東京・大手町で自衛隊が運営する新型コロナワクチンの大規模接種会場は、3回目接種の加速に向けた岸田首相の「1日100万回」“大号令”のもと、受け入れ人数を急きょ2倍以上に増やした。規模拡大に向けた“最大の壁”は、会場内に設置されたエレベーターの老朽化だ。限られた時間の中、いかに課題を克服したのか、現地を取材した。
この記事の画像(6枚)ビル群の一角に設置された自衛隊の大規模接種会場。平日・休日を問わず稼働していて、取材したのは祝日の11日だったが、静まりかえったオフィス街とは対照的に、3回目接種を希望する人々が、次から次へと会場に足を運んでいく。
政府は、新型コロナワクチンの3回目接種を加速させるため、1月31日から自衛隊の運営する大規模接種会場を再開。1日の接種回数を2160人規模で運用する方針だったが、岸田首相が2月2日の衆院・予算委で「昨年と同様のペースで接種を進めるべく、来週には1日あたりの接種回数を5000回程度まで拡大したい」と表明したことで、方針転換を迫られた。
防衛省は当初、大手町合同庁舎の1階フロアのみを使用していた。その理由は、エレベーターの老朽化だ。去年、同会場で運営した大規模接種センターでは、上層階の3フロアを使用し、エレベーターをフル稼働させた。
しかし、このエレベーターは、現在は部品が流通していないというほど古い型のもの。負荷をかけると故障するおそれがある上、不具合が生じれば修理を行うことができない。このため、今回の“再開”では、エレベーターを使わずに済むよう、1階のみを会場とする計画だった。
ただし、1階フロアのみでは2000人程度の受け入れが限界。後から指示された“倍増計画”を実現するには、上層階に接種スペースを広げる必要がある。そこで、防衛省はエレベーターを再び稼働させるため大きく舵を切ることになった。
では、防衛省は、どのように老朽化したエレベーターを運用して、上層部の使用を可能としたのだろうか。現場に行くと、再稼働が“苦肉の策”だったことが、見て分かる。
6基あるエレベーターのうち稼働しているのは2基のみ。その他のエレベーターは、ロープを張るなどして、使用できなくしていた。使用する2基は、負荷が集中しないよう週ごとに替えるという。
さらにもしもの際の備えもある。①不具合が出た際、業者と連絡が取れるようオペレーターを設置し、②休日でも業者が対応できる特別体制を組んだのだ。
エレベーターの再稼働にこぎ着けたことで、これまで1階で受付から接種に至る一連の流れを行っていたが、接種スペースについては7階に移転。ただし、エレベーターの負担軽減を徹底するため、接種に従事する医官や看護官らは、1階から7階まで階段で行き来している。
エレベーターの待機場所を含む、会場のあらゆる地点に役務員を配置し、会場内が混雑しないよう丁寧に誘導していたほか、受け入れ人数の急増に伴う「密」を避けるため、1階のプレハブをさらに増設して受付用のスペースを確保するなど、徹底したコロナ対策が印象的だった。
このような努力により、接種規模を1日5040人に拡充した10日、現場を視察した岸防衛相は、「会場でワクチン接種が、清々、円滑に実施されていることを直接確認した。運営にあたる隊員、民間事業者の努力に敬意を表する」と述べた。その上で、「3回目の接種は発症予防、重症化予防の要」として、積極的な活用を呼びかけている。
現在、大手町合同庁舎の別のフロアには、他の官公庁が入居しているため、これ以上の拡大は難しいとみられる。14日からは大阪でも会場の数を2つに増やし、1日2500人に規模を拡大する。
3回目接種の加速化を実現するために、“苦肉の策”に打ってでた自衛隊。しかし、「1日100万回」の大きな目標を前に、自衛隊の大規模接種が担うのは全体の1%程度の人数だ。今後、自衛隊が開いた“突破口”に、自治体による接種、さらに14日から本格的に始まる企業の職場接種が続くことが出来るかが大きなカギになるかもしれない。
(フジテレビ政治部・伊藤慎祐)