長野県松本市の犬虐待事件の初公判。劣悪な環境で多くの犬を虐待した罪に問われている松本市の犬販売業者の元社長の裁判が開かれた。

元社長は「間違いありません」と起訴内容を認めた。

犬虐待事件の家宅捜索(2021年9月・長野県松本市)
犬虐待事件の家宅捜索(2021年9月・長野県松本市)
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重盛赳男アナウンサー:
女優として活躍する一方で、動物愛護団体の理事長を務める杉本彩さんに来ていただきました。杉本さんの協会は松本の獣医師と連携し、この業者を刑事告発しました。最初にこの実態を知ったとき、どう受け止めましたか?

NBSみんなの信州(2022年3月16日放送)
NBSみんなの信州(2022年3月16日放送)

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
内部告発の内容を見て、史上最悪の動物虐待だと思ったんですね。これが少なくとも15年以上放置されていたという事実に言葉を失いました。

ケージが4段に積み上げられ…証拠の動画

2021年9月、警察が松本市の犬販売業者に家宅捜索に入った。

松本市保健所の職員も同行。約940匹を保護した。

家宅捜索で明らかになった劣悪環境。1つのケージに複数の犬を飼い、排泄物も処理しない状態で、ほとんどの犬が何らかの病気の状態だった。

中には、失明した犬や呼吸困難となっていた犬もいたという。

警察は販売業者元社長の百瀬耕二被告(61)と、元従業員の男性を動物愛護法違反の虐待の疑いで逮捕。この容疑での逮捕は県内で初めてだ。その後、検察は百瀬被告を起訴、従業員の男性を不起訴処分とした。

犬販売業者元社長・百瀬耕二被告(2021年11月取材)
犬販売業者元社長・百瀬耕二被告(2021年11月取材)

百瀬被告はこれまでのNBSの取材で「犬を増やし収益をあげたかった」「人出が足りず世話が不十分になった」などと話していた。

そして、迎えた3月16日の初公判。百瀬被告はスーツ姿で現れ、法廷内ではうつむきがちであまり表情を変えなかった。起訴状では、市内2カ所の施設で合わせて452匹の犬を衰弱させる虐待を行ったとされている。裁判長が間違いないか問うと、被告は「間違いありません」と答えた。

長野地方裁判所松本支部での初公判(3月16日)
長野地方裁判所松本支部での初公判(3月16日)

16日は検察側の証拠として、捜査時の施設内の動画が流された。薄暗い中、4段に積み上げられた金網のケージが過密した状態で並び、中の犬が絶えず大きな鳴き声を上げていた。

検察側は「アンモニア臭が立ち込め、糞尿や毛がたまっている状態」などと指摘した。次の裁判は6月21日に予定されている。

この事件をめぐっては、杉本彩さんが理事長を務める公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」が、より罪が重い動物愛護法違反の殺傷などでの起訴を求めている。

「胸が痛い」多頭飼育…氷山の一角?

重盛赳男アナウンサー:
この裁判を傍聴されて、どんなことを感じられましたか?

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
裁判の中で、実際に施設内がどれくらい劣悪で、犬たちにとって厳しい環境だったかを初めて動画で見たんですが、それは告発内容を読んで私が想像する以上にはるかにひどいものでした。本当に犬がぼろ雑巾のようになっている、どの犬も本当に状態が悪い。

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
施設入り口にはすごいゴミの山が放置してあって、人が通れるギリギリの狭い通路。犬たちは本当に小さなケージの中で、ストレスがたまって心身ともにおかしくなっている状態で、もうずっと鳴いている。その頭数も半端じゃない。一つの施設に500頭近い犬たちが一斉に鳴くので、その鳴き声のうるささは私が今まで耳にしたものと比べられないくらいに本当にひどいものでした。

重盛赳男アナウンサー:
その状況に衝撃を受けられたんですね。

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
光も入らないですし、そんな中でも犬たちが捜査員たちによってケージの中から出されたときに、怯えている子もいれば、ぐったりしている子もいれば、やっと救われたという感じで尻尾を振っている子もいたんですね。その姿を見たとき、私は本当にもう胸が痛くなりました。

重盛赳男アナウンサー:
何が一番の問題だったとお考えですか?この問題は氷山の一角という指摘もありますが…

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
まさにその通りです。こういった状況が放置されているのは、行政がこのひどい状況を分かっていて、きちんと指導・改善、そして勧告・命令まで、その役割を果たさなかったということです。そういった強い措置を講じなかったので、これだけ長期間にわたってこのネグレクト、虐待が行われていた。行政がきちんとやるべきことをやっていれば、これだけたくさんの犬の被害は防ぐことができたんです。

ですからやはり、子犬・子猫を展示して販売する「生体展示販売」という現状のペットビジネスの構造、ビジネスモデル自体がおかしい。それがゆえに大量生産・大量流通する繁殖場があとを絶たない。このビジネスの形態自体おかしいですし、それを取り締まるべき行政が機能していないという、この2つが非常に大きな問題点だと思います。

問われる行政の責任 飼う側の意識も課題

小宮山瑞季アナウンサー:
ビジネスの問題、そして行政の話も出ましたが、最悪の事態を防げなかった県の対応について問題視されています。こちらは、今回の事件において県のまとめた報告書の一部内容です。

【動物取扱業者への対応(長野県の報告書より)】
・立入検査の不備:清掃、犬の頭数を減らすことを繰り返し指導したものの、報告の期限を求めず、強い措置を講じられなかった。
・動物愛護の考え方の変化や法改正などに対応した考えや行動ができなかった
・警察など関係機関との連携不足があった

重盛赳男アナウンサー:
この行政の問題点、どのような改善を求めますか?

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
「しっかりと改善させるんだ」と、熱意を持って自分たちの業務を全うすることが第一に求められることだと思います。今まで行政はマンパワー不足だとか、具体的にどう改善させたらいいか、その辺の法整備がされていなかったということをよく言い訳に使うんですが、2019年の法改正の前からあれだけ劣悪な施設であれば、動物取扱業の登録・取り消しという強い措置を取ることは十分可能だったんです。ですから今、並べられた理由は正直、私には納得できるものではありません。

小宮山瑞季アナウンサー:
ビジネス、行政の問題を聞いてきましたが、コロナ禍でおうち時間が増えてペットを飼う方、購入される方も増えていると聞きます。飼育する犬の入手先は「ペットショップ」が54%と大きな割合を占めています。こういった背景も事件の一因ではないかという指摘もありますが、その点はいかがですか?

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
最も大きな要因と言っても過言ではないです。誰でも、どこでも、いつでも、例えお金がなくてもローンを組んで高額なペットを購入できる。街の中のいたるところにペットショップがあり、展示されている。小さな子犬や子猫を見て「ああ、かわいい」と思って、だっこをして本当に幸せな感触を味わって、衝動買いを促すというビジネスであるということは確かなので。

コロナ禍で自宅にいる時間が増えて「犬や猫に癒されたい」とか、「楽しい時間を過ごしたい」とか、人間目線の勝手なエゴというものが衝動買いに拍車をかけていて、揚げ句の果てに「こんなはずじゃなかった」「こんな大変だと思わなかった」ということで、安易な飼育放棄につながっていると思います。

重盛赳男アナウンサー:
ビジネス、行政、そして飼う消費者側もこれからは考えていかなければいけないですね。

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
ペットショップに並んでいる子犬や子猫の背景に、どれだけバックヤードにたくさんの犬たちが待機していて、大量生産・大量流通されているか。そこには必ず不良在庫、余剰在庫という犠牲が伴います。それは命であっても他の商品と変わらず同じなんです。その背景をきちんと消費者も理解して、倫理的な消費を心がけてほしいと切に願います。

さらなる法改正が必要 「殺傷罪」での追起訴を要望

重盛赳男アナウンサー:
協会として、これからどういったことを最も訴えていきたいですか?

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
まだまだ法律の整備は大切だと思います。こういった状況の犬や猫たちを速やかに救うために、さらなる強い法改正が必要だと思います。緊急一時保護とか、所有権が非常に強いものですから所有権の一時停止とか、そういったことを踏まえての法改正も大切ですし、こういった問題を多くの皆さまに共有していただくために、これからますます啓発にも力を入れていきたい。そして、こういう虐待の現状があれば、私たちは臆することなく刑事告発して訴えていきたいと思います。

重盛赳男アナウンサー:
この後も裁判が続くわけですが…

動物愛護管理法の主な罰則
動物愛護管理法の主な罰則

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
私たちは動物虐待だけではなく、動物愛護管理法の第44条第1項の「殺傷罪」というものでも追起訴してほしいと要望を出しています。ですから、追起訴されるかどうかの結果をもって、今後どう動くかを考えたいですし、もし追起訴されないのなら、検察審査会にさらなる要望を届けたいと思っています。

(長野放送)

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