2匹の保護ネコと過ごして
2017年にはイヌとネコの飼育頭数が逆転するなど、ネコブームが訪れている。
私とネコとの生活が始まったのは2013年12月。 元々、ネコが好きで“ご縁”があったら飼いたいと思いながら、当時、静岡市内にあった保護ネコカフェに通っていた私の前に1匹のネコが現れた。
それが、キジトラ白模様の保護ネコ「あずき」だった。

初対面にもかかわらず私のあぐらの中でくつろぐ、あずきの柔らかさ、温かさを感じていると…。
「この子、飼います」
自然と口からこぼれていた。
その後、同時期に保護されていた白黒ハチワレの「だいず」を引き取り、1人2ネコの生活に。あずきは病気により5歳で他界するが、たくさんの思い出を残してくれた。

思い返せば私がネコを飼い始めた当時は、保護ネコカフェや、野良ネコを避妊去勢するTNR(地域ネコ活動)など、殺処分を減らすための活動に対する認知が今よりは進んでいなかった。保護ネコカフェという言葉一つとっても詳しく説明しなければならず、当時は猫カフェに通っていると話せば、社内でも奇異の目で見られたことを覚えている。
そのころに比べれば、保護ネコ活動について理解が進んでいるように感じるし、全国的に殺処分の数は確実に減っている。

こうした結果を下支えをしているのは、ボランティアの存在だ。
静岡県でもイヌ・ネコに関する274のボランティアグループ(2020年時点)が、殺処分を減らすために地道な活動を続けている。
「生まれてきた命を幸せに」子ネコを保護する中学生
静岡県富士市で活動するベルソーデシャトンズ。殺処分対象の子ネコを保護し、里親を探している。発起人となったのは、中学1年生の赤石朔さんだ。

ネコがいる家庭で育った朔さん。子ネコが1番多く殺処分されているということを知り、「命を救うことに理由なんてない」と現在の活動を始めた。
朔さんたちが保護しているネコは、主に生まれて間もないまだ乳離れしていない子ネコ。ヨチヨチと歩き、か弱い声で鳴き、心をくすぐられる。
とてもかわいい時期だが、同時に一番大変な時期でもある。2時間おきに食事を与え、排泄を促し、体重を計る。温度の変化にも弱いため常に気を配らなければならない。

どれだけ気を配っても子ネコの飼育は難しく、朔さんの手の中で小さな命が失われていったこともある。決して楽しいだけではなく、命と向き合う覚悟がなければできない。

赤石朔さん:
生まれてきた命を幸せにしたい
ベルソーデシャトンズでは、毎週日曜日に譲渡に向けた“お見合い”をしている。

条件は完全室内飼育であることをはじめ10項目。この条件だけを見ても命を預かることの重さを改めて感じる。
赤石朔さん:
ペットショップなどで命を買わない選択肢を持って欲しい
朔さんたちの呼びかけが実り、小さな命が幸せになることを心から願う。

ネコへの理解の広がりを感じる一方、多頭飼育崩壊も
2010年から静岡市で活動する、キャットレスキュー静岡ねこの会の代表・粕谷心さん。実はネコアレルギーだ。
それでも「保護したネコが、幸せになっている姿を見ることが何よりもやりがい」と、保護活動に携わってきた。

粕谷さんは近年、殺処分が減っている要因にネコへの理解が広がったことがあると話す。以前、保護団体への相談は、野良ネコをはじめネコのトラブルをどうにかして欲しいといった内容が多かった。しかし、今は「どうしたらいいか。何をしたらいいか」と自ら関わろうとする姿勢を感じるそうだ。
野良ネコを避妊去勢し、元いた場所での生活を見守る活動=TNRを知っている人が以前より格段に増え、自治会で地域のネコを大切に見守るところも出ている。

ただ、粕谷さんは過酷な現場を経験してきた。2018年、焼津市の飼育崩壊現場では廃墟のような家にネコたちが満足な食事も与えられず暮らしていた。
ネコの白骨も見つかる悲惨な現場だった。

2021年は静岡市の多頭飼育崩壊現場で一度に43匹を保護した。
なぜこのようなことが起きるのか。
43匹の多頭飼育崩壊を起こした飼い主にも”ネコが好き”という気持ちはあった。ネコの様子からも愛情を受けていたことが伝わってきたそうだ。

しかし、ネコを育てるうえで「正しい知識」がなかった。命を預かる以上、愛情だけでなく正しい知識を持つことの大切さを改めて考えさせられた。
新たに保護ネコを迎える決意
だいずと暮らし始めて約7年。あずきが他界してからは常に人間のあとをついて来たり、留守番中に鳴き続けたのか声が枯れていたりと、分離不安のような症状が出るようになった。
寂しい思いをさせているのかもしれない。
だいずも8歳。環境の変化にストレスを強く感じる年齢だ。留守番時間が長いため、だいずと相性の良い大人のネコに出会うことができれば、と考えていた矢先に出会ったのが前述の43匹多頭飼育崩壊現場のネコたちだ。
中でも目をひいたのが、キジトラ柄のディアナ、2歳。物怖じしない性格で、だいずと気が合うかもしれないと思った。

保護ネコを迎える際には、多くの場合、トライアル期間が設けられている。飼い主や先住ネコとの相性を判断する、いわば”お試し期間”だ。命を預かるため熟慮を重ね、今回のトライアルを決めた。
ディアナのにおいが付いたタオルや爪とぎを事前にもらい、だいずには少しずつ慣れてもらい・・・いざ迎え入れ!

最初はナディアにケージに入ってもらい、徐々に慣れてもらう作戦だ。だいずは少し緊張していたが、ディアナは初日から我が物顔。

だいずがケージ越しの対面で「フー!シャー!」と威嚇することもあったが、落ち着いた5日後に対面させると、ケンカもせずのんびりと過ごした。
そして、その日のうちに一緒に寝るほどの打ち解けようで、8日後には2匹は毛づくろいをしていた。

静岡ねこの会やベルソーデシャトンズをはじめ、どの保護団体も「ネコたちに幸せになってほしい」と活動しているため、避妊去勢や完全室内飼い、終生飼育は最低限の条件だ。
ネコの平均寿命は約15歳(令和2年全国犬猫飼育実績調査より)。ベルソーデシャトンズは子ネコの寿命を20歳と考えて、55歳までの人への譲渡に制限している。
厳しいルールかもしれないが、ネコを受け入れるとご飯の世話にトイレ掃除、抜け毛や吐しゃ物の処理、走り回ってうるさい時もある。一緒に生活してみなければわからない”かわいい”以外があるのだ。それをすべて受け入れる覚悟がなければ、ネコを、生き物を飼う資格はないと改めて感じた。

【編集後記】
一番の懸念材料だった、だいずが受け入れてくれたので、正式に迎え入れたいという連絡をし、名前はディアナから一文字とって「でで」と名付けた。
今回こうして「でで」に出会えたのもボランティア団体の活動あってこそ。人間のわがままや至らなさによって苦しんだネコたちを、無償で献身的に助けてくれる人たちには本当に頭が下がる。
最初に飼ったあずきは肝臓病を患い他界した。命が尽きる1カ月前からは、給餌や糞尿の世話など介護が必要な状態だった。それでも最期を看取るまで傍に寄り添い続けた。
“かわいい”だけではない、大変なことも毎日ある。そこを含めて愛おしくてしょうがない。幸せに暮らして欲しいし、何より元気な様子に日々エネルギーをもらう。
我が家のネコを幸せにしつつ、生まれてきたすべての生き物が幸せになることを祈る。
(テレビ静岡 アナウンサー 小松建太)