警察庁の発表によると、2021年の1年間にペットを捨てたり、劣悪な環境で飼育するなどの「動物虐待」で摘発されたのは170件。過去最多だったことが分かった。

公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」の理事長・杉本彩さんに、摘発件数が増加した背景や今後の課題などについて聞いた。

遺棄が81件、虐待が48件…背景にコロナ禍も

2021年の1年間に、全国で動物愛護法違反容疑などで摘発されたのは170件にのぼり、過去最多となった。2020年の摘発件数、102件から大幅に増えた。

犬虐待事件の家宅捜索(2021年9月・長野県松本市)
犬虐待事件の家宅捜索(2021年9月・長野県松本市)
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検挙された事件の中で最も多かったのは、飼っていたペットを捨てるなどの「遺棄」で81件。餌を与えなかったり、治療をしないなどの「虐待」が48件で、動物に危害を加える「殺傷」が41件だった。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛によってペットを飼う人が増え、その結果、捨てられるペットも増えた可能性もある。

獣医師資格のない被告 麻酔せず犬の腹を切開

長野県内では2021年11月、松本市の施設で多数の犬を劣悪な環境で飼育し虐待したとして、市内の元犬販売業者の社長が逮捕され、その後、起訴された。起訴状では、市内2カ所の施設で合わせて452匹の犬を衰弱させる虐待を行ったとされ、動物愛護法違反の罪に問われている。

施設で飼育されていた犬
施設で飼育されていた犬

この事件は現在、公判中で公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」が、より罪が重い動物愛護法違反の殺傷などでの起訴を求めていた。

警察は4月8日、社長を動物愛護法違反の殺傷の疑いで書類送検。警察によると、被告は獣医師資格を持っていないにもかかわらず、犬に対して麻酔をせずに腹を切開した疑いがある。

動物愛護法は2020年に改正され、罰則が引き上げられるなどした。近年、動物虐待事件が増加傾向にあるが、動物愛護に対する関心が高まっている影響で、警察への通報が多いことが増加の一因とみられている。

法定刑は倍以上に引き上げ 厳罰化で摘発増加

動物虐待で摘発件数が増加している背景や今後の課題などについて、公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」の理事長・杉本彩さんに聞いた。

Q.動物虐待の摘発が増加した背景は

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
動物虐待は許されない、れっきとした犯罪だということが社会に周知され、それにより通報が増えたことが背景にあると思います。これは、動物愛護団体の市民への啓発活動と、動物虐待を刑事告発してきた成果ではないでしょうか。刑事告発してはじめて事件化する事案も多く、それにより事件に注目が集まることで、動物虐待に対する社会の目がより厳しくなりました。それが通報や内部告発というアクションとなり、摘発に繋がっていると思います。

Q.改正動物愛護法の効果は

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
摘発数が増えたのは、動物虐待の厳罰化が根底にあるからだと思います。(動物殺傷罪の罰則は)200万円以下の罰金が500万円以下に、2年以下の懲役が5年以下に、倍以上の法定刑の引き上げが実現したことで、動物虐待は重い犯罪であると法律が示しました。警察は法律に従って動きますから、法改正により軽微な犯罪ではなくなった動物虐待を軽視できないという状況があると思います。したがって、確かな証拠があれば、警察が厳正に捜査をしてくれる。これは大きな効果です。

動物愛護管理法の主な罰則
動物愛護管理法の主な罰則

ペットの販売は”厳格な許可制”へ

Q.今後の課題、どんなことを訴えていきたいか

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
次の法改正では、虐待された動物を速やかに適切に救うことができるよう、加害飼養者の所有権の一時停止と、被害動物の緊急一時保護ができるようにすることです。現状では、どんな酷い飼い主や事業者であろうと所有権の壁が弊害となり、加害者である飼養者の許可なく動物を保護することができません。まったく理不尽な話なのです。また、これを無視して被害動物を救えば、動物の命に心を寄せる善良な市民が、窃盗罪や不法侵入の罪に問われかねません。そんな理不尽なことが起こらないよう法整備が必要です。

公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」理事長の杉本彩さん(2022年3月 番組出演)
公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」理事長の杉本彩さん(2022年3月 番組出演)

動物環境・福祉協会Eva 理事長 杉本彩さん:
そして、悪質なペット販売ビジネスによる被害動物を無くすために、現在は登録だけで誰でも行える事業を、許可制へと厳格なものにすること。また、幼齢動物の販売禁止なども訴えていきたいと思います。

法改正に伴いさまざまな規制も強化されましたが、抜け道を作り上手くごまかしていたり、今までと変わらないやり方で商売するために、巧みな仕組みづくりをしています。ペット業界の健全化への姿勢と努力が見られない以上、ペットの生体展示販売の陰で行われる、繁殖屋による動物の命を命と思わない劣悪な管理、そしてそういった所で繁殖させられた幼齢動物が市場に流通し、消費者の手に渡っている事に対し、私たちはより強く言及していく必要性を感じています。

海外では、フランスをはじめペットの販売についてさまざま法改正されていますから、これだけ悪質かつ深刻な問題が顕在化している日本のペットビジネスにおいては、厳格な法改正をするのが当然の流れだと思います。変えていくべきことが多く、またハードルも高いことは承知ですが、今後もどんな難しい法改正であっても、諦めることなく訴えていきたいと思います。

(長野放送)

長野放送
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