日本最大級のクレーンゲーム店。
そこでひときわ目を引いたのは、『5ヶ月賞味期限切れ』の食品が入ったクレーンゲーム、その名も「もったいないキャッチャー」だ。
フードロス解消に、エンタメ要素を盛り込んだ、新しい取り組みを取材した。

埼玉県八潮市にある「エブリデイとってき屋 東京本店」。
450台のクレーンゲームが並ぶ店内は、平日にもかかわらず、大人から子供まで多くの人が訪れ、豊富なジャンルのクレーンゲームが楽しまれていた。

その中で、ひときわ目を引いたのが「もったいないキャッチャー」というクレーンゲーム。
台を見て、まず目に入ってくるのが「○○カ月 賞味期限切れ」という文字だった。

景品の内容は、有名な菓子類から非常用食まで、多種多様。
それにしても賞味期限が“迫っている”ものはよく見かけるが、既に“切れている”ものは見慣れない。
「世に貢献したい」という想い
一体どういうことなのか。
仕入れを担当している五十嵐さんに話を聞くと、返ってきたのは「世に貢献したい」という強い想いだった。

昨今、日本でも頻繁に取り上げられている“フードロス”の問題。
「まだ食べられる食糧が捨てられる」、更にそれが環境にも悪影響を与えてしまう。
実際、本来食べられるにもかかわらず捨てられている食品は、年間で522万トン(2020年度推計値 出典:農林水産省・環境省)という驚きの量だ。
地球を救うための、新しい発想
コロナ禍、仕入れをしている五十嵐さんが直面したのは、普段の飲食や正月のおせちなどの需要が減り、「売れない」「食糧が余ってしまう」という飲食業界の現状だったという。

そこで、「まだ食べられるのに捨てられてしまうもの」を少しでも世の中から削減し、SDGsに貢献できるのではと始めたのが、この「もったいないキャッチャー」。
関心が高まってきている社会問題だが、それをクレーンゲームに取り入れたというのは、他にも見ない、新しい発想だ。
手ごたえ十分 「ガッツリ取れる」工夫
ただ利用者の目線に立つと、気になる点がある。
1つ目は、ゲーム代。
1プレイ100円だが、通常の賞味期限“内”の景品のクレーンゲームでも、100円で遊べるものはある。全く同じ条件だったら、誰もプレイしようとしない。

そこで店側は、子供や初心者などでも景品を取りやすい工夫をした。
通常のクレーンゲームで誰もが一度は経験する「取れそうで取れない、もどかしい感覚」。
しかし「もったいないキャッチャー」では、1度のプレイで複数個の景品を掴めるような工夫をしているそうだ。
今では「100円でガッツリ取りたい」という固定客もいるとのこと。
「賞味期限切れ」は本当に安全なのか
そして2つ目の懸念は、そもそも本当に食べても大丈夫なのか?
開始当初は、記載を見ずに、後になって「こんなに賞味期限が切れている」と問い合わせがあったという。
しかし今は表示やポップアップをより大きくし明確にしているため、そういった混乱を防いでいる。だから一際目立っていたのだ。
「賞味期限」と「消費期限」の違いは、以下の通りだ。
● 賞味期限…おいしく食べることができる期限
● 消費期限…期限を過ぎたら食べない方が良い期限
(消費者庁HPより)

「もったいないキャッチャー」にも、その違いを説明するポスターが大きく貼られている。
「消費期限」の目安
商品には、「賞味期限」しか書かれていない物がほとんどだが、それぞれ食べ物の加工のされ方・種類によって異なる「消費期限の目安」があるそうだ。
これは一律ではなく、『保存状態が良い』ことを前提に、油を使っているスナック菓子などは“賞味”から6カ月まで、乾燥物だと10カ月、非常用保存食は2年間など、各商品や仕入先の業者によって、基準があるという。
またクレーンゲームの中は熱を持つため、生ものや飲料・ゼリーなどは扱わないようにしている。

こうした目安に合わせた上で、さらに社員が試食をし、その後も健康上問題がないと品質を確認して仕入れ、その後の管理も随時スタッフがきめ細やかに行っているという。
賞味期限切れでも、消費率100%
そして注目なのが、仕入れた「賞味期限切れ商品」は消費率100%ということ。
「ここで廃棄させてしまうと貢献にならない」と、繁忙期などを踏まえて仕入れの量を調整するなど、手元・在庫に残った状態で消費期限を迎えたことはないという。
2021年7月から始めたというこのフードロス削減への取り組み。
五十嵐さん自身も、以前は「切れたら捨てる」という習慣があったが、この取り組みを通じて意識が高まり、フードロスという問題や活動自体の認知度を上げる役割を感じているという。
「もったいない」という意識、どこまで。
ここでの利益は考えず、安い価格で提供し、少しでも「もったいない」「まだまだ食べられる」と体感してもらうことで、地球に、そして作っている人にも“貢献したい” 。
そんな想いが強く伝わってきた。

SGDsの一環としてただ賞味期限切れ食品を売るのではなく、クレーンゲームというエンタメ要素も盛り込んだことで「フードロス問題」がグッと近く感じられた。
“消費者”と“もったいないという意識”が縮まり、一人ひとりにとって『自分ゴト』に捉える初めの一歩になればー。
(取材・執筆:フジテレビアナウンサー小澤陽子)