「韓国の歪曲」を論じるベストセラー研究者が出演
今、韓国内で、韓国人研究者らが書いた「反日種族主義」という本が話題となっている。韓国の中で「親日は悪であり、反日こそが善だ」という意識がはびこっていることを痛烈に批判したこの本は、韓国の書店・ネット通販などの総合ランキング(8月7日~13日)で1位のベストセラーとなった。
この記事の画像(14枚)その著者の1人である韓国・落星台経済研究所の研究員のイ・ウヨン(李宇衍)氏が来日し、8月16日の「BSフジ プライムニュース」に出演。韓国の一連の行動に強く抗議している自民党の新藤義孝政調会長代理や、日本在住で日本のポップカルチャーにも詳しい韓国人政治学者のクォン・ヨンソク(権容奭)一橋大学准教授を交え、いわゆる徴用工問題を中心に日韓関係全般について議論を行った。
この中で、韓国で「反日」が広がっている背景と新たに韓国で起きている“革命的”な動き、そして日本が今後の日韓関係をどうすべきかについての、様々な課題が見えてきた。
話題の「反日種族主義」とは何か
まずイ氏に、徴用工問題などを受けて顕著になっているとされる韓国の「反日種族主義」という耳慣れない言葉は何を意味するのか聞くと、次のように答えた。
「事実と異なった主張をする背景というのが反日種族主義。日本を絶対悪と見て、朝鮮を絶対善とする見方によるものなんです」
さらにイ氏は、「反日民族主義」と呼ばずに、あえて「反日種族主義」と呼称する理由をめぐり、韓国社会の現状を次のように痛烈に批判した。
「西洋の民族主義というのは近代的性格を持っています。その中には自由な個人が存在しています。しかし韓国での反日種族主義というのは自由な個人がいません。朝鮮・韓国民族だけがある。つまり観念的で自由な個人が不在であること。そのため反日民族主義を近代的とみることが出来ない。なので民族主義と言わないで前近代的な種族主義ということになった」
これに新藤氏は共感と激励の意を示し、クォン氏は一部を評価し一部には疑問を呈した。
新藤氏
「真実・事実に目を置いて客観的議論をすることはとても重要。そこに取り組まれていることには敬意を表したい。しかし今の韓国でそういう主張をすることは身の危険も含めて、いろいろと勇気がいるんではないかなと心配している」
クォン氏
「韓国の歴史学というか言論も含めて、今は自由で民主的になったなという表れだ。歴史は実証主義に基づくべきというのが当然なのでその点は評価できる。しかし植民地の時代、帝国主義の時代だったので、残った文書・資料は事実かも知れないけれど、それが必ずしも真実を語るわけではないかもしれないし、一面の事実であって一般化できないかもしれない」
「慰安婦」をめぐる議論が白熱
議論の中では、まず韓国人団体が、韓国内だけでなく、アメリカなど各地にも慰安婦像の設置を進め、8月15日にも、ワシントンの日本大使館前で移動可能な像を持ち込んでのデモンストレーションが行われたことについて意見が交わされた。
新藤氏
「あきれますよね。慰安婦合意はなんだったのか」
イ氏
「歴史の歪曲による慰安婦像をアメリカに設置するというのは、前近代的な種族主義的な思考があって初めて起きる行為だと思う」
クォン氏
「一時期は控えていたと思うが、やはり7月以降、韓国での特に日本というか反安倍政権で、歴史問題とからめた形での意識は相当強くなっているので、今回新しくアメリカでもとなったと思う。もうひとつは「あいちトリエンナーレ」の展示が中止になったことが刺激になり後押しをしたと思う」
新藤氏
「私たちも、慰安婦になる境遇については悲しいことだし残念だと思っている。でも韓国における慰安婦のひとたちは強制労働させられて、奴隷のようにこきつかわれた、無償で働かされたというのは違うでしょ。事実を自分の都合のいいようにすり替えて、謝ればいいというのは違う」
イ氏
「彼女たちは強制連行だったか否か、奴隷のように無償で不自由な中で酷使されてきたのか、この2点いずれも検証されていない、逆にゆがめられた歪曲化された事実なんです。一部の慰安婦たちの過去の若干の証言だけが根拠になっている。強制連行、奴隷的な生活はみられない。性奴隷とみなすことはできない。性奴隷を象徴する慰安婦像少女像を韓国国内や外国に設置するのは歴史の歪曲なんです」
なぜ反韓国本「反日種族主義」が韓国でベストセラーに?
そしてイ氏は、著書である「反日種族主義」が韓国でベストセラーになっている状況について次のように述べた。
「現政権は,国交正常化以降もっとも反日的な政府ですよね。そこで私たちが見逃してはいけないことは、反日に反対する新しい流れが出てきたことなんです。韓国の歴史上初めてのことだと思う。それを明確に表しているのがこの本なんです。売れていること自体がそういう勢力の台頭を意味している。韓国人全員が反日しているのかというと違うんです。反日デモ、反日の日本商品不買運動とかだけを見ると韓国の本当の姿は見えてこない」
一方の新藤氏は、韓国でイ氏の本が売れる背景について、こんな所感を述べた。
「もしかしたら自分たち(韓国人)が教えられていることとは違う事実があるのかもしれないということに、知的好奇心が芽生えて、賛同できるかわからんが何が書いてあるか、事実があるなら見てみようという人がたくさんいるんだと思う」
では今後、韓国国内でこうした反日を見直す動きは加速するのだろうか。イ氏は言う。
「慰安婦について歴史を歪曲していた研究者も私たちの議論しようという要求に応じざるを得ません。討論が客観的に作られ、そしてマスコミの合理的な姿勢があれば変わっていくと思う。それは日本人たちよりも早いと思う。韓国人・韓国社会の特徴は早いことです」
今の安倍政権は「第2の征韓論」に見られている?
しかしイ氏のような主張は当然、今の韓国社会では、容易には受け入れられず、イ氏が、反対派から唾をはきかけられることもあった。本当に韓国は今回のことをきっかけに変わるのだろうか。イ氏の主張を受け入れないまでも、議論はすべきだというクォン氏はこう語る。
「偏狭だった部分に関して問題提起するという意味はあると思う。けれども日本を絶対悪だという認識は80年代までの話。民主化後の日本に対する認識というのは絶対悪ではなく、その中での植民地主義的な部分とか認識の部分だ。今の韓国の若い人たちがどうして日本不買運動を頑張っているかというのも、日本国民ではなく、安倍政権の一部の方々、その支持者たちから、いまだに100年くらい前の韓国を見るような形で、韓国を上から見て屈服させられると見られている事に対して、我々は100年前の我々じゃないんだと感じている。第二の征韓論だ!みたいに」
これに対し新藤氏は、今の日本は韓国に対して上から目線で見るとかではなく、もはや相手にできないという感情なのだと強調した。
「韓国を日本の政治が上から目線で見ているというのは真逆だと思う。そうではなくもう仕方がない、戦略的無視だと。ここまで誠意を尽くし、長い間50年近くみんなで苦労してきたのにすべてを根底から、ゴールを壊すどころかフィールドそのものを移してしまうなら仕方ないねという所まで来ていますよ。上からとか、もう一度征服してやれではなくて、もうこの人たちに話しても無駄だという諦めみたいな徒労感が蔓延しているのが事実」
そしてイ氏は、こうした状況が起きた理由について、次のように解説した。
「なぜ今問題がおきたかというと、もっとも反日的な政府、反日を利用して国益を放棄しても政治的な利益を得ようという意味で積極的なのが今の政府。そしてこれ以上、韓国に言われ傷つけられたくないという政府が日本にはある。これも初めて。そうした極と極があったために新たな論争が生じている」
イ氏が徴用工問題での韓国側の“歪曲”を喝破
その後、イ氏は徴用工問題をめぐって、誤った写真などが教科書に使われ、戦時労働者が奴隷のように扱われたというイメージが植え付けられたこと。1944年9月以前の朝鮮半島出身労働者については、強制性は基本的になかったこと。44年9月以降の徴用のときも、法的強制性があったことを見逃すことはできないが、奴隷狩りのように引っ張っていったことはなかった。「強制動員」はあったが、「強制連行」は間違いだと主張した。
これに対しクウォン氏は「植民地時代全体について矛盾・痛みというか、日本の戦争じゃないですか。その時日本人だったとはいえ、朝鮮の人が徴兵なり徴用、慰安婦という形で動員させられたことのねじれ。日本が負けてくれた方が独立できるが、日本と一緒に戦う矛盾」が韓国人の感情に影響していると指摘した。
なぜ韓国側に日本の戦後補償の取り組みや反省の意が伝わらないのか
ただし、どんな経緯や韓国人の思いがあるにせよ、日韓の様々な補償・賠償問題は、1965年の国交正常化に伴う請求権協定で最終的に解決済みというのが両国の約束だ。新藤氏は、協定締結にあたっては日本が労働者への賠償を持ち掛けたものの、韓国政府は自分たちがやると言ってきたと指摘した上で、今日までの経緯をこう語る。
「(日本は)賠償はきちんとやりますと。それは日本が併合したことによって痛みを感じただろう、迷惑もかけただろうということで国として決着したこと。それも何度もこれまで首脳が確認し、金大中大統領の頃に、これこそ最後だと言うことで謝罪を何度もやって基金を設立すれば、少しすると政権が変わりまた蒸し返されてということを何度もやってきた。この心情を韓国人の人たちには理解してもらえないのかと。請求権協定で、当時の韓国の国家予算の1.6倍ですか。その予算を日本も借金してお支払いした、この事実は一般の韓国の人たちには伝わっていないのかと思ってしまう」
新藤氏の憤激「韓国内の争いの巻き添えにしてもらいたくないんだよ!」
それなのになぜ戦後賠償でここまで対立してしまうのか。クォン氏と新藤氏が議論した。
クォン氏
「実は徴用工の問題に関しては韓国でもいろんな意見があるんです。ソウル大学で授業をしたが、学生もこの判決にはちょっと無理があるんじゃないかとか、日本との国際的な条約もあるし、韓国は今お金がないわけでもないのにお金をくれくれみたいになっている状況も、韓国の若いプライドからしてもおかしいんじゃないかという意見もある。何らかの妥協策も可能だったと僕は思うのに、7月に輸出規制に絡めてしまったと向こうはとらえているので、反発も起きている。輸出規制をとりあえずちょっと止めて、もう一回この問題をガチに話し合いましょうと」
新藤氏
「根本的に勘違いをされている。今回の輸出規制・管理強化を、意趣返しだったり、日韓関係が信頼できない、歴史的問題が日本の意に沿わないから報復的にやっているんじゃない」
クォン氏
「しかし向こう(韓国)ではそうとらえている。対話をしないと」
新藤氏
「根本的にはこの問題は韓国の国内問題ですよ。進歩派といわれる左派のみなさんと、昔の軍閥や財閥の支配層の闘争じゃないですか。かつて日本に連携した人たちを排撃することで今まで虐げられたと言ってきた人が、自分たちが権力を取ろうとしている。その時に日本を使っているという事になる。巻き添えにしてもらいたくないんだよ!」
各氏が今後の日韓関係への提言。新藤氏は政府肝いりシンクタンク創設を提言
今回の問題が韓国国内の政争に利用されているという新藤氏の見解については、イ氏は勿論、クォン氏も同意していた。議論の最後には、各氏から今後に向けての提言がなされた。
クォン氏
「終植(植民地時代終結)記念日を作ると。これだけ問題が出てきているのは植民地が終わっていないということ。植民地体制を乗り越えて終わらせるという記念日か何かを作るよう働きかけてほしい」
記念日を作れば韓国の人が納得するかというと甚だ疑問だが、それほど韓国の人は反省も含む日本の戦後対応にまだ納得していないということなのか。イ氏は今後に向けこう語る。
「韓国の教育では反日種族主義から脱するための教育が必要だ。日本を絶対悪とみなす。観念的な虚像を作り上げ敵対視している。こういう非科学的観点から逃れる必要がある」
そして新藤氏は、韓国政府がシンクタンクに出資して、国際社会で自国の主張が正しいとの宣伝戦をしかけているの対し、日本も負けない体制を作ることが重要だと指摘した。
「私たちが政府に提案しているのは、日本もきちんとした政策シンクタンクを作ろうと、そして領土や主権や歴史問題に関する国際的な情報発信をもっと継続的に総括的にやっていこうじゃないかと。それは韓国に対してもそうだし中国も勿論そうだ。アメリカや欧州でも継続的にシンポジウムをやるとかいうことを国家戦略としてきちんとやっていこうと」
ちなみにクォン氏は韓国の世論も背負う知日派として「私が冷静になるべきだと(韓国に向けて)言うと、お前は日本に住んでいるからだとか(韓国人に言われる)。日本でこんなに僕は叩かれているのに、向こうにいけば向こうで叩かれる状況だ」と嘆いていた。
そのクォン氏は最後に、「日本を隣人でありパートナーとして、日本の戦後の取り組み、いろんな談話とか基金、日本側も頑張っている所はあるんだということを見ながら、我々もどうすべきかしないと。今回こういうことが知れたんです。村山談話にしても色々な基金にしても。有難かったなという事を認めて知らないと」と話した。
輸出管理強化を別にすれば 韓国の一方的措置が続いた現下の日韓情勢について、日本が譲歩する余地はほぼないだろう。その上で、反日種族主義なるものを乗り越えようと韓国内に表れ始めた変化を注視しつつ、今回の関係悪化を奇貨として、積年の課題を乗り越えた正常かつ大人の日韓関係が長期的に構築できるならば、それに越したことはないはずだ。