キャンプブームと言われる中、国内有数の技術力を誇る工作機械メーカーの社員に下された“トップダウン”。なぜ異業種の「キャンプ用品」を開発することになったのか?そこには経営者の熱い思いが込められていた。

工作機械メーカーがキャンプ用品を?

キャンプで活躍する「たき火台」。網を置いて調理したり、火を囲んでお酒を飲んだり…。さまざまなたき火台が販売される中で、2023年3月に完成した新商品がある。厚さ1ミリのステンレス製、サイズは縦横35センチと25センチの2種類。簡単に組み立てられ、グループでもソロでも使いやすいサイズのスタイリッシュなたき火台だ。

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さらに、灰受けの土台が収納ケースになっていて、分解すると薄型で持ち運びに便利なA4サイズほどに収まってしまう優れもの。

たき火台を分解して収納すれば、このサイズに
たき火台を分解して収納すれば、このサイズに

たき火台を製作したのは、広島県福山市に本社を置く「ホーコス」。

1940年(昭和15年)創業。建設設備機器や、自動車部品など各分野の工作機械の製造で国内有数の技術を持つメーカーである。また、排水の油を回収する機器の製造では国内トップシェアを誇っている。

そんな会社がなぜ、キャンプ用品を?

ホーコス 建設設備機器営業部・藤田征也 係長:
社長や上層部から「キャンプブームだから若手中心に何か製品を出したらどうか」という話があって、それからですね

(Q:えっていう感じでしたか?)
ホーコス 建設設備機器営業部・藤田征也 係長:
えっていう感じでした

取材に応じてくれた社員4人から笑いが起こる。キャンプ用品の製作は思いもよらぬ仕事だったようだ。言ってみれば“社長のムチャぶり”から始まった新商品の開発だが、そこには経営者のある思いがあった。

取材に応じてくれたホーコスの社員
取材に応じてくれたホーコスの社員

初めての業界、初めてのお客に戸惑い

開発はスタートから難航した。

ホーコス 工機営業部 営業企画課・占部史也さん:
イメージができないというのが一番の不安です。BtoBだと良くも悪くも今まで通りですのでイメージがわくのですが、急に今までと違うBtoCとなるとどうやったら売れるのかというのがイメージができない。そこが不安です

得意先のほとんどは製造業。企業が企業のための商品を作る「BtoB」(B:Business)。一般消費者(C:Customer)に届ける商品を作るにはどうすればいいのか、これまでに経験がない。

ホーコス 建設設備機器技術課・山本大介 係長:
通常の製品は、見た目を全然気にしないわけではないですが、あまり気にしないんです。デザイン性も重視されるキャンプ用品では見た目に苦労しました

デザインやPRを担当したのは佐野さん。

ホーコス 工機営業部 営業企画課・佐野愛子さん:
今までとは全く違う業界なので、どんなお客さんをターゲットにしていいのか。とりあえず、キャンプが好きな人に話を聞いてみました

1年前の2022年、ホーコスの新社屋が完成。それまで部門ごとに別々の場所で勤務していた社員が、新社屋になってからは同じ場所で仕事をするようになった。

新社屋になったホーコス本社事務所のフロア
新社屋になったホーコス本社事務所のフロア

ホーコス 建設設備機器営業部・藤田征也 係長:
3部門が別々の場所で仕事をしていたので、新社屋になって本当にコミュニケーションが取りやすくなりました

エレベーターとは別に、フロアの中心近くに設けられた階段。この階段を使えば、別のフロアの真ん中に出ることができる。社員同士の距離が近くなり、みんなの知恵と技術が社内を駆け巡る。プロジェクトには部署の垣根を越えて、多くの社員のアイデアが集まった。

作業工程を減らして“売れる価格”に

新商品の構想から完成までに約半年。

ホーコス 建設設備機器技術課・山本大介 係長:
この形状までは2カ月くらいでできたのですが…

ホーコス 建設設備機器技術課・山本大介 係長(左)
ホーコス 建設設備機器技術課・山本大介 係長(左)

これまで培ってきた製造技術を、新しい分野に応用することはできる。しかし、商品化に向けての戦いはそのあとだった。

ホーコス 建設設備機器営業部・藤田征也 係長:
難しかったのは価格設定ですかね。いつものBtoBの感じでどんどんコストを重ねていってこの金額で…というのでは「それで本当に売れるの?」という価格になる

作業工程が増えれば、それだけコストは上がってしまう。いかにコストをかけずに作るかを考えたという。

新社屋近くにあるホーコス本社工場
新社屋近くにあるホーコス本社工場

ホーコス 建設設備機器技術課・山本大介 係長:
ステンレスの板を曲げるという作業 は“1つの作業”になってしまうので、それをいかにしないか

ステンレスの板を機械加工
ステンレスの板を機械加工

ホーコス 建設設備機器営業部・藤田征也 係長:
どこを削って材料代を抑えるか、作業の工程数をどれだけ減らしていくのか

社内のすべての知恵と技術が注ぎ込まれた。そして、新社屋完成から1年、商品の開発から半年後に直線的なデザインが特徴の「たき火台」が完成した。

サイズ2種類の組み立て式「たき火台」
サイズ2種類の組み立て式「たき火台」

モノづくり魂を燃やす経営者のねらい

商品のブランド名は、社内公募によってラテン語でフクロウを意味する「ulula(ウルラ)」と名づけられた。

ブランド名は社内公募で「ulula(ウルラ)」に決定
ブランド名は社内公募で「ulula(ウルラ)」に決定

ホーコス 工機営業部 営業企画課・占部史也さん:
今までは上層部が名前を決めてコンセプトを決めて、それに沿った製品作りをやってきましたが、社員からブランド名が決まったのはおそらく今回が初めてになります

社長の“ムチャぶり”から始まった商品開発。そこには「みんなでもっといいものを作っていこう」という経営者からのメッセージが込められていたのだ。モノづくりのプロ集団だけに、見事、その思いを形に仕上げた。

ホーコス 建設設備機器営業部・藤田征也 係長:
たき火台を囲うテーブルだったり薫製機とか、随時、社員にいろいろな製品を募集しています。逆に、提案が多すぎてどれにしようかと調整が難しいほどです

あえて未経験の「キャンプ用品」分野に参入した工作機械メーカー。戸惑いや不安もあったが、商品開発をきっかけに社内のチームワークが結集。“モノづくり魂”に小さな灯がつき、やがて大きな炎となって燃え上がった。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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