6月3日、名古屋市が主催した市民討論会で、複数の人物が「差別的発言」を行い、物議を醸しています。

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討論のテーマは、「名古屋城の天守閣の復元におけるバリアフリーについて」
名古屋市は、より忠実な復元を目指すとして新たな木造の天守閣には、現在設置されている「エレベーター(5階まで)」は設置せず、車いす利用者と介助者が利用できる「小型昇降機(地下1階から1階まで)」を導入するとしていました。

討論会に参加した車椅子の男性は、エレベーターを排除することは、「障害者が排除されているとしか思えない」と主張します。

この主張に対して、エレベーターの設置に反対する男性から、以下のような発言が。

反対派の男性:
平等とわがままを一緒にすんなって話なんですよ。エレベーターも電気もない時代に作られた物を再構築するっていう話なんですよ。その時になんでバリアフリーの話が出てくるのかっていうのが荒唐無稽で。どこまでずうずうしいのって話で、我慢せえよって話なんですよ、おまえが我慢せえよ。

エレベーターの設置を訴えるのは「わがまま」であり「ガマンしろ」と言い放つ男性。
さらに別の男性は、“直接的な差別表現”を交えて主張します。

反対派の男性:
生まれながらにして不平等があって平等なんですよ。(差別用語)で生まれるかもしれないけど、健常者で生まれるかもしれない、それは平等なんですよ。どの税金でメンテナンス毎月するの?そのお金はもったいないと思うけどね。

身体に障害がある人を傷つける差別的な言葉を使った発言。それに対し会場の一部からは拍手も。

挨拶をする河村たかし市長
挨拶をする河村たかし市長

その後行われた河村たかし市長による挨拶も、「熱いトークもあってよかった」「ぜひ皆さんで愛する名古屋を盛り上げようみゃー」というにとどまり、差別的な表現をとがめるような言葉はなかったといいます。

この対応に対して、名古屋市民からも批判の声が。

40代女性:
河村さんって心無い発言をすることがたまにあるので、もうちょっとそういうところは、考えてみてほしいなあと思いますね。

50代女性:
市長としては、ただ皆さんの広い考え、考え方を広く受け止めるっていうのは、それはいいかもしれないけど、やっぱりそれ(差別発言)はないんじゃないかなと。

5日の定例会見
5日の定例会見

河村市長は5日の定例会見で、市民から出た差別的発言について問われると、「我慢しろ」という発言以外は覚えていないとしながらも、「いろんな意見が出てくるのは当たり前のこと、それを禁止することは恐ろしいこと」と話しました。

今回、討論会場で差別発言を浴びせられた男性は、「めざまし8」の取材に対して悲痛な思いを語りました。

差別発言を受けた男性:
今まで生きてきて、ちょっとやそっとの事では、死にたいとか、逃げ出したいとか思ってないですけど、公衆の面前であれを言われたのは…本当に死にたかった。主催しているのは名古屋市なのに、あんな差別的発言だとか、ずれたことを言っているのを止める人は、一人もいませんでした。

名古屋市の対応は?エレベーターではなく小型昇降機の理由

差別的な発言について、「発言を禁止するのは恐ろしい」と答えた河村市長、さらに名古屋市の担当者は取材に対し、「個人の勢いで言われたことで、制止することはしなかった。今後の運営の課題として受け止める」と回答しました。

この回答に「めざまし8」の総合解説を務める風間 晋氏は…。

風間 晋氏:
名古屋市が(討論会に)参加を希望した36人というのを選んでいるわけです。どういう意見の持ち主が、ここの場所に出てくるのかというのは、名古屋市の方は分かっているわけです。分かっている上で、「発言を禁止するのは恐ろしい」となっているのだから、やはり“言わせている”のだと思います。

左:立岩陽一郎氏 右:風間晋氏
左:立岩陽一郎氏 右:風間晋氏

さらに、コメンテーターを務める立岩陽一郎氏も、対応に苦言を呈します。

立岩陽一郎氏:
河村市長が意見を封じるのは恐ろしいというでしょう?でも「我慢せえよ」というのは、「お前は意見を言うな」という意味だから、この人の発言自体が、障害を持っている方に意見を言うなといっているわけです。これは論理矛盾しているわけです。私は、「名古屋城を元のような形で木造で再建したい」というのはいいですよ。だけど、もし一部の人間に対して「天守閣に登るのをやめろ」というなら、全員やめた方がいいですよ。誰も上げない、上げるときは一定の、特別な時期だけにするくらいじゃないと。

新たな天守閣にエレベーターを設置することは難しいのでしょうか?
建築の歴史が専門で、自身も討論会に参加した麓 和善氏は、設置できない理由についてこう話します。

麓 和善氏
麓 和善氏

麓 和善氏:
木造天守にエレベーターを設置しないと早々に決めた理由ですが、それはエレベーターというのは揺れてはいけない構造になっている。それに対して、木造の天守というのは、いくら巨大であっても地震で揺れることを前提として設計が行われるんですね。構造の異なる木造の天守にエレベーターを設置することはできなかったんです。

さらに、討論会で「差別的な発言」が出てしまったことについて…。

麓 和善氏:
名古屋市では天守の復元に際して、バリアフリーについても5年以上前から検討していまして、障害者団体の方たちとも何度も意見交換を行ってきました。エレベーターの設置は木造天守の耐震上困難なので、それに変わる新技術の公募も行ってきました。その上で、最終的にバリアフリーの方法を決定するために今回の討論会を開催したのですが、そこでこのような差別発言があったことは非常に残念に思いました。

本来は前向きな話し合いを目指すはずが、“差別発言”が出て終わってしまった討論会。

麓 和善氏:
昔の姿を忠実に復元するということと、バリアフリー化というのはそもそも両立しないことなんです。両立しませんが、いずれも大事なことであることは間違いありませんので、どちらかを優先するということではなく、バランスを考えながら復元・設置していくということが重要だと思います。その方法というのは、これからどんどん発達していくと思いますので、現時点でできること、近い将来さらに良い技術が開発されたらその時点でどんどん導入していく、そういう柔軟な考え方が必要だと思います。

河村市長は名古屋城のバリアフリー化について、「なるべく早く結論を出す、検討会議までには」と話しているということです。

(めざまし8 6月6日放送より)