太陽光発電など再生可能エネルギーの導入が進む中、海の上での風力発電「洋上風力発電」が注目を集めている。導入による経済効果に沸く地域がある一方、環境など電力以外の問題で導入に慎重な地域もある。

進む「洋上風力発電」全国トップクラスの“風力発電地帯”の秋田

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全国トップクラスの風力発電地帯、秋田県。秋田港沿いには300を超える風車が並ぶ。発電量も理論上は県内の全世帯分をまかなえるという(最大64万8000kW発電)。

そんな“風車の街・秋田”だが、さらに…。

秋田洋上風力発電の岡垣啓司社長:
今こちらにありますのが、能代港で設置済みの風車、風力発電所となります

海の上にも風車が…。いま、注目を集める「洋上風力発電」だ。

岡垣啓司社長:
洋上風力のメリットとしては、やはり強い風が安定的に吹くこと

風力発電のカギとなる、“安定した強い風”が得られる海の上。その条件にあう秋田港と能代港の沖合では、今はまだ稼働していないが、羽根の長さ50メートル、陸上と比べ1.5倍もの発電が可能な巨大な風車の建設が進んでいる。

2022年12月には、2か所合わせて33基の風車が並び、国内最大級の洋上風力発電所が運転を開始する予定だ。

2030年に原発10基分の風力発電目指す 洋上風力発電は「切り札」

2020年度の、日本の再生可能エネルギーの発電比率は19%。政府は2030年には、これを36%から38%に引き上げ、主力電源とすることを目標としている。

中でも風力発電は0.9%から、5%(原発10基分に相当)に増やす方針だ。

岡垣啓司社長:
再エネの主力電源化というのは、気候変動問題の解決のためには避けられないと考えていますので、その切り札が洋上風力。四方を海に囲まれていますので、日本で洋上風力が将来的には基幹電源となるように。

安定した強い風が得られる、海に囲まれた“島国ニッポン”。洋上風力発電は、その切り札として期待がかかっている。

秋田県の試算で経済波及効果3800億円超…水中ドローン教室始めた企業も

水の中を進んでいく黄色い物体。

スマートフォンに映像を送ってくる、「水中ドローン」だ。

操作するのは、秋田県由利本荘市にある建設会社の従業員たち。

高橋秋和建設の斎藤弘樹常務:
潜っていって、水の中にある施設を異常・変状があるかどうかの点検ですね

洋上風車の稼働で必須となる、海中の土台部分や海底に敷く送電ケーブルの保守・点検をしている。

この会社では、そこに「水中ドローン」を活用できると目をつけ、社員全員で操縦士の資格を取得しただけでなく、2022年4月には敷地にプールまで建設した。一般向けの「水中ドローンスクール」を開講するなど、飛び込んできた「ビジネスチャンス」に意気揚々だ。

斎藤弘樹常務:
(洋上風力運転開始に向けて)とにかく実績積みたいなと思っています。「地元」っていうところは外せないと思うので

県の試算では、秋田港・能代港などの洋上風力の導入によって生まれる雇用は、約3万7000人。経済波及効果は3800億円を超えるとしている。

「売電益で橋を」…離島の計画はとん挫 反対した漁師たちの不安

洋上風力発電には、電力以外の魅力もある。7年前の2015年、計画が持ち上がるも、白紙となった三重県鳥羽市の答志島(とうしじま)。穏やかで美しい海に面した離島だ。

鳥羽市全域などの漁協の組合長、永富洋一さん(79)。

鳥羽磯部漁協の組合長 永富洋一さん:
この5000~6000メートル沖にこう並らんどったら「いい景色やな」って思わへん?風車が。私がいたときにやっとったら、ずらっと並らんどるわ、40基

島の沖合に風車の建設が計画された当時、その中心にいた。

永富洋一組合長:
将来また、そういうことがあったらあかんと思って、ちゃんと残してある。(建設予定地は)このあたりや。(沖から)だいたい3マイル

永富洋一組合長:
こういう橋の構造だった。風力(発電所)を建てて、その売電益で橋を架けようかと

人口2000人弱の答志島。主な産業の1つは漁業。

しかし離島のため、水揚げした魚は本土への輸送が必要だ。夜間の救急患者も本土への搬送が必要。

洋上風力発電を導入し、電気を売った利益で“本土との橋”を架けることで、長年の課題を一気に解決する計画だった。

しかし、島の一部の漁師は頑なに反対した。

永富洋一組合長:
島の中で反対する人間が、反対運動起こしてさ…。ほいで、おジャンになったっちゅうか、フタしたわけや。「磯場を、漁場を悪くする」って

漁師「子供のために橋はほしい」…島の未来と漁業への不安で葛藤する離島

懸念される海への影響…。2010年ごろから洋上風力を導入している長崎県の五島列島では、これまでのところ漁業への大きな悪影響は確認されていない。

最近では風車の土台部分が漁礁となっている例も見つかっている。秋田県での導入の際にも、漁師らへの説明には五島列島の事例が紹介されたという。

三重県は2022年度、洋上風力の実現が可能かを調査する事業者を募集。五島列島を職員が視察するなど、導入に向けた動きが活発化していて、答志島の沖合も有力な候補地とみられている。

この島の未来と漁業への不安との間で、漁師たちは葛藤している。

漁師の男性(30代):
魚も橋かかっとると、もっと売り場も増えたりするやろうけど…。賛否両論ありますけど、とりあえず子供らのために橋はほしいですね

漁師の男性(50代):
風力の柱が建つとさ、漁礁的な感じになってまた魚が集まるかもわからん。(一方で)年配の漁師さんらはな、やっぱり抵抗あると思う。そんな洋上に、自分らの漁場に、大きな風力のあんなんが建てばさ、船で走るんも邪魔で漁場とられるって。どっちの気持ちもわかるしさ。もしやるとなったら、とことん答志島の漁師さん、答志島で話しあって決めんといかんけど…

永富洋一組合長:
今の流れはな、今の世界情勢の中では自然な流れやと思う。当時は早かったけど。今、もし若いもんがまたやろうとしたなら、そういうアドバイスはしたいと思う

2022年9月16日放送
(東海テレビ)

東海テレビ
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