日本人最多メダルに挑む髙木美帆

「ただ純粋に5種目を滑りたい、そこで戦いたいという気持ちです。存分に北京五輪で戦ってきたいという思いだけで今は走っています」

こう語るのは、北京五輪で短距離の500m、1000m、中距離の1500m、長距離の3000m、団体パシュートの5種目に挑む髙木美帆。4年前の平昌五輪では4種目に出場し、金・銀・銅3つのメダルを獲得したが、それをさらに上回る超人的なチャレンジだ。

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2月5日の3000mを皮切りに13日間で最大7レース。500mから3000mという多種多様な競技に加え、チーム戦をも含む過酷すぎるスケジュールとなる。その中で日本史上最多となる4個以上のメダル獲得に挑む髙木美帆。そんな偉大なチャレンジについて2人の先人に話を求めた。

清水宏保・田畑真紀がメダル予想

1人目の先人、長野五輪・男子500m金メダリストの清水宏保さんは髙木の挑戦をこう評する。

「ちょっと考えられない。大谷翔平選手が二刀流で野球界の常識を覆したように、スケート界の常識をすべて覆しているのが今の彼女。5刀流ぐらいの感じはありますよね」

清水さんは同じスピードスケートでも短距離、中距離、長距離、団体パシュートではそれぞれ求められる能力が異なるゆえに、“5刀流”という言葉で表現する。

もう一人の先人、トリノ五輪で5種目出場している田畑真紀さんは「たぶん美帆さんはもう1種目出ようと思えば出る力はあって、それぞれの種目で自分のベストでいけるということで5種目に絞ったと思います」と底知れぬ可能性に驚愕する。

では、5種目挑戦へのリアルな期待をフリップに記入してもらうと、なんと2人も全5種目でメダル以上と予想する。

「5種目メダルを狙いにいくと思います」という田畑さんは3000mは銅メダル以上、1500mは金メダル、500mは銅メダル以上、パシュートは金メダル、1000mは銅メダル以上と予想する。

清水さんは3000mは銀メダル、1500mは金メダル、500mは銅メダル、パシュートは金メダル、1000mは銀メダルか金メダルと予想。「それくらいズバ抜けています。最初の3000mでロケットスタートを決めていければ、気分も乗っていくし体も乗っていく」と分析する。

2月5日、初戦となる3000mでこの種目初のメダルをとれれば、勢いそのまま2日後に行われる本命種目1500mに挑むことができる。4年前は優勝候補に推されながらも銀メダルに終わった。

現在、1500mで世界記録を持っている高木。今度こそ個人種目初の“頂き”を目指す。その挑戦に対し田畑さんは「金メダルは100%、しっかり攻めて勝ちにいくレースをしてほしい」と期待を寄せる。清水さんも「勝負しやすいのが初戦から2日後の1500mだと思います」と可能性の高さに言及する。

さらに今大会の注目レースといえるのが、個人3戦目となる500mだ。中・長距離を主戦場とする髙木にとって、五輪では初挑戦となる完全スプリント種目となる。

清水さんも「マラソン・駅伝の選手たちが急に100m走に出る感覚ですかね。スピードスケートにおいて500mというのは陸上でいう100m走みたいなもの」と、その難しさを指摘する。

それでも髙木は「500mの頂点に立つ人たちの滑りを見た時にやっぱりカッコいいなって。そこを超えてみたい。その舞台を踏んでみたいという気持ちが原動力になっていると思います」とメダル奪取へ意気込む。

スポーツカー兼ハイブリッドカー

平昌五輪以前は出場すらほとんどなかった500mだが、一昨年の全日本選手権では平昌五輪で金メダルの小平奈緒に勝利するなど、その力は既に世界レベルだ。ではなぜ、様々な競技を網羅する滑りを可能にしているのか?その理由を清水さんは、こう解説する。

「体の使いわけるギアがたくさんある。スケートって動きは振り子のように横に振りながら惰性を使いながら力を加えていくんですけど、500mというのは氷に対して100%で力を加え一歩一歩踏ん張って進んでいきます。長距離種目になっていくとそれが20%~50%の力を加えて一歩一歩進んでいきます」

そして、そのすごさを分かりやすく車に例える。

「彼女はすごく細かい出力メーターが足裏にあって、種目ごとにうまく使い分けている。スポーツカーにもなれるし、長距離も行けるハイブリッドカーにもなれる、本当に万能ですね」

これこそ、清水さんが髙木を“5刀流”と表現したゆえんだ。

日本のスケート界を変える

そして500mの2日後には彼女だけだ使えるギアをチーム戦仕様に変え、団体パシュートで2連覇に挑戦する。さらにその2日後、ラストに待つのはこちらも金メダルの期待がかかる1000m。後半3試合は中1日で迎えるまさに超過酷なスケジュールが待ち受ける。疲労度も試合を重ねるたびに増していくが、それでも先人2人は髙木の力に太鼓判を押す。

清水さんは「普段の夏場の練習から血液のヘモグロビンの量を増やすトレーニングを相当していると思うんですよね。酸素を運ぶ能力も高いと思うので、回復が早いのも彼女の特徴としてあると思います。日本のスケート界を変えていってもらいたい。変えてしまっているわけですからすでに。5種目いってもらいですね」と髙木の最多メダルを待ち望む。

さらに田畑さんは「世界スプリントだと2日間で4種目を全力で滑らなきゃいけないので、逆に五輪は1日1種目しかないという考え方もある。美帆さんだったらできという自信は持っていると思います」と冷静に分析する。

これまで誰も成し遂げていない5つのメダルに挑む髙木に抱負を聞くと、こんな言葉を残してくれた。

「目標をシンプルに表現するなら金メダル獲得というのが一番上にあって、目指すゴールに向かって突き進んでいく」

5種目挑戦の先に待つ史上最多のメダル獲得へ。髙木美帆の歴史を変える戦いが始まる。