北京オリンピックで初めて名前を覚えた⽅も多いだろう。
三浦璃来(りく)と木原龍一(りゅういち)が組む、通称“りくりゅうペア”。

団体戦ではショート・フリー共に会心の演技を見せ、特にフリーでは全体2位の得点をマーク。
日本初の銅メダル獲得に大きく貢献した。

さらにその後の個人種目でも、フリーとトータルスコアで自己ベストを更新。日本代表で過去最高の7位入賞を達成した。

もはや意外に映るかも知れないが、かつて全日本フィギュアで出場組数が「0」にまで陥ったのが、2人が活躍するペア競技だ。シングルに比べ、練習にはより広いスペースが必要となり、その環境を確保するには困難がつきまとう。

国内では指導者のみならず、ペアを組める体格の男性スケーターも不足し、国際大会で好成績を残すことができない時代が続いた。おのずと注目度は上がらず、競技人口も増えない。

そんな悪循環の中で、この世界に光を灯したのが2人の躍進だった。

この記事では日本のフィギュア界に快挙をもたらした、りくりゅうペアの足跡を追うとともに、世界フィギュアへと燃やす静かなる闘志をお伝えする。

結成当初から植え付けられた「世界と戦う意識」

“りくりゅう”は、2019年8月にペアを結成。当時、三浦璃来はまだ高校生で、世界での経験値は
あまりない発展途上の選手だった。

一方、木原龍一はそれまでに2度、オリンピックに別のパートナーと出場するも世界の壁に跳ね返され続けてきた。ソチオリンピックでは18位、平昌オリンピックでは21位に終わっていた。

しかも、新ペア結成で新たなスタートを切ろうとした矢先、新型コロナの世界的流行でほとんどの大会が中止に追い込まれ、2人は出場の機会を失った。

だがそれでも、2人には結成当初から抱き続けた“強い信念”があった。

演技後のインタビューで「世界」の言葉を繰り返す木原
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「世界で勝てるペアを目標に結成している」
「世界で戦うには…」
「世界的には名が売れてない」

木原はことあるごとに“世界”を繰り返していた。

2人がこの言葉を強く意識するきっかけとなったのがペア結成当初から夫婦でコーチを務める、ブルーノ・マルコットとメーガン・デュハメル夫妻の存在だ。

夫婦でコーチを務める、ブルーノ・マルコットとメーガン・デュハメル夫妻

妻のメーガンコーチは世界選手権を2連覇、平昌オリンピックでは団体で金メダルを獲得した戦歴の持ち主だ。

木原:
「お前たちは絶対に世界トップテンに入れる」ということを常に言われてやってきました。でも結成当初というのは自分たちの力を信じていなかったので、そう言われても「わかりました。頑張ります」とコーチには言うんですけど、心の中で「それはホントかなぁ」という、常にそういう思いを持っていました。

最初は半信半疑、自分たちがこれまでに残して来た成績からはほど遠い世界。ところがそんな2人の意識を変える出来事が起こる。

2021年の世界選手権

2021年の世界選手権。2人は結成からわずか2シーズン目で、世界選手権トップ10入りを成し遂げたのだ。これはもちろん、2人にとってスケート人生で初めてたどりついたポジションでもあった。

この躍進に木原は「昨シーズンの世界選手権から今季のグランプリシリーズと経験させていただいて、本当にそれ(トップ10)が実現可能というか、自分たちもできるんだなと、最近思えるようになりました。でもここまでのレベルになるとは思っていなかったです」と驚きを隠さない。

常に言葉にすることで植え付けられた「世界への意識」は、本人たちの自覚以上に競技レベルそのものの向上へとつながり始めていた。

北京での“全ミスでいい”はコーチのアドバイスがきっかけ

こうして経験と自信をつかんだ中で迎えた、北京オリンピック。2人は個人戦での目標を“総合5位”という、これまでになく高い位置に定めていた。

だがショートプログラムで、三浦のジャンプにミスが出てショートは8位。目標の総合5位は、大きく遠のいた。

そんな重い空気の中で迎えたフリーの演技前、失意の三浦に、木原がかけた“あの言葉”が2人の意識を変える。

「今日、龍一くんが『全ミスの勢いでいいからね!』と言ってくれたので…」三浦が北京オリンピックでのインタビューで語ったその言葉は「全ミスでいい」。完璧を求めたい大舞台で、求められるものとは真逆の言葉だった。

木原龍一のInstagramより

実はこの言葉、メーガンコーチのアドバイスがきっかけだったのだという。

木原はこう語る。「メーガンがソチに出場したときはリザルトを求めすぎていて、うまくいかなくてすごくがっかりしたという話をして、すごく後悔していました。『とにかく楽しみなさい』『今ここで出来ることを楽しみなさい』と言われました」

「フリーの前に、ものすごいメッセージを頂いて、そこで一度自分の気持ちを切り替えたことで『全ミスでもいいよ』という話につながりました」

この会話をきっかけに重圧から解き放たれた2人が見せたのは、結成以降、最高の演技。

目標の5位には届かなかったものの、日本ペア史上初となる7位入賞に輝いた。そして心底楽しむ「笑顔」の滑走が、見守った人々の心を打った。

そのメーガンコーチは、2歳になるゾーイちゃんの育児真っ最中で、北京の現場には行けなかったが、SNSで、ある写真が話題となった。

パソコン画面に映った三浦・木原ペアの姿に、「いいね!」と言わんばかりに親指を立てるゾーイちゃん。今やメーガンコーチのお子さんは、“りくりゅう”ペアの大ファンなのだという。

表彰台の期待もかかる世界選手権

次なる舞台は、オリンピックを超える成績への期待と、これまで以上の注目が集まる世界選手権。

日本勢としては高橋成美・M.トランのペアが、2012年の世界選手権で、日本代表として初の銅メダルを獲得して以来、10年ぶりのメダルを叶えられるかの大会となる。

木原:
世界選手権では今シーズンのテーマである“過去の自分たちに勝つ”ということをしっかり達成したいですし、一番大事なのは本当に心から楽しんで、シーズン最後の試合を心から楽しみたいと思っています。

三浦:
自分たちが最高の笑顔で追われるように、シーズン最後を本当に笑顔で締めくくれるように頑張りたいと思います。

――オリンピックの時には個人戦で5位という明確な目標を掲げていましたが、世界選手権の目標は?

木原:

正直、オリンピックの団体戦はショートもフリーも、2人とも楽しめていたんですが、個人戦のショートは心から楽しめていない自分たちがいて、たぶん無意識に5位というのを狙いすぎていて、常にノーミスをしなければいけないと頭が切り替わっていて、ものすごくそれを後悔しています。

次の試合は、取らなければいけないものは何もないので、とにかくショートとフリー、心から楽しめたら結果は絶対についてくるかなと思っているので、今は目標の順位は何もセットしていないです。

2021年の世界選手権

――出場メンバーを見ると本当にトップに立てる可能性もありますが、それは頭の中では無いですか?

木原:
そうですね、全くなしですね。とにかく、楽しめたらいいかなと今は思います。次の試合というのは、もう楽しむことだけというのを1番に今考えています。そうしたら必ず自分たちには結果がついてくるかなと思っています。

――ファン目線では「メダルいける!」って思いますけど。コーチもあまり言わないですか?

木原:
言わないですね。普通に何も言われないですね。(三浦に)何話したっけ?世界選手権のこと話したっけ?

三浦:
とりあえずベスト。自分たちのできることをやれば。

木原:
ああ、そうだ。今シーズン、今までの試合と同じで「自分たちに勝て」と。「過去の自分たちに勝て」と言われています。

最後に北京オリンピックで、新たな道を切り開いた2人に、大切なことを聞いてみた。

――オリンピックでの団体メダルを、次にどうつなげて行きたいですか?

木原:

やっぱり、今大会だけで終わらずに、4年後も、8年後も日本が獲っていけるようにしていくのが、本当に今の僕たち、僕たちだけじゃないですけど、目標かなと。「今回だけで終わらせたくない」という思いがすごくあります。

世界選手権がまた新しいスタートになってくるので、また次の4年間、本当にトップの選手たちと戦っていけるように、アピールしていきたいと思います。

日本のペアに、五輪初の快挙をもたらした“りくりゅう”ペア。
この冬2人が築き上げたことは、日本のフィギュア界の未来にとっても、価値あることに他ならない。

それでもなお、「今回だけで終わらせたくない」と、日本のペアのこれからを語る言葉が印象的だ。力強い言葉を胸に、彼らのさらなる飛躍を見守りたい。

世界フィギュアスケート選手権
フジテレビ系列で3月23日(水)から4夜連続生中継(一部地域を除く)
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/world/index.html