本来のみりん(いわゆる本みりん)は、もち米と米麹に焼酎を加えて熟成させたもの。その独特な甘味もあり、江戸時代初期までは高級な甘いお酒という扱いだった。一方、知多半島や対岸の三河地域で発達したみりんは、焼酎の代わりに酒粕から抽出したアルコールを用いた。
酒粕は日本酒を搾った後の残り滓だが、アルコール分は残っている。そこで、酒粕を蒸留してアルコールを抽出し、焼酎の代わりにしたのだ。きっかけは余った酒粕の有効活用だが、従来のみりんよりも安価だったため、ウナギの蒲焼きやそばつゆの隠し味として爆発的にヒットした。みりんが調味料になり、商品化された瞬間である。
余談だが、アルコールを搾りきったみりん粕は甘いため、江戸時代は庶民のお菓子や漬物に用いられた。それが「こぼれ梅」であり「守口漬」である。
こうして改めて見ると、知多半島には、米→日本酒→酒粕→粕酢・酒粕→みりん→みりん粕という見事なまでの循環がある。「江戸に倣え」などと安易に語るつもりもないが、何でも再利用する江戸時代の循環社会はやはりすごい。
みりん関連の取材では、碧南市にある創業250年を超える老舗、九重味淋を訪ねたが、同社が作るみりんにはこれまでのみりん像を覆す衝撃を受けた。とりわけ同社の看板商品「本みりん 九重櫻」のまろやかな甘味と深いコクは、スーパーで売られている「みりん風調味料」とは似て非なるものだ。
個人的に江戸前の温そばが好きなので、そばつゆを作るときはみりん風調味料をドバドバ入れていたが、九重味淋のみりんであれば、少しの量で豊かな甘味とコクが出る。
また、製造現場を案内してくれた広報課の足立ゆかりさんが語るように、みりんには複数の異なる味をまとめる不思議な力がある。そのため、パスタに煮込み料理にと、今では何にでもみりんを入れている。
余談ついでにもう一つ言うと、九重味淋に併設されているレストラン&カフェ「K庵」では、みりんを使ったさまざまな料理が楽しめる。その中でも、シロップの代わりに煮詰めたみりん(煮切りみりん)をかける「みかわぷりん」はこれまでに食べたことのない甘味でぜひオススメしたい。
なお、九重味淋の「淋」は、一般的な味醂の「醂」とは字が違う。足立さんによれば、「淋」には「したたる」という意味があり、「『蜜淋』という中国由来の甘い汁がしたたる」という意味を込めて「味淋」としたそうだ。
篠原匡
ジャーナリスト・編集者。著書に『腹八分の資本主義』『神山 地域再生の教科書』『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』など多数。

