脇の甘さ露呈で早くもピンチ?
2年後の大統領選に出馬宣言をしたばかりのトランプ前米大統領が、また脇の甘さを露呈して選挙戦の出足につまづいた。
感謝祭の休日を控えた22日、トランプ前大統領はフロリダ州マール・ア・ラーゴの邸宅に友人を招いて七面鳥料理などでもてなしたが、その出席者の名前がもれ伝わってくると新たなスキャンダルとして批判を浴びることになった。
この記事の画像(7枚)招待客に“差別主義者”ズラリ
その出席者とは、以前から親交のあったラップ歌手のカニエ・ウエスト(現在イエに改名)氏とラジオなどのコメンテーターのニック・フエンテス氏、それにジャーナリストのマイロ・ヤノプルス氏の3人で、肩書だけは問題ない顔ぶれに見えるがいずれも超保守派の反ユダヤ主義者として有名人だ。
ウエスト氏は最近も「ユダヤ人と一戦交えるぞ」とツイートして「反ユダヤ主義者」と非難され、ツイッター社からアカウントを一時停止処分されていた最中のことだった。
フェンテス氏はユダヤ人がナチスに大量虐殺されたホロコーストを否定し「あれはクッキーを焼いたようなものだ」と発言したこともある。また「白人が米国国家の中核でなければならない」と主張する白人至上主義者としても知られる。
さらにヤノプルス氏も極右の論客で、超保守派のネットメディア「ブライトバート・ニュース」の編集者を務めたことがある。
「白人至上主義」「反ユダヤ主義」疑惑
トランプ前大統領自身は反対派からよく「白人至上主義者」と攻撃される。また娘のイバンカさんが結婚でユダヤ教に改宗しても「私ほどイスラエルのために尽くした米大統領はいないのに、ユダヤ教徒よりも福音派(のキリスト教徒)の方が感謝してくれる」などとSNS上で発言し「反ユダヤ主義者ではないのか」と疑われてきた。
そこで今回の会食の出席者の名前が伝わると「トランプの正体見たり」と批判の声が一斉に上がり始めた。
「反ユダヤ主義者、ユダヤ人嫌いでホロコーストを否認する輩と夕食を共にしたトランプ前大統領を糾弾し謝罪を求める」
ホロコーストの生き残りの人たちを中心に組織されている米国の「イスラエル遺産基金」はこういう声明を発表した。
ホワイトハウスも「偏見と憎悪、反ユダヤ主義は、マール・ア・ラーゴを含む米国のどこにも存在する余地はない」と名指しこそ避けながらトランプ前大統領を批判した。
身内の共和党からも批判の声
非難の声は共和党内からも巻き起こり、上院共和党トップのミッチ・マコネル院内総務は「反ユダヤ主義や白人至上主義を提唱する者と会食するような人物は、米国の大統領に選出される資格はないと私は思う」と記者団に語った。
トランプ前大統領は次回2024年の大統領選への出馬を11月15日に宣言したばかりだった。資金集めや選対組織作りを手がけ始めた矢先に巻き起こった今回の「会食ゲート」は、その出足をくじいただけでなく、今後の選挙戦で対立候補からこの問題で追及されるのは明らかだ。マコネル院内総務の言うように大統領への道のりの大きな障害にもなりそうだ。
そうでなくともトランプ前大統領は、昨年1月6日の議会乱入事件を扇動した疑いや極秘文書を自宅に持ち帰った容疑で刑事訴追を迫られている。そのいずれの問題も前大統領の後先を考えない粗雑な対応や不注意が背景にあると考えられる。
今回もトランプ前大統領は、ウエスト氏に頼まれて会食をしただけで、他の二人が誰なのかもに知らなかったと弁明している。しかしそれはウエスト氏が「反ユダヤ主義者」とマスコミに袋叩きになっている最中のことで、ウェスト氏とその友人を招けば問題化することは目に見えていたはずだ。
言ってみれば「脇が甘い」わけで、トランプ前大統領はまたその弱みを露呈して自らピンチを招いてしまったようだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】