アメリカのトランプ前大統領が「21日に逮捕される」と自身のSNSに投稿し、支持者らに抗議を呼びかけた問題が燻っている。

トランプ氏は「21日逮捕される」とSNSに投稿し支持者に抗議活動を呼びかけた
トランプ氏は「21日逮捕される」とSNSに投稿し支持者に抗議活動を呼びかけた
この記事の画像(17枚)

2016年の大統領選挙前に不倫関係にあったとされるポルノ女優に対し「口止め料」を支払った記録の改ざん疑惑をめぐるニューヨーク州の大陪審の審理は、延期に次ぐ延期となり、起訴の判断は今週以降に持ち越された。

トランプ氏は起訴されれば「死と破壊を招く」と捜査を牽制し、25日には問題が注目されて以来、初めての大規模集会で「権力の乱用」「魔女狩り」と検察を痛烈に批判した。

一方で、捜査を行っている検察官のもとには、少量の白い粉とともに殺害予告も届いていたことが24日明らかになるなど、不穏な動きも起きている。

ニューヨーク・マンハッタンの検察官事務所周辺でトランプ氏の捜査に抗議する人々
ニューヨーク・マンハッタンの検察官事務所周辺でトランプ氏の捜査に抗議する人々

支持者らは「魔女狩り」プラカードで抗議

「ニューヨークの検察は、ワシントンにある司法省の支援と指示によって、罪でもない何かを捜査してきた。私は軽犯罪も、不倫もしていない」

トランプ氏の背面には「魔女狩り」のプラカード持った支持者らもいた
トランプ氏の背面には「魔女狩り」のプラカード持った支持者らもいた

トランプ氏は、25日に行われたテキサス州での大規模集会でこのように述べた上で、「検察がかつてない職権乱用を行っている」「インチキ捜査が次から次へと行われている」と捜査を真っ向から批判。聴衆も、陣営から配られた「ウィッチ・ハント(魔女狩り)」と書かれたプラカードを掲げて応えるなど、対決姿勢を鮮明に打ち出した。

トランプ氏の演説会には多くの支持者が駆けつけた
トランプ氏の演説会には多くの支持者が駆けつけた

「私が勝利しなければ、アメリカは破滅する」「2024年が最終決戦となる」とトランプ氏は述べて、2024年の大統領選挙に勝利しバイデン大統領と与党・民主党から政権を奪取するとの考えを改めて強調した。

周辺は厳戒態勢も支持者は少数「利用されたくない」

トランプ氏が「21日に逮捕される」とSNSに投稿したことで、ニューヨークのマンハッタンにある検察官事務所の周辺には、アメリカメディアなどが集結した。警察もトランプ氏の逮捕に備えてか、周辺に鉄柵を張り巡らすなど厳戒態勢だった。

検察官事務所周辺には多くのメディアが集結
検察官事務所周辺には多くのメディアが集結

当初はトランプ氏の呼びかけに呼応して、大規模な支持者による抗議活動や、一方で反対派も集結し両陣営の衝突も懸念されていたが、結果的に活動は少数で、賛成派と反対派が公園で隣り合って活動する光景も見られ、一部では口論も勃発したものの、大きな混乱は起きなかった。

鉄の柵も準備され厳戒態勢
鉄の柵も準備され厳戒態勢

私が取材のためにニューヨークに到着したのは20日で、トランプ氏が予告した「逮捕」の前日だ。その日は、検察官事務所の周辺で、支持者による抗議活動も行われたが、集まったのは数十人程度で、メディアの方が多い状況だった。

トランプ支持者の集会はメディアの方が参加者より多い状態に
トランプ支持者の集会はメディアの方が参加者より多い状態に

トランプ氏の抗議に参加した男性は「トランプ氏の捜査はバイデン政権による嫌がらせだ。彼が逮捕されたら、2024年の大統領選挙は確実に当選するだろう」と語り、逮捕されればむしろ支持者の結束につながり、大統領当選に近づくとの見方を示した。一方で、抗議活動について聞いてみると「別に反対派と対立したいわけではないし、俺たちが暴れていると利用されることも不本意だ。トランプ氏が明日逮捕されたとしても、俺はここには来ないよ」と言って去って行った。

近くの公園では支持者と反対派が隣り合って活動
近くの公園では支持者と反対派が隣り合って活動

反対派は「トランプは嘘つき」の垂れ幕

トランプ氏の支持者の活動の一方で、反対派も連日周辺で活動を行っていたが、こちらも数人から10数人程度と少数派だった。

「トランプ氏は嘘つき」と書かれた巨大な垂れ幕で抗議する女性達
「トランプ氏は嘘つき」と書かれた巨大な垂れ幕で抗議する女性達

「トランプは常に嘘をつく」と書かれた巨大な垂れ幕を持って、トランプ氏に抗議していた女性は、「私たちはトランプを止める必要がある。トランプは法律の下で逮捕されるべきだ。正義が勝てば彼は逮捕され、その後、裁判にかけられる」とインタビューで語ってくれていたが、集まったのは3人だった。

トランプ反対派の女性は収監される様子を模したプラカードでアピール
トランプ反対派の女性は収監される様子を模したプラカードでアピール

道を通りがかる際に、トランプ支持者に呼応する人、反対の声を挙げる人などもいたものの、多くの人が物珍しそうに写真などを撮る一方で、この問題にはあまり興味を示していなかったようだ。

トランプ支持者の活動中に男性が罵声を浴びせて口論に
トランプ支持者の活動中に男性が罵声を浴びせて口論に

22日には検察官事務所の近くにある裁判所前に大勢の警察官や報道のカメラが集結したため、大きな動きが起きたのかと一時騒然となったが、アメリカのテレビ番組「Law & Order」の撮影で、人気のラッパーで俳優のアイス-T氏も姿を現したことが判明し、現地メディアのキャスターがそのことを中継でしゃべる一幕もあった。

起訴判断は近く行われるのか?

大統領経験者が起訴された前例はなく、メディアからも様々な声が挙がっている。

CNNニュースはニューヨークの審理について「起訴のニュースがないまま週が明けてしまった」としつつ、「月曜日に再開される予定」としてその推移を注視していく考えを示している。

一方で、NBCニュースは警察関係者の話として、「トランプ氏の事件を担当する裁判官と関係する検察官のための追加セキュリティ対策について協議が行われた」とし、仮にトランプ氏が起訴されれば、「法律機関や、その関係者に対する脅迫の可能性への対応など、長期的な問題に発展する」と警鐘も鳴らしている。

トランプ氏を巡っては“口止め料”問題以外でも捜査が続いている
トランプ氏を巡っては“口止め料”問題以外でも捜査が続いている

トランプ氏については、他にもホワイトハウスからの機密文書持ち出し、2021年に起きた議会襲撃事件の扇動についても捜査が進められている。24日にハーバード大学などによって発表された世論調査では、共和党の予備選挙でトランプ氏に投票すると答えた共和党支持者は、前月よりも4ポイント増えて50%で首位をキープし、24%となったフロリダ州のデサンティス知事をダブルスコア以上で上回った。

一方で、トランプ氏の「起訴」については、59%が「政治的な動機」だとの見方を示したものの、トランプ氏が起訴されれば大統領選に向けて「痛手になる」と答えた人は54%と「助力となる」と答えた46%を少し上回った。

仮に起訴されたとしても、トランプ氏の陣営は大統領選挙に向けた活動を継続するとして準備を進めているとされるが、この起訴を巡る動きが今週に新たな展開を見せるのか。検察官は起訴に踏み込むのか。野党・共和党からも激しい反発が起きている中で、アメリカ国内に大きな混乱をもたらすのか――。来年の大統領選挙に向けた動きにどうつながっていくのかも注目を集めている。

(FNNワシントン支局 中西孝介)

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(17枚)
中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。