京都市の桂川駅付近の地下を通る「小浜・京都ルート 桂川案」で決着した北陸新幹線の敦賀以西延伸ルート。その決着の舞台裏には、連立与党を組んだ自民と維新の “駆け引き”があった。

桂川案は京都駅から約5キロ離れたJR桂川駅付近の地下に新駅を設ける計画だが、建設費は3.9兆円(物価上昇を加味すると5.5兆円)、工期は26年に及ぶ見込み。さらに認可着工までには、京都市の懸念払拭と地方財政負担の軽減という高いハードルが待ち構える。福井県選出の参議院議員・滝波宏文氏は福井テレビの報道番組「タイムリーふくい」で「いよいよここからが正念場」と語った。

「京都に来るな、米原へ行け」水面下の激しい駆け引き

北陸新幹線の敦賀以西ルートを巡っては、与党プロジェクトチームは2016年に「小浜・京都ルート」で合意した。しかし、2025年10月に自民党が連立を組んだ日本維新の会が8つのルート案の再検証を要求したことを機に、与党整備委員会がルート再検証を開始。7月国会の会期中を期限として改めてルート選定を進めていた。

与党整備委が再検証していたルート8案
与党整備委が再検証していたルート8案
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ルート選定にあたり、大きな懸念材料となっていたのが“地下水問題”だ。小浜・京都ルートは京都市内の地下にトンネルを掘ることが不可欠なため、水脈に悪影響を及ぼすとして仏教界などが強く反発。京都市は「そもそも北陸新幹線を誘致していない」とけん制した。

京都府の松井市長
京都府の松井市長

結局、自民は当初から主張していた京都駅の地下を南北に通る「小浜・京都ルート 南北案」に加え、京都駅から約5キロ離れた桂川駅付近を通る「同ルート 桂川案」を折衷案として提案。

自民と維新が主張した3ルート案
自民と維新が主張した3ルート案

自民の西田昌司共同委員長(京都府選出)は「早期着工するためには桂川ルートの方が市民の理解が得られやすいのではないか」とその理由を述べた。

自民の西田共同委員長
自民の西田共同委員長

対する維新は同じく桂川案と、滋賀県の米原駅で東海道新幹線に乗り入れる米原ルートを主張。7月15日の協議では、自民党と維新の意見が唯一重なっていた「桂川案」で最終合意に達した。

福井県選出の滝波宏文参議院議員
福井県選出の滝波宏文参議院議員

与党整備委の上部組織・与党PTの共同事務局長を務める自民の滝波宏文参議院議員(福井県選出)は「大きな関門を突破し、小浜・京都ルートに収めることができて良かった」と安堵の表情を見せた。

しかし水面下では一筋縄ではいかない交渉が続いていたという。「もともと維新さんは『京都に来るな、米原に行け』という立場で、この半年間、本当に激しい駆け引きがずっとあった」と滝波氏は明かす。

西田氏と前原の表情は対照的
西田氏と前原の表情は対照的

合意後の記者会見で、自民の西田氏が終始笑顔だったのに対し、維新の前原氏が厳しい表情を見せたことについて滝波氏は「前原さんの緊張感は、これから京都をしっかり説得していかなきゃいけないということへの表れではないか」と分析した。

「福井県が負ってきた原子力のリスクを“自分事”にして欲しい」

桂川案は、JR京都駅から西に約5キロ離れた桂川駅付近の地下に新駅を設ける計画。桂川駅から京都駅まではJRで2駅・約6分だが、乗り換え時間を含めると20分ほどかかる見通し。建設費は3兆9000億円で南北案より3000億円安いが、工期は26年と南北案より1年長い。

桂川案の建設費と工期
桂川案の建設費と工期

桂川駅は2008年に開業した比較的新しい駅で、駅直結の大型商業施設や新築マンションが立ち並ぶ再開発エリアだ。

駅周辺の住民に話を聞くと「新幹線が通ったら結構便利かな」「人が増えると思うし北陸新幹線には興味がある」と好意的な声がある一方で「正直ちょっと迷惑かな…交通渋滞が予想されるし、事故も多いと思う。もし着工するなら専用道路を設けてほしい」との声も聞かれた。

2016年に与党PTは小浜・京都ルートで決定していた
2016年に与党PTは小浜・京都ルートで決定していた

滝波氏はこうした反応について「自分ごとになっていないことが2つある」と指摘する。

一つは、桂川が新たな交通結節点になり得ることへの認識が薄いこと。もう一つは、福井県が年間3800億円もの経済的貢献をしながら原子力立地のリスクを負っているという事実を「他人ごと」としてとらえていることだ。「安定安価な電力を、リスクを負いながら供給してきた福井県のことを、京都・大阪の人にも“自分ごと”として分かっていただきたい」と強調した。

「99.9%地元負担の問題」維新が明言

2027年度中の認可着工に向けた最大の難関は、地方の財政負担だ。整備新幹線の建設財源は、JRが国に支払う貸付料の残りを、国が3分の2、地方が3分の1負担する仕組みとなっている。

整備新幹線の建設財源スキーム
整備新幹線の建設財源スキーム

今回の与党整備委員会の取りまとめ文書には「地方の財政負担の極小化」が明記され、JR貸付料を全体の75%以上に拡充することや、地方3分の1負担のスキーム自体の見直しも含め「あらゆる手段を講じる」とされた。

金沢ー敦賀間のJR貸付料の実績が75%
金沢ー敦賀間のJR貸付料の実績が75%

滝波氏は75%という数字の根拠について、金沢-敦賀間の貸付料の実績が75%だったからだと説明する。維新側は、金沢-敦賀並みの貸付料比率を確保するよう主張し、自民側もそれ以上を目指すことで合意したという。

維新の前原誠司共同代表
維新の前原誠司共同代表

協議では、維新の前原氏が「地下水の問題や建設発生土の問題はあるが、99.9%地元負担の問題だ」と発言したことで、焦点が財政問題に絞られてきた側面もある。

滝波氏はこれについて「客観的な数字の世界に話が来た」と好意的に受け止めた上で「関係省庁全体で地方負担の極小化に向けて動いてもらう必要がある」と述べた。

高市総理が地方負担の軽減に言及
高市総理が地方負担の軽減に言及

さらに、高市総理が6月の参院決算委員会で「地方が過度な財政負担を懸念し躊躇しないようあらゆる方法を検討し、地元との調整を含め全線開業に向け政府としても全力で取り組む」と発言したことに触れ「この言葉をしっかり守ってもらう」と釘を刺した。

まずは認可着工「科学的・合理的に進める」

一方の京都市の松井市長はルート決定後も慎重な姿勢を崩していない。地下水への影響、建設発生土の処分など従来から挙げている“5つの懸念”について「市民の体感的な理解・納得を得ることが不可欠」と強調。

京都市が挙げる“5つの懸念”
京都市が挙げる“5つの懸念”

滝波氏は「客観的ではなく主観的な話なので対応が難しい」としながらも、鉄道運輸機構がすでに科学的な水分析の調査書を公表していることを挙げ「科学的・合理的に進められなければならない」とした。

認可着工に向けた今後の見通し
認可着工に向けた今後の見通し

8月末までに来年度予算の概算要求が行われるが、今年も金額を示さない「事項要求」となる可能性が高い。ただし滝波氏は「過去2回とは全く意味が違う。ルートが駅位置まで決まったいま、年末には着工に向けた予算がつく事を期待している」と強調。今後は着工5条件の取りまとめや環境アセスメントの手続きも進む見通しだ。

報道番組「タイムリーふくい」
報道番組「タイムリーふくい」

工期短縮や先行開業の可能性について滝波氏は「認可着工が決まる前に縮めようという話は段階が違う」と慎重な姿勢を示した。連立政権の枠組みが変われば再びルート問題が蒸し返されるリスクがある事に触れ「だからこそ政府与党の公式な手続きである認可着工に向けて全力で頑張る必要がある」と力を込めた。

「新幹線は待っていれば来るものではない」と滝波氏
「新幹線は待っていれば来るものではない」と滝波氏

さらに「新幹線は待っていれば自然にやってくるものではない。政治的な汗と努力と情熱と苦労の積み上げの中でやっと勝ち取れるもの」と続け、県の代表として不退転の覚悟で臨む覚悟を示し、県民の機運醸成も求めた。

福井テレビ
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