長野・松本市の業者による犬の虐待事件。市内2カ所の施設で飼育されていた犬は900匹余り。その後、劣悪な環境で飼育し虐待していたとして、元社長が逮捕・起訴された。起訴状では452匹を衰弱させたとされている。この事件、なぜ、防げなかったのか…

今回、松本の獣医師と連携し、業者を刑事告発した団体がある。動物愛護の啓発や提言をしている「動物環境・福祉協会Eva」。理事長の杉本彩さんに背景や今後の課題などについて聞いた。

命を大量生産・大量流通…非人道的ビジネス

(Q.今回の事件を受けて)
衝撃が大き過ぎて最初は言葉を失った。日本のペットビジネスの構造がわかってはいたが、すごく非人道的で、存在してはならない非人道的なビジネス。私たちが理解している以上のひどさと改めて痛感した

(Q.今回の事件、特に何が問題か?)
命というものを大量生産・大量流通しているペットビジネスの構造が本当に無理があって、これは動物の痛み・苦しみ・犠牲なしには成立しないビジネス。それがより明らかになったと感じた

(Q.どういう経緯で今回のことを知ったのか?)
元従業員があの劣悪な環境の現状に心を痛め、これは何とかしなければいけない、犬が本当にかわいそうだと行政や警察、地元の動物愛護団体に現状を相談していた。
その前に、行政はこう言ったことを指導して改善させる、改善できなければ行政処分で営業停止を下すことができるのに、結局そういう行政の責務を全く果たさずに、ずっと更新させていたということに対して、元従業員の方が非常に疑問に感じて、地元の行政や警察、動物愛護団体に相談した。
それでも全く反応が薄くて、物事が全然動かなかった。それで元従業員から相談を受けた獣医師の方から、当協会に現状を通報してくださったという経緯です

飼育施設への捜索(長野県松本市・2021年9月)
飼育施設への捜索(長野県松本市・2021年9月)
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「行政の責任は大きい」

(Q.元従業員の証言を聞いてどう感じたか?)
この状況で30年間も営業していた、この30年の間にいくらでも犬たちの悲劇を終わらすことはできたはず。これを見て見ぬふりと言われてもおかしくない。行政の業務怠慢が本当に大きな罪、責任があると感じた

(Q.刑事告発も協会で行ったのか?)
当協会が刑事告発して、ようやく警察が動き出した。捜査に入った話を聞くと、本当に地獄絵図のようだと感じた

(Q.行政の対応について)
適正な飼養管理ができていないわけなので、それに対して注意して改善させることがまず行政の最初の業務だが、注意は形だけで口頭で終わってしまっていて、その後、しっかり改善されたかを確認もなされていなかった。
業者のオーナーは完全に行政をなめ切っている。
行政は数年間、部署に滞在して数年後には異動するという体制で動いている。自分がそこのポジションにいる間は積極的な行動をするわけでもなく、何事もなく異動していけばいいやという気質が行政の中であって、業者のオーナーもそのことを理解しているから完全になめ切っていた。
そういう発言もオーナーがしているというのは元従業員が耳にしていて、いかに行政の指導が形だけのものだったかとうかがい知ることができる。
重く問題視していなかったから、5年ごとの業務の登録更新を平気でさせていたことがそもそもの問題

飼育施設への捜索(長野県松本市・2021年9月)
飼育施設への捜索(長野県松本市・2021年9月)

背景にはコロナ禍のペットブームも…

(Q.どういう背景がこの問題にはあると思うか?)
犬をたくさん生産して大きな利益を生みたいという、オーナーの欲望みたいなのがベースにあって、特に最近はコロナ禍で在宅で仕事をする人が増えて、自宅にいる時間が増えて、動物たちと触れ合って癒されたいという安易な気持ちから、多くの子犬、子猫が売れに売れているという良くない状況がある。
その中で一頭でも売り損じたくない、常にかわいい子犬、子猫をバックヤードにキープしていたいというペットショップの思惑があって、それにこたえるような形で繁殖業者がとにかくたくさん生産して、ペットオークションに出して利益を得る。
こういう、本当におかしなビジネスが背景にある

(Q.コロナの影響は大きいか?)
大きいですね。もちろんコロナの前からこういった問題はたくさんあって、それがたまたま従業員の人からの内部告発ということで明るみになることもありますけれども、これは本当に誰も告発しなければ、もう永遠に誰の目にも触れず、ひたすら犬たちに苦しみを与えているというところで、昔からこの生体展示販売があるという中では避けて通れない悲劇だと思う。
今回は本当に大規模だった。約1000頭という異常な犬の数を、オーナーと従業員で管理していた。虐待の状況下がすさまじいものがあった。これに近いケースは本当に多くあると思う

施設で飼育されていた犬
施設で飼育されていた犬

「展示販売していることが諸悪の根源」

(Q.ペット業界のどんなところが問題か?)
ちょっとでも想像したら、大量生産・大量流通には余剰生産・余剰在庫とかロスが出てきて、動物も商品としてショーケースに並べば同じようなことが起こる。
売れ残った商品が命ということで、その子たちのその後の状況を考えたら容易に想像がつく。どんな運命が待っているかわからない、使えるところまで使おうと搾取されることもある。本当に悪質だと思う。
ペットショップに並ぶまでの流通過程においても、行政が把握できない相当数の犬や猫たちが死んだり、大きな犠牲を生んでいる。犬猫の犠牲なしには、この商売は成立しないということを消費者には理解してほしい。
子犬、子猫の販売においても、消費者の倫理的な消費がすごい大切だと思う。犬や猫の苦しみにつながるような、悪質業者に利益を与えるような、そういったところから購入すべきではないと思う。
犬や猫にとって悲劇はもちろんだが、購入した消費者も被害者だと思う。問題ある子犬を購入した消費者は被害者だと思う。
購入後、犬にいろんな問題が見つかって、ものすごく大きな医療費を費やして飼育している消費者の方もいますし、すぐ死んでしまったということもある。消費者と動物が被害者なんだと思う

(Q.動物愛護法が改正されたことはどう思うか?)
きちんと真面目に受け止めて、一生懸命適正飼育に努めようという悪質じゃない業者はきちんとやっていると思う。
とにかく大量生産して利益を得ることが最優先という悪質業者は、改正しても自分たちが改善していこうとするかは不明ですし、それをやっているかを行政がしっかりチェックできるかというのは疑問が残る。
例えば、従業員数につき何頭まで飼育していいということも、ペットショップや繁殖場において数値が設けられていますが、行政がチェックに入ったときにぱっと見て違反しているかが非常にわかりづらい。ですから、行政が適切に今後指導していくのかというのは、まだまだ不明でわからない

(Q.何が一番ペット業界で問題か?)
子犬・子猫を展示して販売していることが諸悪の根源だと思う。販売の仕方に問題がある。それがすべて。
子犬や子猫もあっという間に大きくなりますし、小さいうちにお世話の大変さを想像させないような感じで消費者に癒しを味あわせている。それで安易な消費につながっている。
なんの覚悟もなかった消費者が「こんなに大変だと思わなかった」と言って、コロナ禍で衝動買いした消費者が安易に飼育放棄している問題もある。どうしたって余剰在庫、不良在庫につながっていく、廃棄につながっている

松本市内の施設(当時)
松本市内の施設(当時)

一刻も早いビジネスの健全化を…「消費者の意識も問われる」

(Q.どう業界を変えていくべきか?)
人道的なビジネスに切り替えるべき。これは問題あるビジネスということは知ってる人は知っているし、この事件を機に多くの人が知る事になっている。もっともっと広くこの問題を消費者は知っていくことになる。
だから、一刻も早くビジネスを健全化する。それには大量生産・大量流通じゃない、少数の犬や猫をしっかりと管理できる、犬や猫たちを適正な優良なブリーダーさんが繁殖させ、そこに消費者が直接行って犬や猫のことを学び、時間をかけて譲ってもらう丁寧な流れが必要。
法改正とか何かしら規制を設けて事業者を健全化していくところもあるが、一番大切なのはニーズをなくすことだと思う。
消費者がこのビジネスの問題を知って、子犬や子猫を購入しないという判断をしていかない限り、ずっとニーズがあると事業者としては終わらせたくないと思う。
ニーズをなくすことで、こう言ったビジネスが縮小していく。消費者が求めないことで消費者がこのビジネスを終わらせていく、一つの力にもなっていくのかな。
消費者が変わらない限り、法律の改正もされていかない

(Q.犬たちをみると、消費者としては衝動を抑えられない部分もあると思うが)
そこはすごく難しい問題。街に出ればペットショップの中に入って、子犬や子猫を幸せそうに抱っこしてる人たちをいっぱい見かけますし、ショーウィンドウに何の疑問も感じずにかわいいと眺めている人もいっぱい見かけます。
本当に難しいことだと思うが、このビジネスを縮小していかない限り、動物たちの悲劇は終わらないこともまた事実なので、あきらめずに訴えていくしかないなと思う

提供:動物環境・福祉協会Eva
提供:動物環境・福祉協会Eva

(Q.行政には何を求める?)
行政は、自分たちがしっかり改善させていくんだという強い責任感を持って、事業者と向き合ってほしい。少しでも犬や猫たちの痛みを想像しながら仕事してほしい

(Q.協会としてはどうアプローチする?)
私たちは、広くこの問題を多くの人に知ってもらうしかない。いろんな取材を受けさせていただいたり、コラムに書いたり、講演会をさせていただいたり、啓発というのはものすごく地道な作業で時間はかかるが、より多くのメディアに発信していただくことを期待するしかない

【3月17日追記】
虐待した犬の数について訴因変更があり、起訴当時の469匹から452匹になりました。

(長野放送)

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