太宰府市主婦暴行死事件の裁判員裁判の判決公判。傷害致死などの罪に問われていた女と男にそれぞれ懲役22年、懲役15年などの判決が言い渡された。

山本被告は頭を抱え、岸被告は表情を変えず

これまでと変わらない黒い上下とシワだらけのスーツで法廷に現れた2人は、傷害致死などの罪に問われている山本美幸被告(42)と岸颯被告(25)。

山本美幸被告と岸颯被告
山本美幸被告と岸颯被告
この記事の画像(14枚)

これまで一貫して無罪主張を続けてきた2人に、判決が言い渡された。

福岡地裁・岡﨑忠之裁判長:
主文。山本被告を懲役22年、岸被告を懲役15年などに処す。死体遺棄は無罪

判決を聞いて動揺したのか、山本被告は頭を抱えるそぶりを見せたが、岸被告は表情を変えることはなかった。

(2019年9月 瑠美さんの夫が録音した音声)
山本美幸被告:

あなたたちのおかげで、めっちゃ借金が増えてさ、めっちゃ生活つぶされているんですけど

山本被告と岸被告は2019年10月、佐賀県の主婦・高畑瑠美さん(当時36)を監禁して、木刀で殴るなどの暴行を繰り返し、外傷性ショックで死亡させた罪などに問われていた。

山本美幸被告と岸颯被告
山本美幸被告と岸颯被告

2人は、初公判から一貫して全ての起訴内容を否認。法廷では、罪をなすりつけ合う主張を繰り返した。

被告人質問より(2月9日)
岸被告の弁護人:

暴行したのは?

岸颯被告:
当然、山本さんです

岸颯被告
岸颯被告

岸颯被告:
瑠美さんを救えるなら救いたかったですね

被告人質問より(2月12日)
山本美幸被告:

“ケツバット”と言って、お尻を木刀で30回くらいたたいていた

山本美幸被告
山本美幸被告

山本被告の弁護人:
岸さんが行った?

山本美幸被告:
はい

検察側は、山本被告が瑠美さんをホストクラブに無理やり同行させ、飲食代や生活費などとして総額6,000万円以上の借用書を作成したと主張。その返済をさせるために約1カ月もの間、岸被告と激しい暴行を繰り返し、服従させたと指摘した。

法廷では、その証拠として、2人が山本被告の息子に送ったLINEのメッセージが読み上げられた。

LINEやりとり(2019年10月15日 瑠美さん死亡5日前)
山本被告の息子:

生きとる?

岸颯被告:
左ひざの皿くだいた

山本被告の息子:
まじかよ 爆笑

岸颯被告:
もごもごーって言ってたよ

LINEやりとり(2019年10月15日 瑠美さん死亡5日前)
LINEやりとり(2019年10月15日 瑠美さん死亡5日前)

LINEやりとり(2019年10月19日 瑠美さん死亡前日)
山本被告の息子:

(飲みに)いつ行くの~?

山本美幸被告:
きょうの瑠美の金集め次第かな

山本被告の息子:
きょうも集めるんか 爆笑

山本美幸被告:
当たり前か 笑笑笑

LINEやりとり(2019年10月19日 瑠美さん死亡前日)
LINEやりとり(2019年10月19日 瑠美さん死亡前日)

検察側は、「過去に類を見ない極めて悪質な傷害致死事件」として、山本被告に懲役23年、岸被告に懲役16年などを求刑。
一方、両被告は、最後まで「自らは暴行していない」と無罪を主張した。

最終陳述より(2月19日)
山本美幸被告:

岸くんを止められなかった。私じゃ止められないんです。瑠美ちゃんをこんな目に合わせて申し訳ありませんでした

岸颯被告:
うーん。とりあえず山本さんには、めんどくさい演技はやめてほしいと言いたい

裁判長が断罪「暴行や虐待を楽しんでいた」

判決公判で、福岡地裁の岡﨑忠之裁判長は―

福岡地裁・岡﨑忠之裁判長:
犯行の動機や経緯を見ても、被告人両名は、瑠美さんを服従させて搾取するという私利私欲の目的のために犯行に及んだ。瑠美さんに対する優越感から暴行や虐待行為を楽しんでいた様子も見受けられる。人としての尊厳を踏みにじられた末、生命を奪われた瑠美さんの感じた苦痛は計り知れない

こう断罪した上で、「被告人両名は、瑠美さんが亡くなった責任を相手になすりつけるような虚偽の弁解に終始しており、反省の態度が見受けられない」と指摘した。
その一方で、2人が瑠美さんの遺体を車で運んだ死体遺棄の罪については、「遺体を動かしたり隠したりしていない」、「遺体を隠すためというより、犯罪行為を隠すための時間稼ぎにすぎない」として無罪とし、山本被告に懲役22年、岸被告に懲役15年などの判決を言い渡した。

山本美幸被告に懲役22年 岸颯被告に懲役15年などの判決
山本美幸被告に懲役22年 岸颯被告に懲役15年などの判決

判決文が読み上げられる間、じっと耳を傾けていた岸被告―
山本被告は、岸被告の姿を横目で見ながら、時折 笑顔を浮かべていた。

遺族 佐賀県警の対応は「両被告と変わりない」

閉廷後、裁判員が記者会見に応じ、量刑の判断や佐賀県警の対応について語った。

裁判員:
遺族には到底、納得できない判決だと思います。私が言うべきではないが、判決が申し訳ない気持ちが少し残りました。警察の対応がとんでもないことと思いますし、何かないと動かないのは防犯の意味はなく

裁判員:
審理を続けていくのがつらくなるほど、痛ましい事件。(佐賀県警が)この事態に至る前に見抜けなかったのが残念

判決を聞いた遺族は―

高畑瑠美さんの夫・裕さん:
検察が求刑したのより1年短いというのを考えるのだったら、良い判決だったのかと。ただ個人的に、最後、判決を見ていたら山本被告が笑っているのが見えてて、ものすごくむかついたです。人1人殺していて、2人とも反省している点が見えないと考えるなら、全然軽い

高畑瑠美さんの夫・裕さん
高畑瑠美さんの夫・裕さん

また、事件前に何度も相談したにもかかわらず、事件を防げなかった佐賀県警の対応については―

高畑瑠美さんの母親:
私たちが、万が一のことを考えて言っていたのをそのまま聞いてくれていれば、こういう最悪な事態にはならなかったと思う。救い出せなかったことが、とても残念。それに対して佐賀県警が力を貸してくれなかったことが、歯がゆい

高畑瑠美さんの妹:
(佐賀県警が)身内で隠そう隠そうとしているところが正直、山本・岸被告と何ら変わりない。やっと反省しようとしているかもしれないけど、変わりないようにしか見えない感じがした

高畑瑠美さんの妹
高畑瑠美さんの妹

佐賀県公安委員長「できる限りのことは尽くした」

遺族は2021年1月に、佐賀県公安委員会に対して、当時の対応を検証する「調査委員会を設置すること」、さらに調査は、「佐賀県警と利害関係のない第三者が行うこと」を求める要望書を提出。
これに対して公安委は、「佐賀県警察の第三者“的”管理機関である県公安委員会が議論して回答する」―
つまり、第三者によるこれ以上の調査は行わないという回答を示した。

こうした対応をめぐって、3月2日 2人の裁判と同じ時間帯に佐賀県議会では、再び追及が始まった。遺族が求める再調査をかたくなに拒む警察や公安委員会の対応について、佐賀県知事が答弁を迫られた。

共産党・井上祐輔県議:
県警察は再調査をしないというばかりで、真実が明らかにされようとはしません。県民を代表する知事としてどのように考えられているのか

山口祥義佐賀県知事:
あくまでも県警は、われわれとは独立した組織でございます。つかさつかさで責任をもって対応するべきだと思います。県内の治安を守るため、県民の信頼される警察組織として対応していただきたいと考えております

山口祥義佐賀県知事
山口祥義佐賀県知事

「組織が独立している」として、佐賀県警の対応については明確に言及しなかった。

また、第三者によるこれ以上の調査を行わない決定を下している県公安委員会の安永恵子委員長は、その理由について―

佐賀県公安委員会・安永恵子委員長:
当時、さまざまなご相談の中で、県警察が被害者の女性の生命、身体に対する危険が及ぶことを認識することや、ご親族への被害が及ぶことを直ちに事件化の判断にいたることは難しかったと考えられるところでございます

佐賀県公安委員会・安永恵子委員長
佐賀県公安委員会・安永恵子委員長

共産党・井上祐輔県議:
これまでいただいておった答弁と私自身同じであると思いますし、なぜこれだけ遺族と県警察が言われている状況の中で、ご遺族に聞き取りを行わないのか、この点についてどのように考えているのか?

佐賀県公安委員会・安永恵子委員長:
ご遺族から県警察に提出された申し出書や、本年に入ってご遺族から提出された公安委員会宛の要望書や意見書で、ご遺族の考えや意見を伺っております。そのため特段こちらの方から聞き取りは行っておりません

県公安委員会は、果たして本当に遺族の意向に沿った判断をしたのか。
改めて再調査の意向を尋ねると―

共産党・井上祐輔県議:
今後、遺族から私たちの声も聞いてほしいという要望があった際には、これを受けるのか

佐賀県公安委員会・安永恵子委員長:
全てにおいて遺族の求めにお応えできなかった部分もあるかもしれませんが、公安委員会の権限として、できる限りのことは尽くしたと考えております

佐賀県公安委員会・安永恵子委員長
佐賀県公安委員会・安永恵子委員長

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。