東広島市で“超小型”の電気自動車(EV)の開発が進んでいる。最高時速60キロ、5時間充電で100キロの距離を走行。しかも維持費は軽自動車のなんと10分の1。業界に革命を起こす新たなモビリティとは…?

「車が大きすぎる」という視点

東広島市志和町にある小さな工場。ここで最新の電気自動車が作られていると聞き、五十川裕明記者が取材に訪れた。

五十川記者:
レトロでもあり、スタイリッシュ。やや不思議な形をしています。ゴルフ場のカートよりも小さい印象を受けるんですが、今、この車が大きな注目を集めているんです

「超小型EV」を取材する五十川記者
「超小型EV」を取材する五十川記者
この記事の画像(17枚)

1人分の運転席だけを搭載した超小型電気自動車。2025年の量産化を目指し、東広島市のスタートアップ企業「KGモーターズ」が開発を進めている。

KGモーターズ・楠一成 社長:
大手自動車メーカーにあまり見られないような隙間の部分で、われわれが活躍していけたら盛り上がっていくのかなって考えています

小さいころから乗り物が大好きだった社長の楠一成さん(40)。自動車部品販売会社を経営し、整備士の資格は持っているが、車を作る知識は一切なかった。

KGモーターズ・楠一成 社長:
私は呉市出身です。呉の細い道を、おばちゃんがミラーをたたんでタイヤを半分を落としながら走るのを見てきて、明らかに「車が大きすぎる」というのはずっと思っていました。いつか1人乗りの乗り物があったらいいなと漠然と考えていたんです

開発チームは人気YouTuber

楠さんの思いに賛同し集まったのは、SNS上のやり取りでつながった4人とマスコット犬の「ボス」1匹。

KGモーターズ・楠一成 社長:
正直、こういう人たちが集まったのはものすごく運がいいと感じています。個人的には最強のチームだと思っています

メンバー全員が車作りの素人。元楽天の社員で、マーケティングを担当する横山文洋さん(43)はこう話す。

KGモーターズ・横山文洋 取締役:
そもそも車にあまり興味がない。そして今なお、本音を言うとあまり興味がない。僕はそういう立場なんですよ

(Q:なぜ楠さんと一緒に電気自動車を作ろうと思ったのか?)
KGモーターズ・横山文洋 取締役:
まず第一に、くっすん(楠さん)のやることに魅力を感じたからです

ゼロからのスタート。右も左もわからない車づくりを現実のものにしたのは、YouTubeによる情報発信だった。2021年11月のプロジェクト発足から1年あまり。腹を割った議論の様子や車体の製造工程もすべて見せている。

メンバーの一員になれたようなリアルな目線が多くの人の心をつかみ、YouTubeのチャンネル登録者数は19万2000人を超えた。

YouTubeのチャンネル登録者数は2月28日時点で19万2000人
YouTubeのチャンネル登録者数は2月28日時点で19万2000人

製造工程の工夫で“低価格EV”誕生

車体の板金は東広島市内の試作メーカーが仕上げ、組み立てや塗装はメンバーの手作業。

情報発信を続ける中で、地元企業だけでなく全国の専門家からも注目されるようになった。そして2023年1月中旬、待ちに待ったコンセプトカーが完成。

五十川記者:
運転席に座ってみたいと思います。1人乗りの車のフォルムが新鮮です。超小型モビリティということですが、乗ってみると視界が広いですね。自分で操作するという感覚が高まります

超小型EVの運転席に座る五十川記者
超小型EVの運転席に座る五十川記者

この超小型電気自動車のコンセプトは軽自動車よりも手軽な「次世代の原付ミニカー」。通勤など短い移動の需要を見込み、販売価格は100万円を切る計画だ。その製造工程に“コストを抑える工夫”があった。

KGモーターズ・楠一成 社長:
あえて、車のフロント部分と後ろの部分の形を対称にしています。自動車は型を作って製造しますので「前後対称」にすることでコストを約半分近くまで下げました。車体の前と後ろを1つの型で作れ、ドアも左右共通で作れるように工夫しました

“車を操る”感覚を楽しむ

気になるのは走り心地。車内に防音材がなくても走行音は静かで、アクセルを優しく踏み込むと電動モーターで一気に加速する。

KGモーターズ・楠一成 社長:
1人乗りでなおかつ運転席の位置がセンターの車ってほとんどないので、乗っていて楽しい。操っている感覚を味わえる乗り物を目指していて、その点は普通の車とは全然違うかなと思います

KGモーターズ・楠一成 社長
KGモーターズ・楠一成 社長

2023年1月、熊野町の自動車学校内で初めて走行テストを実施。大型バイク用のS字カーブも持ち味の小回りの良さで軽快に走った。

KGモーターズ・楠一成 社長:
一発目にしては相当「上出来」なんじゃないかと思う。マジで違和感ない!

超小型EVの走行テストをする楠社長
超小型EVの走行テストをする楠社長

違和感なく快適な走り心地に、試乗した楠さんは満面の笑み。メンバーとその喜びを分かち合った。

2025年の量産化に向けて突き進む

この超小型電気自動車の最高時速は60キロ、家庭用のコンセントで5時間充電すると100キロの距離を走ることができる。法律上は原付ミニカー規格のため地球環境に優しいだけでなく、車検も不要で年間の維持費は軽乗用車と比べ約10分の1になると試算している。

KGモーターズ・楠一成 社長:
自分たちがやっていることを信じてやり続けて、ようやく形にした瞬間に「あのとき言っていたことはそういうことだったんだ」と理解していただける。信用してもらうためにやはり積み重ねていかないといけないと考えています

KGモーターズ・楠一成 社長
KGモーターズ・楠一成 社長

YouTuberから、まさに新進気鋭の自動車メーカーへ。2025年の量産化を目標にKGモーターズは独自の路線を突き進んでいる。

SNSでつながった4人と1匹が、新進気鋭の自動車メーカーに
SNSでつながった4人と1匹が、新進気鋭の自動車メーカーに

運転席だけの超小型モビリティ。これまでの電気自動車と比べ、価格面と性能面で大きく異なる。“低炭素社会の選択肢の一つ”として、東広島市から旋風が巻き起こりそうだ。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
テレビ新広島

広島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。