走ったり泣いたり、元気に動き回る子どもたち。しかしそこは、室内の遊び場ではない。あろうことかプロのオーケストラのクラシックコンサート会場、しかも本番中だ。
創立70周年の歴史ある九州交響楽団が開いた「ママとパパとベビーに贈る~0歳からのオーケストラ~」。子どもが生まれてから、好きだった映画やコンサートから足が遠のいたという声にプロのオーケストラが応えた。

3歳未満もOK 子どもと一緒にオーケストラ

指揮者:
もうすでにそうなっていますけど、泣いてもOK。オーケストラの高さに合わせて、みんなどんどん泣いてください。そして笑って楽しんでください

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指揮者の言葉に促されるように泣いたり、手を打ったり、目をキラキラと輝かせて演奏に聴き入ったり、すやすやと眠りにつく姿も。

この日の大事なお客さまは子どもたちだ。オーケストラの前の客席はフリースペースになっていて、小さな子どもがオケの演奏を見上げている。いったいどんなコンサートなのか?

このコンサートは0歳児から入場できる、その名も「マタニティコンサート」。開催したのは、福岡市を拠点に活動し、創立70周年を迎える九州交響楽団だ。年間140回以上の演奏会を行う九響でも、子ども向けのコンサートは数えるほどで、3歳未満の子どもは入場すらできない。

九州交響楽団 広報・リシェツキ多幸さん:
クラシック音楽の演奏会というのは、静かな環境で集中して聴きたいというお客さんが多いこともあって、全国的にもなかなか入っていただくコンサートは少ないのですが、あえて0歳にしたのは、おなかの中から楽しんでいただきたいという、年齢に関係なく小さいときから生演奏のオーケストラの迫力に触れてもらいたい

来場者(母親):
音楽を聴ける場所がほとんどないので、0歳からだからうれしいです

たとえオーケストラが演奏中でも、大きな声で泣き始めたり立ち上がって動き回ったりと、子どもたちはお構いなし。
でも、このコンサートではお互いさま。ぐずった子どもを連れて会場を出入りするも自由で、ほかの観客も演奏者も気にする様子は見られない。

九州交響楽団 指揮・辻博之さん:
本能で聞いてもらえるのは本当にうれしくて、大きくなった後もきっと耳に残っているだろうし、体験が心に残っているだろうと思うので、「おなかの中で一緒につながっていた時にこういうコンサート来たんだよ」って話せる機会ができる、その糸口になるようないい1時間になれたと思っています

来場者(母親):
きょうはすごく楽しんで、ルンルンでした

来場者(父親):
新米パパですけれど、すごくいい企画だなと思います

親御さんに寄り添った環境作り

このマタニティコンサートには、子育て経験がある楽団スタッフのホスピタリティがあふれている。
例えば…。

テレビ西日本・橋本真衣アナウンサー:
手作りのおむつ交換室です。入ると5つのスペースがあります。おむつ交換ベッドにコロナ対策のスプレーとおむつを入れる袋、お尻拭きと大変充実しています

さらに、ミルクコーナーにはお湯も準備。小さな子どもを連れた来場者に安心して楽しんでもらえるように配慮されている。

九州交響楽団 広報・リシェツキ多幸さん:
会場に一歩入られた時から演奏会は始まっていると考えておりますので、会場作りもママに優しいものを目指しています。本当にリラックスして音楽を心から楽しんで帰っていただきたいと思っています

そして会場に今回、初めて設けられたのが、出産前や子育て中のママやパパの悩みに応える相談コーナー。
お母さんの体調管理や授乳の悩み、育児の不安まで、相談にのるのは福岡県助産師会の助産師だ。

ねね助産院・高橋よし恵院長:
妊娠中に助産師と妊婦さんが触れ合う時間があまりないので、そういう機会があってありがたかったです

来場者・楽団員にも好評…しかし課題も

小さな子どもやその家族に喜んでもらうコンサートだったが、楽団員たちも楽しんで演奏していると関係者は話す。

自身も育休復帰直後の葉石真衣さん(バイオリン):
間近で見てもらえて、「空気感とかも近くで感じてもらえたらいいな」と思って弾いていました

鈴木浩二さん(テューバ):
大きくなった瞬間に「わっ」と泣いたりとか、音に反応するのが顕著に出ていて面白いなと思いました。個人的な希望ですけど、各都道府県でこういうことが頻繁にあればいいと思いますし、そのためのいろいろなサポート、行政を含めてもっともっと支援していただければと思います

超人気のコンサートだが、実は課題もある。子どもに合わせた会場を作るため、1公演は最大500人。通常のコンサートよりも入場数を制限しなければならない。収支は赤字で、たとえチケット代金を2倍にしても厳しいという。

九響では「福岡の街のオーケストラとしての使命感がある」というが、年に1回の開催が精いっぱいなのだ。

創立70周年の歴史あるオーケストラから贈られたすてきな音楽のプレゼント。未来ある子どもたちの記憶の中にしっかりと刻まれたはずだ。

(テレビ西日本)

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