“救急車をクラウドファンディングで購入”…そんな苦渋の決断をした病院が福岡にある。背景にはコロナ禍や補助金打ち切りの危機など、苦境が続く地方の医療体制の実態があった。

救急車を“クラウドファンディング”

福岡・大牟田市の済生会大牟田病院は、病床数約200を持つ地域の中核病院だ。病院の入り口には、大きなボードが立てかけられている。

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「目標金額は1300万円」

自前の救急車を買い換えるための寄付のお願いが書かれたボードだ。寄付の呼びかけは、入り口だけでなく待合室や廊下など至る所で目に入る。

寄付をした人:
長いことお世話になっているから「少しでも役に立つなら」と思って…。救急車を見せてもらったけど、ボロボロになっているみたいだから

病院の担当者に、25年前に購入したという現役の救急車を見せてもらった。

済生会大牟田病院・松岡健さん:
外装は去年、一度塗り替えたのですが、中はかなり老朽化が目立っています。かなり年季が入っていて…。恥ずかしいですけど、こんな状態で…

座席のシートをめくると、中のウレタンがボロボロになっていた。

“ダブルパンチ”で経営悪化

病院自前の救急車は、急変の恐れがある患者の搬送などに必要となる。しかし現在、この病院の持つ救急車は、救急対応できる医療機器を載せておらず、稼働する6割近くのケースで大牟田市の消防の救急車に頼っているのが現状だ。

病院では当然、買い換えを検討してきた。しかし、大牟田市の人口減に伴う患者の減少などで経営状況が悪化し、購入は困難だ。さらに稲吉康治院長は、次のように語る。

済生会大牟田病院・稲吉康治院長:
2020年(令和2年)7月の「九州豪雨」がありまして、うちの病院は1階フロアが全部約15センチ浸水してしまいました。それで病院の補修や医療機器の購入に費用がかさみ…。さらに今回の新型コロナの対応で費用が重なってしまいました

“ダブルパンチ”で新車購入を断念
“ダブルパンチ”で新車購入を断念

豪雨被害と新型コロナのダブルパンチで、新救急車購入をいったんは諦めざるを得なかった。その一方で、消防の救急車にも頼れない状況に陥ってしまったのだ。

新型コロナの影響で、太牟田市では救急出動要請が急増。2022年は約6,800件と過去最多を記録した。そのため、消防が持つ5台の救急車はフル稼働状態で、病院は自前で搬送できる救急車を持つ必要に迫られたのだ。
そこで病院は、ネットなどで寄付を募るクラウドファンディングで資金調達をする苦渋の決断をすることになった。

しかし、仮に救急車を購入できたとしても、いま別の問題も浮上している。2023年5月から新型コロナが2類相当から5類に変わることが、病院経営にも大きく影響するという。

済生会大牟田病院・稲吉康治院長:
2023年5月8日からは、コロナが5類感染に移行するということで、いろんな新型コロナに対する補助金、それから医療費等も削られていくということになっている

人口減で、コロナ禍前から悪化していた病院経営。補助金で何とか乗り切ってきたが、10月以降はその補助金がなくなる可能性があり、非常に厳しい状況になると、病院は危機感を強めている。

済生会大牟田病院・稲吉康治院長:
いやぁ、もう大変厳しい状況で、いかにして出費を減らしていってやっていくか。これは当院だけの問題じゃなくて、地域の方々の問題でもある。地域の皆さんにそういった問題を知って頂いて、みんなで協力して地域貢献につなげていけたらと

日本病院会や日本医療法人協会などが調べた調査によると、2022年度に経常利益が黒字になっている病院の割合は約半分。ただ、これはコロナの補助金などを含めた場合で、補助金を除くと病院の4分の3近くが赤字経営となっているのが現状だ。

今後の医療体制をどうやって守っていくのか、地域の医療サービスがどうあるべきかを改めて考え直す時期にきているのかもしれない。
コロナ禍が落ち着いたとしても苦境が続く地方の医療体制。質やサービスはこのまま維持できるのか。正念場だ。

「済生会大牟田病院 救急車購入のためのクラウドファンディング」
・目標金額1,300万円
・4月28日まで
・ホームページや病院窓口で受付中

(テレビ西日本)

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