九州新幹線の全線開業から15年。JR九州の古宮社長は、2026年3月から実施する記念の一大プロジェクトを発表した。線路を使わず九州を縦断する初の試みとは。

「博多駅前に新幹線の車両を置くのが、どれくらいのインパクトがあるのかなと。楽しみで、やってみようと、このイベントが決まった」と笑顔で話すJR九州の古宮洋二社長。

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会見で発表されたのは、九州新幹線全線開業15周年を記念したプロジェクト、その名も『つばめの大冒険』について。

JR九州では、2025年春から15周年に向けての企画が進められていた。「博多駅に向かう大通りを『つばめ』が走ってくる。

『ここを通ってくるんだよ』というのを裏側でイメージしてもらえるようなものにしたい。前代未聞だと思う。誰に説明しても驚かれる」。企画への熱い思いを語るのは、今回の企画の仕掛け人、JR九州営業課の小川浩大さんと秋山健斗さんの2人。

新幹線『つばめ』がレールではなく、海や陸を渡り、九州を縦断して博多駅にやってくるというこれまでにないプロジェクト。

『つばめ』を通して、多くの人に元気と感謝を届けられるよう、通過するポイントやゴールの博多駅でイベントを開催する計画だ。

主役は熊本地震で被災の『つばめ』

鹿児島から博多まで、みんなでウェーブして九州新幹線の全線開業を祝った15年前の『祝!九州縦断ウェーブ』をはじめ、これまで数々のプロジェクトで感動や笑顔を届けたJR九州。

5年前の10周年の時には、みんなの願いを乗せた新幹線を流れ星に見立てて走らせるなど、線路と新幹線を使った企画は、これまでいくつも手掛けてきたが、『線路を使わない企画』は、初めてだという。

しかし、なぜ、新幹線のイベントなのに線路を走らせないのか?JR九州営業課の秋山健斗さんは、「『つばめ』が自由に羽ばたく、線路から外れることによって、普段、新幹線を見ない、乗らないお客様にもたくさん会いに行けるんじゃないかと思って」と企画の意図を語る。

今回のプロジェクトで使用するのは、10年前の熊本地震で被災した『新幹線つばめ』。

あの日から人目に触れることなく熊本の総合車両所に置かれたままだった『つばめ』に、再び命を吹き込むのだ。

「責任取りませんよ!」課題山積

しかし、秋山さんや小川さんの思いを社内の人達に理解してもらうのは容易ではなかった。

2025年7月の第1回社内会議。仕掛け人であるJR九州営業課の小川さんが、「海上輸送や陸送させてもらって、感謝の思いを皆さんに伝えていくようなことができないかと」と切り出すと、JR九州新幹線部運輸課の古江聡幸さんから、「自分は言ったと思うが、うちは責任取りませんよ!」と厳しい声が飛ぶ。

「『地震の時にどういうダメージを受けているか分からない』と常々、ずっと、言っていると思うが、どうなんですかね・・・運べるんですかね」。車両の整備などを行う担当者たちは、一様に難色を示す。

常に車両を万全に、安全性を第一に考える古江さんの立場からすれば、正直、今回の企画を不安に思うのも無理からぬこと。

「本音を言っていいですかね、『止めてくれ』と思いました。通常の作業をしていない時しかできないので、本当に何を考えているんだと」。

身内である社内調整にも課題が山積する中、小川さん達は、社外の関係各所にも説明や相談に回っていた。博多港から博多駅まで、一般道を使って新幹線のパレードをする許可をもらうべく、この日は、博多臨港警察署を訪ねていた。

しかし、予想はしていたが、ハードルは高かった。「本当は、昼間に新幹線を運んで、たくさんの人に見てもらいたいが、『安全上、そこはかなりリスクが高いのでは?』と警察にご指摘頂いた。また、一から考えないといけない」と小川さんは、静かに語る。

思い描く自分達の理想と現実のギャップ。気を取り直して打開策を探る。

「本当は、新幹線の中までお客が入れるようにしたかったが、スケジュール的に中の修繕まで回らないと。10年前から止まっているので、10年前のことを忘れないみたいな。ありのままを見せたいと思う。

ここからはもう、熱意で運輸課の古江さんに『イエス』と言ってもらうまで説き続けるしかないかな」と“仕掛け人”の秋山さんは、腹を括る。

『つばめ』への強い思いは同じ

小川さんたちが『つばめの大冒険』のイベント内容を試行錯誤している間に、熊本の総合車両所では、10年間眠ったままだった『つばめ』の点検と整備が始まっていた。

当初、この企画に難色を示していた車両担当の古江聡幸さんだが、この『つばめ』への思いは誰よりも強い理由がある。

「ちょうど、全線開業の時に運転士をちょっとしていて、この車両を運転したこともあるんですけど…。地震がきっかけで廃車になって、そこからお客さんの目に触れていなかったので…。最後に、ちょうど節目の年に、この『つばめ』が、博多駅に行けるのは良かったと思う」と古江さんは、しみじみと語った。

たくさんの人の思いと協力で、再び九州を縦断することになる『つばめ』。錆びて汚れたままだった車体を磨いて塗装し、再びきれいな姿で博多駅を目指す。

「この新幹線は、もうレールを走れない。レールから外れて陸を渡って、海を渡って、九州中の人々に元気を届けていく。九州の人を元気にして、この元気を世界に向けて発信できるようなプロジェクトにしたい」と思いを新たにする小川さん。

この『つばめ』は、2026年3月に熊本を出発して九州を縦断し、約1週間かけて博多駅に到着する予定だ。

(テレビ西日本)

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