生活や経済に欠かせない物資の安定的な供給など、経済上の安全保障を強化する「経済安全保障推進法」の一部が8月1日に施行される。一部というのは、推進法の4本柱のうち、「サプライチェーン(供給網)の強化」と「先端技術の研究開発」の2つが先行して施行されるためだ。
8月1日は、内閣府に司令塔となる「経済安全保障推進室」が発足し、経済安保の推進に向けた動きが本格化する。一方、支援の対象が「経済安保上」必要なものなのか、見極めることが大きな課題となる。
ウクライナ侵攻や“中国依存”で高まる「経済安保」の重要性
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、日本国内でも、エネルギーやサプライチェーンの確保に対する懸念が広がった。さらに近年、中国に半導体や医薬品などの“生活必需品”の製造を依存する体制からの脱却が叫ばれ、経済の視点で国益を守る「経済安保」の重要性が高まっている。
こうした中、政府が年内に策定する外交・安全保障の指針「国家安全保障戦略」では、経済安保を“最重大課題”の一つとして位置づける見通しだ。
「スピード感を」経済安保の支援策を“前倒し”スタート
「スピード感を持ってやっていく」
25日に開かれた有識者会議初会合の冒頭、小林鷹之経済安保相は、こう強調した。
そして、「サプライチェーンの強化」と「先端技術の開発支援」について、「法律に設けられた期限よりもかなり前倒しをする形で、できる限り早く進めていかなければいけない」と述べた。

今回、この2つを先行してスタートさせるのは、民間企業の活動を支援する要素が強いためだ。
政府関係者は、「支援するための予算を秋の国会で確保することが重要だ」と述べ、補正予算により、できるだけ早期の財源確保を目指す考えを示した。
政府は、有識者会議で検討した上で、基本方針などを9月下旬に閣議決定する予定だ。
一方、推進法の4本柱のうち、残る「基幹インフラサービスの安定確保」と「特許出願の非公開」についても、政府は、できるだけ早くスタートさせたい考えだ。
経済安保で真に必要な支援の見極め課題
課題となるのは「支援のあり方」だ。
サプライチェーンの強化支援で言えば、脱・中国依存に向けて、国内での工場新設や、中国にある製造拠点を他国に移転することなどが例に挙げられる。
一方、政府関係者は「経済安保上、本当に必要な支援か見極めないと、従来の産業対策と変わらない」と話していて、いかに経済安保に即した支援を行うことができるかは重要なポイントだ。
また、推進法では「特定重要技術」に関する研究などに対し、総額5000億円規模の資金提供を想定しているが、関係者は「社会に役立つ研究に対して支援を行うことが重要」として、一般的な「研究支援」と一線を画す必要性を強調する。
「支援策」の対象が、日本の経済安保上、真に必要なものなのか、注意深く見ていく必要がある。
(政治部・伊藤慎祐)