長野・小谷村の集落に、野菜の無人直売所が設置された。余った農産物を売るのが本来の目的だったが、予期していなかった「住民をつなぐ」という効果も生んでいる。

農産物を持ち寄り、次々とロッカーに…

無人直売所のロッカーに野菜を入れる(長野・小谷村)
無人直売所のロッカーに野菜を入れる(長野・小谷村)
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朝、箱やかごを持った住民が集まってきた。
小さなロッカーに入れるのは…

生産者:
ブロッコリーです。ちょっと大きくなりすぎちゃって

生産者:
卵です。卵とかキャベツとか、もしあればキノコも(出している)

住民が持ち寄った新鮮な野菜や卵。コインロッカーを自動販売機のように活用した「無人直売所」だ。

中通基幹センター
中通基幹センター

ここは土谷川に沿って集落が点在する小谷村・土谷地区。直売所は中通集落にある公民館の玄関脇に設置されている。

土谷地区の集落支援員・松澤彩子さん:
佐鹿さん、きょう何を入れました?

無人直売所に出荷している・佐鹿まち代さん:
カブとモロッコインゲン

住民が持ち寄った農産物が100円または200円で売られていて、扉に品物と納めた日付が書かれている。(値段設定は時期によって変わる)

20種類ほどの野菜を栽培…ほぼ毎日出荷する人も

無人直売所に出荷している女性(85):
(今年は)よくできましたよ。うちは草もいっぱいできたけど

直売所の近くで3世代で暮らす85歳の女性。1人で20種類ほどの野菜を栽培。ほぼ毎日、直売所に出している。
リュックに入れて直売所へ…

この日は…

無人直売所に出荷している女性(85):
ミニカボチャ。小さいけどおいしいんですよ。それからサツマイモが大きいのが取れたので。みんな買ってくれるとうれしい。今まで捨てていたものまで出せるもんで

「余った野菜を無駄にしたくない」…住民の思いがきっかけ

直売所の設置は、住民の1人・田原富美子さんが「余剰作物を何とかしたい」と考えたのがきっかけとなった。

無人直売所を発案した・田原富美子さん:
他の農家さんもそうですけど、野菜をいろいろ作っていても、どうしても余っちゃう。公民館の庭で売ってもらおうかなんて、そんな案を出したら、こんな素敵なロッカーに

発案者の田原さんと集落支援員の松澤さん
発案者の田原さんと集落支援員の松澤さん

田原さんは、集落支援員の松澤彩子さんに相談。コロナ禍ということもあって接触の機会が少なく、人件費も抑えられる無人販売を計画した。ロッカーの購入には村の助成金50万円を充てた。

土谷地区の集落支援員・松澤彩子さん:
ずっと店番を置くにも、私もいられないので、「じゃあどうしようか?」というところからこういう形に

地区内の6つの集落の代表者が鍵を管理していて、住民であれば誰でも出品できる。

「地元の農産物が安い」と評判に

8月に設置したところ、村内でじわじわと評判となり、他の地区から買いに来る人も増えている。

(Q.何を買った?)
無人直売所を利用した地元の親子(子ども):
ニンジン

無人直売所を利用した地元の親子(母親):
地域の方々が近くで作ってくれるものを子どもに食べさせられるのは、すごく幸せなことで、よく利用させてもらっている

無人直売所を利用した村民:
よく使います。
(Q.どういうところがいい?)
安い、これで100円だから

出荷する人には新たな「張り合い」に…

ノートに品物を1個ずつ記録し、売り上げを分配。9月は全体で3万円ほどを売り上げた。

 
 

無人直売所に出荷している女性(85):
9月は6400円もあったよ

無人直売所に出荷している・佐鹿まち代さん:
私も6000円くらいあった。一番稼ぎ頭です(笑)

85歳の女性と楽しそうに話すのは、奉納集落から来た佐鹿まち代さんだ。奉納は地区の中で最も奥にある集落。高齢化や移転で、使われていない畑が増えている。

佐鹿さんは一人暮らし。畑仕事が好きで、秋はダイコンや赤カブの収穫に精を出している。

無人直売所に出荷している・佐鹿まち代さん:
住んでいない人の畑をタダで『使っていいよ』と言われて、自由に使っている

これまで野菜はJAに出したり、離れて暮らす知人に送ったりしてきたが、今は「無人直売所」が張り合いになっている。

無人直売所に出荷している・佐鹿まち代さん:
最初はこのロッカーに入れて売れるのかなと思っていたんですけど、けっこう買ってくれる方が多くて、入れてもすぐに品物が無くなったりして、やるにも励みになります

購入者のために、佐鹿さんは赤カブに貼った紙に漬け物のレシピも添えた。

無人直売所に出荷している・佐鹿まち代さん:
どうやって料理していいかわからない人もいるし、少しでも役立ててもらえたらうれしい。朝露、夜露に野菜が育てられて、みずみずしいと思う

思いがけず、新たな交流の場に

設置して2カ月余り。コロナ禍で顔を合わす機会が減る中、無人直売所は野菜の売買を通じて住民間のつながりを確認できる場となっている。

さらに…

無人直売所を利用した村民:
ダイコン柔らかくて、おいしかったよ

無人直売所に出荷している・佐鹿まち代さん:
柔らかかった?良かった

感染拡大が落ち着いてきたことも影響してか、本来、無人であることが良い点だが、その場でちょっとおしゃべり。新たな交流の場になっている。

無人直売所に出荷している・佐鹿まち代さん:
野菜の情報交換したり、ここでみんなおしゃべりしたりして、前よりも地域のつながりができてきた気がします

公民館に置かれた無人直売所。山里に暮らす住民をつないでいる。

(長野放送)

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