開催まで100日を切った北京五輪に向け、日本代表争いが最大の焦点となる今年の全日本選手権。

4年に1度、オリンピック出場を目指すトップスケーターたちの熾烈な争いはこれまで幾度となく、人々の心を揺さぶるドラマを生み出してきた。

しかし、全日本選手権に出場するすべての選手が、オリンピックだけを目標としているわけではない。この大会を、“現役人生最後の大舞台”と決めて目指す選手の存在もある。

新田谷凜
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24歳、ラストシーズンへの覚悟

新田谷凜(にたやりん)24歳。
全日本選手権の出場権を獲得するため、11月5日から始まる西日本選手権に出場する。

彼女は2017年の冬季ユニバーシアードで元世界女王、ロシアのトゥクタミシェワら強豪を押さえ銀メダルに輝いた実力者だ。世界選手権やオリンピックの出場こそないが、全日本選手権には初出場以来これまで計8度出場した経験を持つ。

インタビューに応じた新田谷凜

シーズンを前にした我々の取材に対し「骨折しようが、全日本でいい演技をしようが、きっぱり、あと1年だなと思っています」とラストシーズンへの覚悟を語った。

実は新田谷、大学卒業の年となる2019年の全日本を前に一度引退を決意していた。その年の全日本では渾身の演技で締めくくったが、スケートへの情熱を断ち切れず現役引退を撤回した経験を持つ。

2019年の全日本選手権に出場した新田谷凜

「一回もう“引退詐欺”してるんで、さすがに今年は、どれだけ全日本でいい演技をしても最後って思ってやります」

そんな言葉に実感がこもる。

様々な経験を経た24歳が最後に目指す全日本で伝えたいこと…、今度こそ“ラスト”と誓った、シーズンへの想いを独自取材で追う。

大学卒業を機に決めた引退。成績の上昇という転機 

2012年、新田谷凜は15歳の時に全日本ジュニアで5位入賞を果たし、全日本選手権へ推薦出場。

2012年に新田谷が初めて出場した全日本選手権

初めての全日本選手権でいきなり10位に入ると、シニアデビュー後はすべてのシーズンで全日本選手権の舞台に立ち続けた。

2018年には怪我の影響もあり、初めてフリーに進出できないという自己ワースト(28位)の結果に終わると、翌2019年のシーズン一杯での引退を表明。スケート靴を脱ぐ覚悟を決めた。

2019年の全日本選手権

ところが、ここから次の転機が訪れる。

大学最終学年のこの年、中部選手権で優勝すると全日本の舞台でも輝きを放った。ショート・フリーともにパーフェクトな演技を披露すると、スタンドからは引退を惜しむファンたちからの割れんばかりのスタンディングオベーション。

2019年の全日本選手権

ラスト1年と決めた決断が彼女を大きく成長させ、進化した演技で自己最高位の7位。前年のリベンジを果たした。

大歓声と拍手で見送られた新田谷はフリーの演技を終えた直後、涙を流しながらこう語った。

全日本(2019年)のフリー後に涙を流す新田谷凜

「正直引退しようか迷った時期はあったんですけど、正直この全日本で吹っ切れたっていうか、もう終わってもいいんじゃないかなって思える演技ができたのですごい良かったです。

本当に悪い時がほとんどだったんですけど、最後にこのような演技が見せられてうれしいですし、最後に本当に全日本は応援してくださった皆様への感謝の気持ちを込めて滑りたいという思いで滑れたので、しっかり演技と結果が出せたかなって思うので長い間応援ありがとうございました」

涙を両手で拭う新田谷。自己ベストの成績を手に、大学の卒業をくぎりに選手生活を終えるハズだった。

しかしここで、思わぬアクシデントが新田谷をリンクに引き戻す。

全日本選手権終了後、1月のインカレに向けて練習に励んでいたところ、なんと練習中に右足を骨折。インカレを棄権し、引退試合となる予定だった愛知県選手権にも出場できなかった新田谷は、現役続行を決めたのだ。

その心境を当時の新田谷はこう語っている。

「(全日本で)これだけいい演技ができたら今ここで辞めた方がいいんじゃないかという思いもあったんですけど、その後に骨折をしてしまって、その時にゆっくり考え直す時間ができたので、今ここで辞めて自分が後悔しないか家族と話しました。

家族は『続けたい、頑張りたいものがあるんだったら、頑張った方がいい』って言ってくれて。自分の中でも去年より頑張れるっていう気持ちがまだ残っていたので、続ける気持ちになりました」

引退を撤回し挑んだ昨シーズン、なんと彼女の進化はさらに加速した。

“引退撤回”後の2020年に出場した全日本

日本スケート連盟の強化指定選手となった新田谷は、全日本のショートで自己ベストを更新し5位になると、フリーでは自身初の最終グループ入りを果たした。

最終順位は前年より下げたものの、トータルの得点は自己ベストを5点以上も上回った。大学を卒業して以降は、アルバイトをしながらの競技生活となったが、さらなる成長を見せながら現役続行2シーズン目を迎えている。

2020年の全日本

「去年は自分が『やらせてください』っていう感じでお父さんお母さん家族にもお願いしたんですけど、今年一年はお兄ちゃんだったりお母さんだったりが『続けてほしい』っていうのを言ってくれたので、自分の体力とか考えたら、区切りとしてはこの一年かなという風に、決めているので。骨折しようが全日本でいい演技しようがきっぱり、あと1年だなという風に思ってます」

2度目の引退表明。葛藤の中での決断

そんな新田谷が、公の場で正式な引退表明をしたのは今年9月、3位に入った中部選手権での報道陣の取材に対してだった。

今年の中部選手権後、報道陣の前で語った新田谷

「スケートは関係なく就職活動もして来て、無事それも終わったので、本当にスケートの後の人生も決まっているので、どれだけ続けたくても、“やめなきゃいけない状況”っていうのは自分で作ったという感じです」

今度こそ後戻りはできないと「スケートの後の人生を決め」「やめなきゃいけない状況を自分で作った」と語る新田谷。

フジテレビの単独取材にもこう話した。

「一回もう“引退詐欺”してるんで、先生とかは信じてくれないですけど…。(スケートを)続けたい、もちろん続けたいのは続けたいんですけど、一つの区切りとしては今年一年かなと思っているので、さすがに今年は、どれだけ全日本でいい演技をしても最後と思ってやります」

見え隠れするスケートへの想いはあるが、引退後の“新しい未来”を自分で定め、最後のシーズンを戦う。

正真正銘のラストシーズン。全日本に残したいもの

そうなれば11月5日から出場する西日本を勝ち上がり、大舞台の全日本に辿りついた時、どんな演技を見せてくれるのだろうか?新田谷が心に期すものとは。

練習に励む新田谷

――ショートで言えば後半の3回転ルッツ+3回転トゥループを何が何でも?

はいもう、どれだけ調子が悪くても。去年も本当はやりたかったんですけど、確率的にも半々ぐらいだったので先生にも「まずはミスなくやることが大事」って言われて、全日本は冒頭に3回転+3回転をやるって構成に変えて、それが結果的には点数も自己ベストが出ましたし良かったんですけど、思い返せばやっぱり後半に3回転+3回転やりたかったなって気持ちがあるので。

今シーズンはどれだけ調子が悪くても、せっかく続けるんだったら去年と違うことをやりたいと思うので、3回転+3回転は後半にやるって決めて今はシーズン臨んでいます。

ーーフリーはどうですか?

フリーも本当は後半に3回転ルッツ+3回転トゥループを2本入れる予定ですが、去年の全日本も1本しか入らなくて、国体では2本入ったんですけど、それがちゃんと全日本で出せるようにしたいです。

ショート・フリーとも、得点が1.1倍になる演技後半に高難度のコンビネーションジャンプに挑むと語った新田谷。

体力的に厳しくなる後半に高難度のジャンプを跳ぶことは当然リスクも伴うがそれでも最後の全日本でさらなる進化を目指す。

持ち前の丁寧で美しいスケーティングに、攻めのジャンプ構成が決まった時、2年前を上回る大きな感動が、全日本の会場を包み込むだろう。

2019年全日本のキス&クライでコーチらと抱き合う新田谷

最後の全日本へ新田谷はこう語っている。

「やっぱり今シーズンはオリンピックシーズンで、4年に1度の特別なシーズンだと思うので、そのシーズンで出る全日本っていうのは、やっぱり今まで以上に凄く大事な全日本になるかなと思います。

自分がそのオリンピック選考にも関わるって本当に考えてないんですけど、そういう特別なシーズンの全日本で、何かたくさんの人たちの心に残るような演技をするのが今の目標です」

そして現役最後のシーズンへ、こんな言葉も残している。

「先シーズンの目標でもあったんですけど、今までの自分の中では1番いい演技をするっていうのを今シーズンも引き続き掲げているので、本当にスケート人生の中で、今の自分が1番いいなって思ってもらえる状態で引退できるようにしたいなと思っています」

五輪代表争いが注目される今年の全日本選手権、しかしそこに立つスケーターたちには十人十色の想いがある。

最後の大舞台で最高の演技を。

24歳を迎えた新田谷凜がどんな進化を遂げ、どんなクライマックスを見せてくれるのか。11月5日に初日を迎える西日本選手権からのチャレンジに注目して行きたい。