北京オリンピックの激闘からわずか1カ月。今シーズンの締めくくりとなる世界フィギュアスケート選手権が3月23日から始まり、4年に一度の物語がすべて完結する。

銅メダリストの宇野昌磨は、初の世界一を目指し、最強の五輪王者ネイサン・チェンらと表彰台の頂点を争う。

世界選手権6度目の出場となる宇野は、平昌オリンピックで銀メダルを獲得した後、コーチ不在の状況や、GPシリーズで初の表彰台落ちなど数々の挫折を味わい、一時期「スケートから離れた方がいいのか」とまで考えるほどになったという。

その苦しみを乗りこえ、掴み取った2大会連続のオリンピックメダル。宇野の力となったのは、コーチとの出会いだった。

平昌オリンピック以降の重圧と不振

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2大会連続でオリンピックメダリストとなった、宇野昌磨、24歳。

北京オリンピックで表彰台に登った直後のインタビューで、銀メダルを獲得した平昌オリンピックからの4年間は、スケート人生で最も追い込まれた険しき道のりだったと語っていた。

「前回は全てがうまくいっている勢いのまま取れたオリンピックでの銀メダルでした。ですが、その後の4年間、たくさんの失敗をし、再びこの場に戻ってこれて、そしてしっかり自分の力で勝ち取ったこの銅メダルというものに、平昌オリンピックよりも嬉しさを感じます」

これまで宇野は「オリンピックは特別な試合じゃない」と幾度も口にしてきたが、徐々に「メダルの重さ」がのしかかってきた。

「練習も楽しいものではなく、どちらかというと自分を追い込んで練習するように。平昌オリンピックが終わってから『やらなきゃ、やらなきゃ』って感じていたので」

2019年3月の世界選手権で表彰台を逃した…

銀メダルという成績に縛られ、翌シーズン、2019年の世界選手権では4位と表彰台を逃し、その後、所属していたクラブから独り立ちをして、コーチ不在で進み出した。

全ての責任を一身に背負い込んだ2019年のGPフランス大会では、シニア転向後最低成績となる8位と、無残な結果に終わった。

「一度本当にスケートを離れるべきなのかなと考えてしまった」

宇野はスケート靴を脱ぐことも考えていた。

信じてもらえることで感じる喜び

2019年末、どん底にいた宇野に差し込んだ希望の光は、2005年・2006年の世界選手権王者、ステファン・ランビエールコーチとの出会いだった。

ランビエールコーチは、宇野を見るようになった直後のインタビューで“火の玉”という表現をしていた。

「宇野は“火の玉”ですね。勢いを増す“火の玉”です。彼の火の玉が自ら勢いを増すよう、チャレンジしていくことが大切なのです」 

一度消えかけた宇野の心の火を、再び熱く燃やしたランビエールコーチの言葉。2019年の全日本選手権で優勝し勢いを取り戻すと、翌年は2位。羽生結弦に完敗した2020年だったが、その演技を見て「もっと、うまくなりてぇ!」と、“成長”を強く意識するようになった。

ランビエールコーチは最初から、宇野昌磨を信じていたと語る。

「宇野は世界チャンピオンへステップアップできる。彼にはそのポテンシャルがあるので、必ず実現できます」

昨年の世界選手権で4位となった宇野は、ランビエールコーチに嬉しい言葉を掛けられたという。

「昨年の世界選手権後、ネイサン・チェンが演技を終えた後に(ランビエールコーチが)『君が彼のように世界一になるには、自分にとって何が必要だと思う?』と声を掛けていただいて。

その時は『ジャンプかな』と答えたのですが、僕の答えた内容よりも、そういう言葉を掛けていただいて、僕がまだまだもっと上に行けると信じてくれているということが、『もっと上手くなりたいな』という原動力になりました」

信じてもらえることの嬉しさが、宇野をさらに強くした。

「今までで一番仕上がっているシーズン」

4年ぶりに立ったオリンピックの舞台で、自身最高難度となる5本の4回転ジャンプに挑んだ宇野。ランビエールコーチが初めて競技用に振り付けたボレロで、銅メダルを掴み取った。

そのキスアンドクライでは、こんな会話があったという。

「オリンピックのステップを見て、『あれは僕の振り付けしたフリーじゃないよ』って言われた(笑)。 (ジャンプの)乱れが多かったのは、間違いなく緊張だったと思いますし、ジャンプに意識が行き過ぎて、(ステップを)やり残してます。何一ついいものじゃなかったと思います」

北京でのやり残しがある。フリーのボレロを完成させたい。

「僕が成し遂げたいことというよりも、このプログラムを作ってくれたステファンコーチが満足する演技をしたい。『よく頑張った、良かったよ』って言っていただける演技をするっていうのが一番ですね」

帰国から12日後、宇野の姿は既にリンクの上にあった

オリンピックが終わってからすぐに、次の練習に向けてどうしたいかを考えたという宇野。

「今年が本当にもう、僕が今までスケートやってきた中で一番仕上がっているシーズンだと思いますし、ただこれが一番の仕上がりだとは思わないんです。成長する1年目、スタートにやっと立てたっていう感じなので。まだまだ、もっともっと上手くなれると僕は思うので、自分に期待はしていますね。

世界選手権に向けても、今年1年やってきたことが全部今の自分に詰まっていると思いますし、多分今年で“一番”に近い仕上がりで試合に挑むことができるんじゃないかなと。自分をより良く見せるのではなく、今の自分を見せにいく、そして今の自分を自分で知って、また成長の糧にしたいとは思っています」

インタビューで繰り返し“成長”という言葉を口にした宇野。北京オリンピックで銀メダルを獲得した鍵山優真の存在で「もっと上手くなりたい」と強く思ったという。リスクを伴うダイナミックな振り付けの難易度が高いフリープログラムだが、「挑戦をしないと成長もない。挑戦し続けて、結果よりも自分の成長に賭けたい」と考えている。

貪欲に“成長”を口にする宇野昌磨の、今シーズン最後の挑戦がまもなく始まる。

世界フィギュアスケート選手権
フジテレビ系列で3月23日(水)から4夜連続生中継(一部地域を除く)
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/world/index.html