「有名になることが大事だった」松本まりかの現在地

古市憲寿はその展開を予想していなかった。時に涙を流し語られた、松本まりかの本音の数々。

「悪女」「魔性の女」…印象深いいくつもの役を演じ“怪演女優”とも称される松本まりか、36歳。2018年に放送されたドラマ「ホリデイラブ」での演技で“あざとかわいい”と注目を浴び、30代で一気にブレイク。

5年前に3本だったテレビ出演も2020年は73本に急増した。写真集、CM、バラエティ番組にも活躍の場を広げる旬な女優にめざまし8の古市憲寿が迫った。

古市憲寿:
初めて松本まりかさんのことを知ったのは、ファイナルファンタジーXのリュックっていう元気なキャラクターの声優をされていたとき。

松本まりか:
声優の仕事に恵まれて、そんなに本数は多くなかったんですけど、声優として知ってくれている方の方がやっぱり多かったんじゃないかなと思いますし、この仕事があったからこそ私はこの18年間をギリギリ生き延びてこられた。

古市憲寿:
声がすごい特徴的ですよね。

松本まりか:
すごく子供みたいな。それは声だけのせいじゃないかも知れないですけど、結構コンプレックスではありましたね。この声でのびのびと生きたいというか。やっと今、そうやって生きれるようになってきたかな。

古市憲寿:
キャリアのメインはやはり女優?それともバラエティーに出るのもいいとか、どんなふうに考えていますか?

松本まりか:
もちろん私は演じるということが一番楽しいことなので、それをやりたいんです。でもそれをやるためには「有名になる」ということが大事だった。役を得るには、面白い役をたくさんやるには、やっぱり有名になるってことはすごく大事な要素で。

もっとじっくり女優だけをやるっていう選択肢もあったんです。どうしようかなと思ったんです。慣れないバラエティー番組に出て自分の素を、未熟な素をさらしてしまうのか。だけど、やっぱり有名になりたかった、私は。

自分のやりたいことをやるために、まずは有名になることが必要だったという松本まりかさん。

30代になって迎えた念願の大ブレイクで環境が大きく変わったと言う。長く願った「有名になる」という夢、それを叶えた先に新たな苦悩があった。

夢の先で待ち構えていたこと…イメージへの苦悩

松本さんは今から21年前、スカウトをきっかけにデビュー。そこから長く苦しい時が続いたという。

古市憲寿:
本当はじゃあ20代もっと大ブレイクしたかったとかありますか?

松本まりか:
そりゃしたかったですよ。大ブレイクしたかったですけど、無理だなとは思っていました。今大ブレイクするわけがないと思っていましたし、もしまかり間違ってブレイクしてしまったら、すぐに淘汰されるだろうなって思っていたので。この20年というのは、私にとっては本当に必要なことだったんだなって思います。

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古市憲寿:
ドラマでブレイクして、“あざとかわいい”みたいな枠に入って今大人気ですけど、その世間の偏見とご自身のイメージは合っているんですか?

松本まりか:
あざとかわいい…うーん…

古市憲寿:
しかも“あざとかわいい”って言われちゃうと、今のその表情とかも「わざとかな」とか勝手に思っちゃうじゃないですか。

松本まりか:
今、あざとかわいい顔してました?

古市憲寿:
なんか今、ちょっと物憂げに考えた表情が「これわざとかな」って、ついついこっちが訝しがっちゃうけど、それはどうなんですか?

松本まりか:
なるほど。そんなつもりはさらさらなかったんですけど…なんて言ったらいいのか分からないですけど、今のが“あざとかわいい”だったら自分はそういう人間なのかもしれないなと思いました。“あざとかわいい”感じにするとみなさん喜んでくれるんですね。面白がってくれる。

もしかしたら売れるためにはそっちで貫いた方がよかったのかもしれないですけど、たぶんそれでいくと偽りの自分でいくことになってしまう。みんなが喜ぶからってそこにいきすぎちゃいけないなとは思いますし、常に本当に、繕わない自分でいなくちゃいけないなっていうのはすごい感じてます。

自分のブレイクするキッカケになった“あざとかわいい”は、自分では思ってもみなかったイメージだったという松本さん。

それでも、みんなが喜んでくれる。ただ、“あざとかわいい”感じで自分の人生を生きることがイメージできない。世間のイメージと自分の中のイメージのバランスをどう取るか、常に考えているという。そして、18年間夢にまでみたブレイクは、輝かしいことばかりではなかった。

「あざとかわいい」という言葉の矢

今、ブレイクの真っ只中にいる松本まりかさん。しかし、そこには輝きを放つ彼女の揺れる本心もあった。

古市憲寿:
エゴサーチとかしますか?

松本まりか:
しますね。

古市憲寿:
するんだ!結構嫌なことも書かれるんじゃないですか?そんなことない?

松本まりか:
最近書かれますね。急に流れが変わったというか。私が普通にしている仕草とかがあざといとか、男性にこびているみたいな。不快な思いをしたんだなって、その彼らは。そう思ってしまうのは本当だから、それはしょうがないって。そう…。

「しょうがない」と言いつつ、その目には光る涙。自分の行動が思いがけない捉え方をされることに戸惑いを隠せない様子だった。

松本まりか:
泣くとね、またすぐ泣くって言われる…すいません、分かるんです、本当に。そりゃ私のそういうところ、不快だろうなって。でもやっぱり、どうせなら好きになってもらいたいじゃないですか。だからこう、グサッとはきますけど、自分の成長すべきところを教えてくれてるのかなと思って。今はちょっと逆風が多いですけど、でもそれは自分の乗り越えるべき試練なのかなと思って、耐えているところです。

古市憲寿:
夢がかなうってすごく難しいなって思って。夢をかなえるまでの道筋ってなんとなくみんな想像できて、それまでわくわくするんだろうけど、いざかなえた後にどうするかって、その後の方が人生長かったりするわけだから。かなえた後が幸せじゃなかったら余計悲しいっていうか、悩んじゃいますよね。

松本まりか:
そうそう、そうなんですよ。

「世間の求める自分」と「本当の自分」に揺れる気持ちを赤裸々に話してくれた松本さん。100分を超えるロングインタビューの最後に、彼女にとっての“あざとかわいい”とは何かを問いかけました。

古市憲寿:
松本まりかにとっての“あざとかわいい”とは?

松本まりか:
うーん…「扉を開かせてくれた言葉」っていうのかな。やっぱり“あざとかわいい”というのは自分にとっては意外ですよ。だけどある種、自分を認めてくれた言葉で、面白がってくれた言葉で。自分が“あざとかわいい”かどうかは別として。この言葉によって私は人生が開けたのかもしれない。

インタビューを終えた古市さんは、彼女の印象について「言葉に力がある。全部がもちろん計算ずくではないが、ちゃんと考えた上で自分のやりたいことと世間の評価を上手い具合で折り合いを付けている人」と話していた。

さらに「エンタメ社会学」的な見方として、「あざとかわいい」という言葉の背後には「女の子は無邪気であってほしい」「何も考えてほしくない」という男性性が隠れているのではないかと指摘する。その上で、セルフプロデュースした結果が「あざとかわいい」という言葉で評価されているのだろうと解説した。

インタビューで“あざとかわいい”とは別の一面を見せてくれた女優・松本まりか。夢を叶えたその先の道で、「偽りのない」どんな歩みを見せてくれるのか。その姿に期待が募る。

(「めざまし8」4月22日放送)