いよいよ勝負の時がやって来る。北京五輪スピードスケートは12日、男子500メートルが行われる。24年ぶりの金メダルを目指す日本勢。メダル候補として臨む2人の男に迫った。

酪農の町が生んだ2人の五輪代表

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北海道野付郡別海町。東京23区が2つすっぼり入る広大な土地で飼育される乳牛は11万頭を数える。対して人口はわずか1万5000人。人よりも牛が多いこの酪農の町で育ち、北京五輪への切符をつかんだ2人の男がいる。

一人目は500メートル日本記録保持者、男子短距離界をけん引してきた日本のエース新濱立也、25歳だ。北京五輪に向け「全てがオリンピックへの通過点…新しい新濱立也を見せたい」と意気込む。

そして、もう一人は今季ワールドカップ初優勝、北京五輪代表選考会でも優勝を果たし、勢いに乗る新星・森重航、21歳だ。北京五輪に向け「初出場だし周りに比べたら若いので勢いでバッといきたい」と胸の内を明かす。

2人にかけられる期待、それは98年長野五輪の清水宏保さん以来となる男子スピードスケート24年ぶりの金メダルだ。500メートルの今季ベストタイムは新濱が34秒19、森重が33秒99と2人とも平昌五輪で金メダルを獲得した際の34秒41を上回り、可能性十分だ。

育った環境は同じでも対照的な成長過程

そんな2人が生まれ育ったのは、スケートが学校の授業にも組み込まれるほど盛んな町。町営のスケートリンクでは練習に明け暮れる小学生の姿があった。新濱と森重は子供たちにとっても憧れの先輩だという。

実はこの2人、出身だけでなく通っていたスケートチームも一緒。当時、彼らを指導していた別海スケート少年団「白鳥」の小村茂監督は「2人も市街地には住んでいなくて、それぞれ20キロ以上離れたところから親が送り迎えをしてくれて練習に参加してきてくれた。夏場はその20キロの道のりを自転車で通ってきたこともありました」と当時の思い出を話す。

幼い頃から向上心が旺盛なところは共通していた2人。ただ、その成長過程には大きな違いがあった。

183センチ89キロの体格を活かしたパワフルな滑りが持ち味の新濱について小村茂監督は「当時から身体能力が高くてスタートダッシュの練習が得意だったし好きだった。絶対に他の選手に負けることなくトップで走っていました」という。

一方の森重については「他の選手に比べてどちらかというと遅かった。北京五輪代表になったことが信じられないというかうれしい気持ちと不思議な気持ちですね」と驚きを隠せない。

負けず嫌いな末っ子の世界と戦う武器

早くから頭角を現していた新濱に対し、なかなか勝てなかった森重はどのように飛躍的成長を遂げていったのか。酪農を営む森重の実家を訪ねると、長男・信洋さんが家族ならではのエピソードを明かしてくれた。実は森重、8人兄弟の末っ子として兄たちに揉まれて育ったという。

「兄弟がいっぱいいたから食べ物とかあっても取り合いみたいな。とられちゃって泣いてるみたいな。兄たちについていこうという努力が小さいうちに身についていたのかな。スピードスケートも周りがみんな速かったので、速い子について行くみたいな。そういうのはあるのかな。それで伸びていったのかなとちょっと思うところですね」

苦手だったコーナーワークを強みに

7人の兄姉に負けじと背中を負い続けた少年時代。大家族の中で芽生えていった「負けず嫌い」の性格が徐々にスピードスケートへの力へと変わっていく。周囲に負けたくなくと苦手のカーブでのコーナーワークを必死に練習。それが森重の最大の武器となっていった。

森重も少年時代をこう振り返る。

「自分はもともと小さい頃にコーナーができなくて、いち早く周りに追いつけるように(練習した)というか。それが今でもコーナーワークが上手くいっている要因となっているのかなと思います」

小村茂監督も「小学校の高学年になってからカーブワークを覚えてきた感じ。コーナーができたときには段々とタイムが上がっていって、どんどん速くなっていった印象があります」と振り返る。

森重を一番間近で見ていた父・誠さんも「小学校の時はコーナーができなかったもんだから、練習のために中学校の階段を横に上ったりしていました」という。

その甲斐あって、中学3年で全国大会優勝。苦手だったコーナーワークを強みに変え、今季は初のナショナルチーム入りを果たし代表入りの切符までつかんだ。500メートルでは今季日本勢歴代3位を記録。1000メートルでは昨季よりも1秒以上縮めて好調のなか北京五輪を迎える。

長野五輪以来24年ぶりの快挙へ

そして、雲の上だった先輩も今では同郷の後輩をライバルとして認めている。

「地元の後輩ではありますし、チームメートでもありますし、下から上がってきてくれているというのはすごい自分にとっても刺激になるのでうれしいですね」と新濱。

「過去の自分が今の僕の土台となっています。昔からずっと頑張ってきたので、金メダルを目指してベストなパフォーマンスをして北京五輪に臨んでいきたいなと思います」と森重。

北海道ののどかな街から世界最高峰の舞台へ。24年前に長野五輪で金メダルを獲得した清水宏保さんも森重について「滑るたびに成長してまだまだ記録が出せる」と絶賛。持ち前の負けず嫌いな性格とコーナーワークで男子24年ぶりの期待を背に走り抜ける。

北京オリンピック スピードスケート男子1000メートル
2月18日(金)午後5時から生中継
メダル期待大!男子もニューヒーロー躍動で快挙なるか?