他の誰も責めず、彼女たちばかりを責める?
今が説明責任の時。私自身から始めるよ」

(「ロストガールズ」翻訳字幕より)

映画はメアリーさんのこういう言葉で終わっていた。

「ピザの食べ残し」で容疑者逮捕

ところが7月14日になってサフォーク郡警察は、遺体が見つかったシャナンさん以外の3人の女性を殺害した容疑で、隣のナッソー郡の住民でマンハッタンに個人事務所を持つ建築家のレックス・ホイヤーマン容疑者を逮捕したと発表した。

レックス・ホイヤーマン容疑者
レックス・ホイヤーマン容疑者

発表によると、警察は1年前からホイヤーマン容疑者に捜査を集中し、マンハッタンで同容疑者がピザの食べ残しを捨てたのを採取してDNA検査をした結果、女性が詰め込まれていた麻袋から採取されていた男性の毛髪のDNAと一致して犯人と断定されたのだという。

DNA鑑定に使われたピザの残り
DNA鑑定に使われたピザの残り

しかし、なぜそれに着手するまで13年もかかったのだろうか。

ホイヤーマン容疑者がマンハッタン5番街にあるゴミ箱に捨てたピザの箱
ホイヤーマン容疑者がマンハッタン5番街にあるゴミ箱に捨てたピザの箱

捜査トップの交代で急展開

「ロングアイランドの警察は、レックス・ホイヤーマンに繋がる重要な証拠を13年間無視していた」(ニューヨーク・ポスト紙電子版 18日)

容疑者の逮捕を発表したロドニー・ハリソン本部長(7月14日)
容疑者の逮捕を発表したロドニー・ハリソン本部長(7月14日)

記事は、2022年2月サフォーク郡警察本部長にニューヨーク市警察(NYPD)のロドニー・ハリソン刑事局長が就任したことで全てが変わったとする。新本部長は改めて連続殺人事件を解決するために連邦捜査局(FBI)やニューヨーク州警察にも参加を求めて特別部隊を編成し、それまでに集められた情報を洗い直した。

その結果、女性が行方不明になった前後に黒いシボレー・アバランチ型ピックアップトラックを目撃していたという情報が発見された。また、コールガールを呼び寄せたプリペイド携帯の発信記録を分析すると、ナッソー郡とマンハッタンの5番街に集中していることがわかり、これらの情報の接点にホイヤーマン容疑者の存在が浮上してきたのだという。

ホイヤーマン容疑者(7月14日)
ホイヤーマン容疑者(7月14日)

「『ロストガールズ』に書きましたが、かつての警察の本部長が地元の集会で『地域の人たちは心配する必要がない。殺人鬼が追っているのはコールガールだけだからだ』と言ったのです。もし犠牲者がきちんとした職業の持ち主だったら、もっと大騒ぎになっていたでしょう。しかしそうはならなかったのです。警察は何事もなかったように対処したのです」

「ロストガールズ」の原作者のロバート・コルカー氏はローリング・ストーン誌電子版(17日)の記事でこう語っている。

新警察本部長を迎えてやっと事件の解明が始まったわけだが、シャナン・ギルバートさんの事件はいまだ手付かずも同然だ。

「ロストガールズ・パート2」が必要なのかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。