彼が例に出したのはチェスです。
1997年、IBMが開発した「ディープ・ブルー」というコンピュータが、当時の世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフさんに勝利しました。「コンピュータが人間のチェス王者を破った」というニュースは、世界中に衝撃を与えました。
その後、「アドバンスドチェス」という新しい形式が生まれました。
人間とコンピュータがチームを組んで戦います。人間の直感や創造性と、コンピュータの計算力を組み合わせたのです。
この形式は、しばらくの間、最強でした。コンピュータ単独よりも、人間単独よりも、人間とコンピュータのチームが一番強かったのです。
ところが、2005年頃には、その時代は終わりました。コンピュータ単独のほうが、人間とコンピュータのチームよりも強くなってしまったからです。
人間が加わることが、むしろ足手まといになってしまったからです。
アルトマンさんは、この歴史をふりかえり、人間がコンピュータに初めて負けてから、「協働の時代」を経て、コンピュータ単独が最強になるまで、わずか8年ほどだったと述べています。
これを今のAI全般に当てはめると、少し不安になります。「AIを使いこなせる人材が求められる」と言われていますが、その期間は意外と短いかもしれません。
AIは「正解がある」領域に強い
今は「AIを上手に使える人」が重宝されていても、ある時点で、「AIを使いこなす人間」より「AI単独」のほうが優れた成果を出すようになる。チェスで起きたことが、他の領域でも起きる可能性を、否定できません。
もちろん、チェスと現実の仕事は違います。チェスには明確なルールがあり、「正解」が存在します。勝ち負けがはっきりしています。
だからこそ、コンピュータが圧倒的に強くなれました。
一方、現実の仕事の多くは、そこまで単純ではありません。

