岸田政権の発足から10月4日で1年を迎えた。政権が1年で成し遂げたことは、また支持率急落の背景にある課題とは何か。BSフジLIVE「プライムニュース」では識者を迎え、岸田政権の1年を徹底分析した。

支持率の低下で、国対や官邸体制など弱点が浮き彫りに

「事態に向き合ってきた」と述べた岸田首相(10月4日)
「事態に向き合ってきた」と述べた岸田首相(10月4日)
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新美有加キャスター:
岸田政権1年の評価と課題について。政権発足1年を迎えた岸田総理は記者の質問に答え、「数十年に一度と言っていい事態に向き合ってきた」と述べたが、評価は。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
参院選まではコロナ対策をやっている姿を示し、ウクライナへ侵攻したロシアに対して非常に厳しい姿勢を示し、高い評価につながった。しかし参院選のために、嫌がられる政策は打たず先延ばしにした。参院選後、原発再稼働などを打ち出したが、国葬と旧統一教会の問題で政権がガタガタに。政権が弱くなると、好調時に見えなかった国会対策の問題や官邸の体制などの弱点が見える。

反町理キャスター:
1年間、国対の問題が表面化しなかったのはなぜか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
自民党の国対は、立憲民主党といかに結ぶか。立憲の国対委員長が馬淵澄夫さんから安住淳さんに変わった。馬淵さん時代の副委員長は、自民は御法川信英さん、立憲は寺田学さんで、同じ高校出身であり非常に仲が良く、スムーズに動いた。それが安住さんに変わり、話し合いが成り立たなくなっている。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
参院選と安倍さんの殺害事件が分水嶺だった。それ以前が順風満帆だったのは、コロナでの死者数がかなり減り、社会的な行動制限がほぼなくなって国民の不満がかなり解き放たれこと。また政策の是非は別に、世論調査でも安倍・菅路線の転換、穏やかな政治が期待されていた。加えてロシアのウクライナ侵攻。外の有事は関係国のリーダーの追い風になる。岸田さんは特に何かしたわけでもないが、これらの追い風があった。反転したのは、やはり旧統一教会の問題を過小評価したこと。また国葬について、野党や国会に諮るなどをしなかった判断の誤り。

御厨貴 東京大学名誉教授:
以前の政権は緊張感が高まる政治だった。岸田政権になり、少しゆっくり先を見ていきたいという多くの国民感情があり、「ここで一息」で1年間やれてしまった。岸田さんは安倍さんを対立軸として関係性を保ちながらやっていたが、今後は自分自身で自分の立ち位置を決めなければいけない。国葬についても、党内対応と弔問外交を打ち出すことでうまくいくと思っていた。安倍さんがずっと勝ってきたものだから、党内の処理さえすればいいと油断した。

「最も近いのは木原官房副長官で、秘書官では嶋田さんが中心」と政治ジャーナリスト・田﨑史郎氏
「最も近いのは木原官房副長官で、秘書官では嶋田さんが中心」と政治ジャーナリスト・田﨑史郎氏

新美有加キャスター:
官邸で岸田総理を支える側近は、松野博一官房長官と木原誠二氏ら3人の官房副長官、5人の首相補佐官、嶋田隆首席秘書官を筆頭に8人の秘書官や内閣情報官など。側近との関係は。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
岸田さんに最も近いのは木原官房副長官で、秘書官では嶋田さんが中心。側近はこの2人で成り立っている。一方、松野官房長官がどうも大きな動きをしていないという見方が多く、そこが体制の弱さになっているかも。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
松野さんは清和会(安倍派)の中で高木国対委員長と極めて親しい。なぜ国対、国会との関係がうまくいかないのかが最大の謎。早まった国葬の決断でも、一拍おいて野党とも話してみようという動きの形跡がない。みんな森の中に入ってしまい、森を上から見ている人がいないイメージ。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
8月10日の人事で官房長官と国対委員長を変えなかったこと、岸田さんは失敗したと思っているのでは。 

政策の中身も骨太の部分も見えない…熱量は取り戻せるか

新美有加キャスター:
就任当時に岸田総理が掲げたスローガンは、新しい資本主義の実現、成長と分配の好循環、デジタル田園都市国家構想、新時代リアリズム外交。1年経っても中身・具体像が見えないという批判もある。

御厨貴 東京大学名誉教授:
宏池会の癖で、でかいスローガンを出すのは得意だが、きちんと肉付けする人をあてていない。官僚に任せれば細かい経済政策は出てくるが、それではダメ。安倍さんのときのように全体で「やってる感」を、つまり躍動感があるように持っていかなくちゃいけなかった。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
安倍さんは、所信表明演説や施政方針演説のたびに見出しになる言葉をつくるのがうまかった。そういう能力が岸田政権は弱い。原発の再稼働や、今度は電力料金について前例のない思い切ったものを出すなど、やっていることはやっている。だが打ち出し方の問題で、それが政権の成果になってきていない。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員
久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
安倍さんの時代は、賛否両論あるが、例えば「戦後レジームからの脱却」と言って、安保法制、共謀罪、憲法改正など常に旗として掲げていた。この背骨があった上で、1億総活躍、女性が輝く社会などと言っていた。岸田さんにはこの骨太の部分が見えない。

反町理キャスター:
岸田総理は「初心に帰って」と発言。2021年8月の総裁選出馬表明時のような熱量に戻れるのか。

御厨貴 東京大学名誉教授:
逆に、ここまで来たらもっと追い込まれたほうが力が出るかも。それをもう一度乗り切る熱量を持ち得たら、総理大臣としてもうひとつ化けるでしょう。このままズルズルいけば、ジリ貧になっていく感じがする。

安倍氏亡き後の政局、岸田おろしや解散総選挙のタイミングは

御厨貴 東京大学名誉教授
御厨貴 東京大学名誉教授

新美有加キャスター:
安倍元総理が亡くなったことが、岸田政権、岸田総理、自民党に与える影響については。

御厨貴 東京大学名誉教授:
岸田さんにとって最大のライバルが安倍さんだったが、先ほど述べたようにうまい関係だった。岸田さんに対し「安倍さんが生きていたらこうやるよ」という御託宣が出てくる可能性がある。生身の安倍さんが相手なら交渉もできるが、そうでない人たちが色々言うようになれば、それをどう乗り越えていくか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
安倍さんがいたときは、岸田さん・安倍さんそれぞれを中心とした円がある楕円の構造だった。今、岸田さんは保守への気遣いなど安倍さんの部分もカバーしなければいけない。その形は少しずつ見えている。政調会長に萩生田光一さん、選対委員長は森山裕さん。岸田さんの最近の相談相手はこの2人と見える。安倍さん亡き後の党内秩序をつくるプロセス。

反町理キャスター:
その新しい秩序による反転上昇の可能性もあるが、間に合わなければ落ちていくイメージ? 

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
この政権は、まだまだ潰れる感じはしない。不支持が支持率を上回り、旧統一教会の問題などに焦って手を打とうとしたのが8月下旬から9月上旬だったが、今はある種居直って、着実にやれることを、という状況。党内を見ても「岸田おろし」は起きていない。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
菅前総理も岸田さんを支えるような言動。今、自民党の中はけっこう一枚岩。だがこれはガチガチではなく、一枚岩っぽく見えるということ。その理由は、まず次の総裁選や衆議院の任期まで選挙がないこと。これが岸田さんの最大の武器。もうひとつは、それら選挙までの間に恐らく派閥の代替わりなど、清和会を中心に再編が進む。つまり派閥に遠心力が働いていること。岸田さんを下ろす意味がない。

反町理キャスター:
党内で岸田さんを支えている基盤は、今のところ崩れず変わらない?

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
少なくともこれから1年間ぐらいは。変わる要因として安倍派の会長選びがあるが、これも1年後ぐらいに決まる感じ。ポイントは2023年9月に行われる内閣改造・自民党の定期異動。茂木幹事長や国対委員長をどうするか。その頃からガタガタしていくのでは。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
2024年の総裁選は1年後の衆議院選挙をにらんで行われるから、総裁選が事実上のリミットになる。ダメそうかどうかが決まるのは、実はその1年ぐらい前。つまり2023年9月の人事を成功させ支持率も上がる形でなければ、次の衆院選は岸田さんで行けなくなる。2023年5月の広島サミット後に復活しなければレームダックになっていってしまう。そうなれば当然、派閥の合従連衡、世代交代、清和会の分裂などが起こり、次の権力者を生み出していくことになる。

反町理キャスター:
岸田政権にとって勝負となるタイミングは。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
2023年9月の内閣改造・自民党役員人事から1年ぐらいの間に、岸田さんは解散総選挙を打つのでは。このまま解散せず総裁選になれば、再選の可能性はそんなに高くない。岸田さんは非常に権力への執着が強い。ジリ貧で待つことはしないのでは。

反町理キャスター:
一方、野党は。自民党は半分近くの議員に旧統一教会と接点があったということだが、内閣支持率は落ちても自民党の支持率が下がっていない。野党は一桁で、立憲の支持率は微減。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
朝日新聞の世論調査にはっきり出ているが、野党に「期待できない」が81%。やはりまだ自公政権に対する安心感、支持があるのでは。

御厨貴 東京大学名誉教授:
ほとんど野党がいないのと同じような状況。国民の多くが文句を言い、野党に喝采を浴びせながら、底のところではやはり自民党政権だから任せておけるという安心感がある。その安心感のもとでまた野党が騒いでいる、という状況に見える。

(BSフジLIVE「プライムニュース」10月4日放送)