世界を魅了した"サムライ・ピアニスト"

約半世紀ぶりの偉業を成し遂げた男は、 11月20日、万雷の拍手で迎えられた。
東京・港区赤坂で行われた凱旋コンサート。                        「ショパン国際ピアノコンクール」でも見せた超絶技巧が、2000人の観客を圧倒する。

だが、そのピアニストらしからぬ、ちょんまげ、口ひげ姿と、ガッチリ体型に違和感を覚えた人も多いはずだ。 いったい何のために、そんな風貌を…!?
日本に戻ったばかりの本人に聞いてみると…

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ピアニスト 反田 恭平さん:
 やっぱりアジア人の顔は似ているということで、ステージに出た瞬間に覚えてもらうようにしよう…

そう、すべては「ショパンコンクール」で勝ち残るための戦略…

反田恭平…聞けば聞くほど、この男、“規格外”のピアニストだった!!

10月、ショパン国際ピアノコンクールの結果発表。2位に、反田(そりた)恭平という名が轟いた。 決勝の舞台で、すでにフラグは立っていた。
反田のピアノが終わると、まだオーケストラが鳴り止まないのに、 嵐のような拍手が巻き起こったのだ。耳の肥えた欧州のクラッシックファンさえフライングをさせてしまう、反田マジック…

しかも、生配信された動画サイトの再生数は、優勝者さえ突き放し、ぶっちぎりの250万回超えだ!この快挙で、ついに世界中の音楽ファンが実力を認める存在にもなったのだが…
実際に話をして驚いた。彼には、いわゆるアーティスト特有の気むずかしさなど微塵もない。

ピアニスト 反田 恭平さん:
(銀メダル見せながら)ただこれがね、まだ測ってないんですけど、けっこう重いんですよ。
500グラムは必ずあるなっていう感じなので…

この飄々とした語り口…一体、反田恭平とは、どんな男なのか?

元々はサッカー少年…異例のピアニスト人生

音楽好きの母の影響で、4歳の頃からピアノは始めていた。
しかし、幼い反田がそれ以上に夢中になっていたのはサッカーだった。
だが、ケガでその夢を絶たれると人生の目標を失った。

そんな時、反田少年に転機が訪れる。12歳のときに見たドキュメンタリー。
ショパンコンクールの舞台裏を描いた作品に、反田少年は衝撃を受ける。

一気にクラッシックに目覚めた少年は、音楽漫画を読み漁り、突如プロを目指すことに…
当然、反田さんの父親は猛反対した。

だが、反田少年は諦めなかった…

ピアニスト 反田 恭平さん:
父親が、コンクール1位という肩書きを取ってくれば入学を認めてやるよという話だったので、かっさらって全部1位を取って…

そう、規格外の男は、やるといったらやる!!
国内の数々の賞を総なめにすると、ロシアの音楽院にも首席合格。

ついには、世界最高峰のひとつ「ショパンコンクール」を射程に捉えることになる。

あのサムライヘアーも、実は6年前から計画していたという…

ピアニスト 反田 恭平さん:
現地の昔習っていた先生だったり、皆にも言われたけど、やっぱりアジア人の顔は似ている
ということで。ステージに出た瞬間に印象づける…服装とか髪型とか、何らかのポイントで覚えてもらうようにしよう。その中で僕は髪型を選んだんですけれども…

筋肉と脂肪で「理想の音」探し

さらに、己の改造は終わらない…

ピアニスト 反田 恭平さん:
去年ライザップ行きましたね。やっぱり筋肉質の体格になったら音質がどうなるのかなっていう疑問がすごい気になってしまって、じゃあまず体鍛えてみようかなって思って鍛えて…

なんと、ピアノの音質を変えるために肉体改造に挑んだのだった。

ピアニスト 反田 恭平さん:
高校卒業した後って、僕44キロだったので、すごい痩せてたんですよね…

キッカケは、ロシアへの留学中に見た、ある大男のコンサートだった…

 ピアニスト 反田 恭平さん:
その(大きな)ピアニストの演奏を聴きに行ったら、5階の1番後ろの立ち見席で聞いたのにも関わらず、もう本当に目の前で聞いているのっていうぐらいの音量だったんですよね。
そのピアニストって、2メートル身長あったんですよね。そもそも僕が170センチぐらいなんですけど、この30センチのハンデっていうものがありまして。
これを埋めるためには筋肉量を増やしたり、脂肪量を増やしたりすることによって、賄えることができるんじゃないのかなと思いまして…

ところが、いざ「ガチムチ」になった体で ピアノを弾いてみると…

ピアニスト 反田 恭平さん:
どうしても、なんか少しなんですけれども、音質が少し堅いといいますか、角張ったイメージが出した音の中であって…

筋肉質の体から出る音は、なぜか「堅い」。そう感じた反田は、筋肉質の体をあっさり捨て…

ピアニスト 反田 恭平さん:
ここからある程度脂肪に変えるというか、あんまり筋トレしなくても自然に落ちていくような形で、ほどよい厚みのある手だったり、腕だったり、背筋とかっていう物を1年かけて作ったという形ですかね…

なんと音に円熟味を出すため、筋肉を脂肪に変えていったのだ。

ピアニスト 反田 恭平さん:
ピアニストっていうのは肉体的に考えれば、腕を下ろしたり指を下ろしたり、この上下とサイドの音域の変更だから、上下左右の運動だけなんですよね。
ふくよかになることによって、腕を下ろした時の重みとかっていうのが倍増される訳ですから、僕にとっての理想音っていうのが、ある程度の脂肪がのっている、脂のある音だったって言う感じですかね

つまり、あの「ちょんまげ」「口ひげ」姿も…「ガッチリ体型」も、すべてはショパンコンクールのため。

もちろん、豪快なワザを繰り出しながら緻密な計算も忘れない。
反田は、過去のコンクールの参加者約800人が弾いたのべ4000曲もの楽曲を書き出し、予選で通りやすい演目を割り出していたのだ。

反田流 意外な”三種の神器”

これで、もう準備は万端…と思いきや、反田にはまだやることがあった…それが!

ピアニスト 反田 恭平さん:
パンツと栄養ドリンクと神社です…

そう、最後の総仕上げは…

ピアニスト 反田 恭平さん:
箱根の方の神社に行って、絵馬とかやたら買いましたね。おみくじもやったし、お守りも買いましたし、その御守りも今回持ってって、結果発表に着ていたジャケットの胸ポケットに入れてました…

ピアニスト 反田 恭平さん:
あとは多分、勝負パンツのおかげでしょうね〜。猫のパンツなんですけどね。なぜか、これ履くと真剣に弾けるんですよね。
栄養ドリンクも、50ミリリットルのうち、20ミリリットルぐらいだけ本番15分前に飲むのが1番ベスト!本当に三種の神器ですよね…

こうして、決戦の地、ポーランドへ乗り込んだ反田は…

現地記者:
ファンは、あなたのサムライのイメージに興味津々ですが、あなたは、なぜサムライスタイルなんですか?

ピアニスト 反田 恭平さん:
僕はサムライだけど、寿司も作れるよ。日本人だからね。サムライは今も生きているんだ。だって、ほら(後ろ髪の結を見せる)…

見事、現地メディアから注目されることに成功。
そして、ショパン国際ピアノコンクール、ファイナルでの演奏に臨んだ瞬間を…

ピアニスト 反田 恭平さん:
僕は12歳から、あの瞬間を楽しみにしていたし憧れていたけど、やっぱり本格的に6年前から待っていたステージだし、最高に楽しい40分間でしたね

その時、生配信されていた動画サイトには世界からの喝采が溢れかえった。
そして、第18回ショパン国際ピアノコンクール結果発表の時、反田はこんなことを考えていたという…

ピアニスト 反田 恭平さん:
面白いことに、受賞したと同時にすぐに思ったことは、やはり1位じゃなかったということで、それと同時に思ったことは、日本人で今年も、今回も、優勝者が出なかったということ。
これは強く真摯に結果を受け止めて、早くも僕が生きているうちに日本から1位が出る瞬間を見届けたいなというのは強く思っていますので…

反田恭平の「最終目標」は

今回、反田がどうしてもショパンコンクールに勝ちたかったワケ。それは、自分の背中を追ってくれる後輩たちのため。 
いま反田は、27歳の若さで自らのオーケストラの運営会社を立ち上げ、海外遠征で忙しい最中でも、 そのリハーサルをリモートで見守っている。

ピアニスト 反田 恭平さん:
いいじゃん素晴らしい!充分楽しんでるし、みんな!!バイバイ!頑張って!

かつてポーランドで共に暮らし、自身もショパンコンクールのセミファイナリストとなった角野隼斗さんは…

ショパンコンクール セミファイナリスト 角野隼人さん:
人を率いるタイプのカリスマっているじゃないですか、それなんですよね。オーケストラを自分で始めたこととか、会社を設立したりっていう、それができるってことがまずカリスマなんだよな。めっちゃ後輩思いだし、友達思いだし」

反田が仲間とともに目指すことは…

ピアニスト 反田 恭平さん:
学校を作るのが、僕の今の現段階での最終目標ですけども。未来の音楽家たちのために今僕がどんなことをできるのかということを、すごく真摯に受け止めて考えて、これからの音楽界の未来につなげていけたら

日本に生まれた規格外のピアニスト、反田恭平…
その進撃は、まだ始まったばかりだ。   

(「Mr.サンデー」 11月21日放送分より)