3月22日から世界フィギュアスケート選手権が開幕する。

アイスダンスの村元哉中・高橋大輔組は、試合を重ね「3シーズン目に入ってやっと息が合ってきた」と話す。

2022年の世界選手権は16位だった。その2人が世界選手権で目指すもの、高橋が感じる「オペラ座の怪人」との縁、今大会の意気込みを聞いた。

トップ10入りは私たちにとっての金メダル

今シーズン、村元・高橋組は10月にアイスダンスとしては日本史上初の国際大会で優勝という快挙を成し遂げる。

12月の全日本選手権では結成3シーズン目にして初優勝。高橋は全日本でシングルとアイスダンスの2冠を達成した史上初の選手になった。

3シーズン目で全日本優勝を手にした村元・高橋組
3シーズン目で全日本優勝を手にした村元・高橋組
この記事の画像(11枚)

全日本後、村元は「優勝するのが目標だったので、3シーズン目でそれを達成できたのは本当にうれしい」と喜びを明かした。

2012年のシングルでの優勝を、高橋はこう振り返る。

「11年前はアイスダンスでまた真ん中に立つなんて全く想像していなかった。“人生何があるかわからないな”って思うんですけど、ただこのフィギュアスケートが自分自身をすごくつくってくれていて。

離れたい気持ちがあったときもあったけど、やっぱり自分の軸として“フィギュアスケートがある”と、年齢を重ねれば重ねるほど感じてきている」

2022年の全日本選手権
2022年の全日本選手権

その全日本で手にした世界選手権への切符。「トップ10に入ったら、私たちにとって金メダル」と話す村元に、高橋は「大変ですけどね」と苦笑する。

アイスダンスは北米やヨーロッパ勢が圧倒的な実力を誇る。その中で、日本の最高成績は2018年の村元哉中/クリス・リード組がマークした11位。

2人が目標に掲げる「トップ10」は、日本の歴史を変えることにもつながる。

「本当に世界の壁は高いので簡単に目指せることではない。良い演技をしてそれがつながればラッキー」と語る村元。

また「今年のタオルはピンクと紫。満開の桜になる光景が見られたら、本当にステキなんだろうな」と、会場にタオルが掲げられる様子を思い浮かべた。

ズエワコーチから見る2人の今

3月、拠点であるアメリカ・フロリダでは、氷上や陸上でも精力的に練習する2人の姿があった。

陸上での練習に取り組む村元・高橋組
陸上での練習に取り組む村元・高橋組

世界選手権に向けてより細部を磨くため、ミスが続くフリーのコレオリフトの形などの練習に取り組んでいた。細かいズレを修正することで、よりエレメンツに集中でき、呼吸も整うのだという。

村元は「コレオエレメンツはレベルがないので、自分たちの中で世界観をつくり上げたくて、そこは妥協したくない」と、高橋と何度も話し合いを重ねた。

氷上で常に話し合う2人
氷上で常に話し合う2人

マリーナ・ズエワコーチは、昨シーズンと比べて2人の関係に変化があったことに触れ、「氷上での関係が近づいた」と語る。

そんなコーチから見る2人は「現時点ではリズムダンスもフリーダンスも10点満点中8点。世界選手権までには10点になるでしょう。

彼らのプログラムには技術的な難しさや鋭さが含まれています。非常に高度なプログラムで、感情的な部分はよく表現されています」と評価した。

その上で「演技に安定感を持たせること。試合で両プログラムをミスなく滑る必要があります。彼らにはミスなく滑る実力を持っていますし、そう信じています」と課題を挙げた。

リフトの形を細かく調整していく2人
リフトの形を細かく調整していく2人

世界選手権に向けては「両方のプログラムを良い演技で終えて欲しい。良い演技をしたら上位に入ると思いますし、彼らは10位以内の実力を持つカップルです。その実力を大会で出す必要があり、その力を兼ね備えています。

彼らは感情表現力やスケート力が優れています。彼らのその要素と演技力を一つにまとめる必要があり、日本のファンのためにそれができると思っていますし、私も望んでいます」と期待を募らせた。

完璧なんてない、くらいのメンタルで

去年は「良い結果を残したいと自分たちを追い込んでいた」という2人。

2人で出場する2度目の世界選手権に、高橋は「世界選手権でいい状態を保つために、いま何をすべきかにフォーカスしている」と話した。

「トップ10」という世界の高い壁に挑戦していくために必要なことを「一瞬一瞬を怖がらずに楽しめるか。目標が高いと、どこかでちゃんとやらないと、と思っちゃう」と高橋。

拠点のフロリダでインタビューに応じてくれた2人
拠点のフロリダでインタビューに応じてくれた2人

良い演技をするために2人は、どうしても完璧を求めてしまうため、高橋は「完璧はもうムリだから。完璧だとしても完璧と思わないし、100%今までの練習で見たことないような演技だったと言われても自分たちの中で納得しない部分は絶対にあるから。

完璧なんてない、それぐらいのメンタルでちょうどいいのかな」と焦らず余裕を持つことが大切だとした。

今季のシーズンベストだけで見ると、出場選手の中で12番目。そのわずかな差が大きな壁だが、超えられない壁でもないはずだ。

「オペラ座の怪人」との縁

今シーズンのフリーダンス「オペラ座の怪人」は、仮面をとるポーズが印象的なプログラム。

曲かけ練習を行う2人
曲かけ練習を行う2人

このフリーダンスのポイントを、高橋は「2007年に日本であった世界選手権で初めてメダルを獲れたんですけど、そのときのフリーが『オペラ座の怪人』。

また(アイスダンスで)滑る。本当に何か意味があるのかなって言いたくなるような感じ」と話し、村元も「すごいよね」と驚いた。

2007年の世界選手権で銀メダルを獲得した高橋大輔
2007年の世界選手権で銀メダルを獲得した高橋大輔

2007年に日本で開催された世界選手権。男子シングルで出場した高橋は、フリーで「オペラ座の怪人」を滑り、日本男子シングル史上初めての銀メダルを獲得した。

あれから16年が経ち、世界選手権は再び日本で開催される。

高橋は「本当に“意味があったね”と言えるような世界選手権にしたい思いも強いので、最高の思い出にできたらと思う。

今後日本で開催される世界選手権には出ないと思うので(笑)。これがラストだと思うので、意味のあるものにしたい」と意気込んだ。

世界トップクラスのアイスダンスカップルも出場

10大会連続10回目のマディソン・チョーク/エヴァン・ベイツ組(アメリカ)。2022年の世界選手権は銅メダルに輝いている。

2011年に結成した12シーズンを迎えたカップル。2022年6月には婚約を発表し、公私ともにパートナーとなった。独特な世界観から繰り出される息の合った演技は引き込まれる物がある。

2月の四大陸選手権で優勝したチョーク/ベイツ組
2月の四大陸選手権で優勝したチョーク/ベイツ組

2022年の北京五輪でメダルを獲得したカップルが引退や休養を発表したことで、今季はどの大会も優勝を期待されながらの戦いだ。GPファイナルこそ優勝を譲ったが、2月の四大陸選手権では今季世界最高の220.81点で3度目の優勝を飾った。

勢いそのままに迎える10度目の世界選手権で、初めての金メダルに手が届くか。

同じく10大会連続10回目の出場となるパイパー・ギレス/ポール・ポワリエ組(カナダ)。2021年の世界選手権で銅メダルを獲得している。

チョーク/ベイツ組と同じく2011年結成で12シーズン目を迎えたカップル。今シーズンはGPシリーズで2連勝、GPファイナル初制覇と負けなしだ。

しかし、ギレスが虫垂炎の手術を受けたことで1月のカナダ選手権を欠席。どこまで状態を戻してくるかが、金メダル獲得へのカギになる。

3月22日から開幕の世界選手権。女子は坂本花織、三原舞依、渡辺倫果、男子は宇野昌磨、山本草太、友野一希、ペアは三浦璃来・木原龍一組、アイスダンスは村元哉中・高橋大輔組が出場する。

世界フィギュアスケート選手権2023
3月22日(水)から4夜連続で生中継
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/world/index.html

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班