2016年4月の熊本地震で被災し、一部区間で運休が続いていた南阿蘇鉄道が、7年3カ月ぶりに全線で運転を再開した。またJR豊肥線への乗り入れも開始し、“南鉄”の完全復活に、沿線には笑顔があふれた。

高森駅の1番列車には早朝から長蛇の列

7月15日午前5時ごろ、熊本・阿蘇郡高森町にある高森駅では多くの人が始発列車に乗ろうと列をつくっていた。

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1番目に並んでいた京都から来た男性は、「前日の午後1時25分から並んだ」と話し、熊本県内の大学に通うという男性は「貴重な機会を自分の目に焼き付けたいと思って来た」と、南阿蘇鉄道の運転再開に心躍らせていた。

高森駅では早朝から、始発列車の車両の前で神事が行われ、安全運行を祈願した。

菊陽町から来た家族:
待ちに待ったという感じ。震災の時は息子は生後3カ月だった。初めて立野まで乗れるので、第一白川橋梁(きょうりょう)がすごく楽しみ

また、駅の売店にはオープンと同時に多くの人詰めかけ、記念切符や南阿蘇鉄道のグッズを買い求めていた。さらにホームには、地元の住民の姿も…。

沿線住民:
熊本市内の高校に“南鉄”を使って通っていたので、本当にうれしいから、これからも利用したい

「出発進行!」の掛け声合図に

そして午前6時。

1番列車の運転士を務める寺本顕博さん(68)が「出発進行!行ってきます」と大きな声をかけ、列車が出発した。

寺本さんは旧国鉄出身のベテラン運転士で「1番年長の私に、1番列車の運転をやらせてくれたのは非常に光栄」と話す。

1番列車は中松駅へと入ると、ホームでは関係者が旗をふって出迎えていた。

中松駅と立野駅の10.6kmの区間は、熊本地震で線路が流失したほか、鉄橋が損壊するなど特に大きな被害を受け、運休が続いていた。その区間に、汽笛と車輪の音が戻ってきた。 

運転士「長いトンネルをやっと抜けた」

沿線では笑顔で出迎える住民らの姿があり、寺本さんは車内アナウンスで「1番被害の大きかった区間を走行してまいります」と当時を振り返る。

そして、そのトンネルを抜けた先には、地震で大きな被害を受け架け替えられた第一白川橋梁があり、南阿蘇鉄道の一番の名所とも言える場所を7年3カ月ぶりに列車が走った。

寺本顕博運転士:
「長いトンネルをやっと抜けた」、そんな気持ちだった

そして列車は終点・立野駅へ到着すると、早朝にもかかわらず、多くの人が旗を振って迎えていた。

乗客は「沿線のみなさんと喜びを分かち合えてよかった」と話し、運転士の寺本さんも「たくさんの人に私たちの鉄道が愛されているんだと感激した」と感無量の様子だった。

立野駅名物のニコニコ饅頭

また、立野駅に列車が戻ってくるこの日を心待ちにしていた男性がいる。

髙瀬大輔さん、「ニコニコ饅頭」の4代目だ。

明治40年創業の「ニコニコ饅頭」は、南阿蘇鉄道・立野駅の目の前にある。全線再開の15日は、朝4時前から家族総出で饅頭づくりに追われていた。

ニコニコ饅頭4代目 髙瀬大輔さん:
早起きして(この7年間のことを)ちょっと思い返してはいたんですけど、いろいろあったな…と。諦めずに、よくここまで…

地震後、一時は廃業も考えたという髙瀬さん。それでも多くの人の支えで店を続けることができた。

「7年間の我慢がやっと実を結んだ」

3代目で大輔さんの父・忠幸さんは、「厳しい時代を助けてもらった。みなさん方に支援と協力をいただき感謝している」と話す。

母・清子さんも「とてもうれしい。少し自分の年を忘れたような気分」と楽しげな表情を見せた。

指折り数え、待ち続けた南阿蘇鉄道の復活。喜びを饅頭に込めて、朝一番の乗客に出来立てをプレゼントした。

饅頭を受け取った乗客は「立野駅が不通だった時にも買っていたので、感激しました」と話し、髙瀬大輔さんも「7年間の我慢がやっと実を結んだ」とこの日一番の笑顔を見せた。

JR豊肥線への乗り入れで利便性向上

今回の全線再開に合わせてJR豊肥線の肥後大津駅への乗り入れも始まり、南阿蘇鉄道の利便性も向上した。

南阿蘇鉄道の社長でもある、草村大成高森町長はセレモニーで「特に高齢化が進むこの阿蘇地域では公共交通は大変重要。バスだけではない選択肢があるということは、地域の可能性を伸ばす意味でも非常に重要だった」と述べ、沿線の住民も「車の免許を返納したから鉄道が早く再開するのを待っていた」と運転再開を待ち望んだ様子だった。

おかえり!南阿蘇鉄道!

また、若手運転士の玉目一将さんは「地元の皆さまに愛される鉄道会社でおりますので、今後とも応援よろしくお願いします」とあいさつ。

「地元の誇りとして運行していきたい」と意気込みを語ってくれた。

南阿蘇鉄道の駅の一つ、長陽駅では地元住民などが楽器を鳴らしながら盛大に列車の到着を歓迎した。

長陽駅でカフェを営む久永操さんは「きょうこうして皆さんに来てもらって触れ合うことができたので新しい明日が始まりそうな気がしています」と話し、「おかえりー!南阿蘇鉄道!」と大きな声で、全線運行再開を喜んだ。

(テレビ熊本)

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