北京五輪は17日、スピードスケート女子1000mが行われ、平昌五輪で銀メダルを獲得した日本スピードスケート界のエース小平奈緒(35)が出場する。

平昌に続く金メダルが期待された13日の500メートルでは「1歩目でつまずいてしまったので、頭が真っ白になった」と前回女王が38秒09でまさかの17位。それでも「失敗してしまうということは、ここで気づかなきゃいけないというサイン。しっかりと立て直して1000メートルに全てを注ぎ込みたい」と前を向く小平。そんな彼女のひとつの絆の物語に迫る。

地元長野のりんご農家との知られざる絆

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2月13日、小平のレース当日。地元・長野で小平の活躍を心から願っている方を訪ねた。りんご農園を営む田中英男さん、83歳だ。自宅の居間には「祝・小平奈緒北京五輪代表 りんごの里長沼から応援しています」と書かれた手作りの旗が飾られていた。

「去年12月に北京五輪の日本代表選考会に行って応援した時の旗なんですよ。この旗を一生懸命振って応援したわけですよ」と小平への熱い思いを話してくれた。

災害ボランティアとして現地で活動

小平が臨んだ自身4度目の五輪。そこにはある強い思いが込められていた。

今から3年前(2019年)台風19号が長野県を襲った。県内を流れる千曲川の堤防が決壊。甚大な被害を受けたのは生産量全国2位、長野のりんご農園だった。田中英男さんのりんご農園も台風の影響で完全に水没。62年間続けていた仕事を辞めることを考えた。

「こんな大きな堤防の切れた水害はなかったからね。これはもう全部の農家が辞めるようになるかなと思ったんですよ」と田中さんは振り返る。

そんな長野の危機に立ち上がったのが小平だった。長野県で生まれ育ち、練習拠点も長野。「少しでも力になれたら」と自ら被災地でのボランティア活動に申し込み、民家の泥のかき出しなどに当たった。「まだまだやるべきことはたくさんあるんだということを実際に現場に来てみて感じました」と汗を流した。

りんごの赤いユニホームが励ましに

さらに小平はりんごのマークの入ったレーシングスーツをデザインし、長野で開催された大会に出場した。

「堤防が決壊して一番被害を受けたのがりんご農家の皆さんで、そういう方たちと一緒に乗り越えていきたいという思いも込めて、りんごをモチーフにしたユニホームにしました」

先が見通せない状況の中で、田中さんの大きな励ましとなったのが小平の存在だ。

「水害にあって心が折れそうになっているときに、レーシングスーツのいわれを聞いたときには本当に涙がでるほどうれしかったよ。聞いてからはもう頑張らなくちゃ、頑張らなくちゃと思いました」

小平の姿に後押しされ、りんごを作り続けることを決意。出荷量は災害前の7割まで回復した。そして立ち直るきっかけをくれた恩人に感謝の思いを込めてりんごを送った。

りんごを受け取った小平は「本当に胸がいっぱいで、流されてしまったりんご畑を見たりだとか、またおいしいりんごを作ろうといって、奮起して前に進んでいる農家の皆さんの姿を見て、すごいなという思いと一緒に進みたいなという思いがあったので、すごく勇気を頂きました」

五輪は恩返しの舞台

北京五輪は恩返しの気持ちを示す舞台。小平は地元への思いをこう語る。

「スポーツはアスリートがその舞台で輝いているだけではなくて、地域に根ざしたものであってほしいなという願いがあったので、本当に皆さんと共に進みたいなという思いでいます」

小平のレースをてテレビで観戦する田名さんを取材に行くと、田中さんは「私の大事なお宝」と引き出しから一通の手紙を取り出し見せてくれた。実はりんごを送ってくれたお礼を伝えに、田中さんの元を訪ねていた小平。しかし、田中さんが留守だったため、小平は手紙を残した。文面は「二人だけの秘密」と話す田中さん。それでも、照れくさそうにある一文を読み上げてくれた。

「『私も皆さんと一緒に頑張ります!相澤病院所属スピードスケート小平奈緒』と書いてあるんですけど、台風で被害を受けた者からすれば何よりの元気づけの手紙だと思いますよ。大事にしたいと思います」

同じ地元で支えあう農家とアスリートの絆。「ケガのないように滑ってもらって自己ベスト記録を作ってもらいたいですね」と妻のみゑ子さんと500メートルのレースを見守ったが、まさかの17位。それでも、17日の1000メートルも、テレビの前から応援する予定だ。

「よく頑張った。元気を出してもらって、1000メートルも優勝につながるような気持ちでまたやってもらいたいですね。私どもも応援しますし、これからも私どもも小平さんに負けないように金メダルに近いようなりんごを作っていきたいと思います」

地元への愛、そして地元からの愛。ふるさとへの思いを力に、次の1000メートルのリンクに全てを刻む。

北京オリンピック スピードスケート男子1000m
2月18日(金)午後5時から生中継
メダル期待大!男子もニューヒーロー躍動で快挙なるか?