2026年6月26日、衆議院で自動車運転処罰法違反の改正案が可決・成立した(参院先議)。「過失」なのか「危険」なのか。基準があいまいで、世論と法律に“ずれ”が指摘されてきた「危険運転」に、速度超過の数値基準などを盛り込んだ法案だ。
この法案成立の8日前、仙台地方検察庁は、「過失」運転致死の疑いで逮捕されていた宮城県塩釜市の会社員の男(31)を、「危険」運転致死の罪に切り替えて起訴した。亡くなったのは、岩手県・盛岡市に住む看護師・山本結香さん。まだ23歳だった。
事故の原因は“赤信号無視”か
2026年5月29日午前5時20分ごろ、仙台市宮城野区中野にある国道45号線の変則十字路交差点で、直進していたワゴン車と右折しようとしていた乗用車が衝突。乗用車を運転していた山本さん(当時23)が重症頭部外傷のため死亡した。事故現場は、三陸自動車道と仙台東部道路のインターチェンジ仙台港北ICが近く、交通量も多い。山本さんは仙台での私用を終えて、車で盛岡に戻るところだったという。
この事故で宮城県警は、ワゴン車を運転していた会社員の男(31)を過失運転致死容疑で通常逮捕した。赤信号を無視した疑いが持たれた。山本さん側の信号は青だった。この日の午後、現場には涙を流しながら手を合わせる山本さんの両親の姿があった。
「お父さんよりも稼ぐ」
後日、山本さんの実家に向かい両親に話を聞かせていただいた。
結香さんは我慢強い性格で、陸上競技(長距離)に泣きながらも必死に練習を重ね、中学時代には県大会に出場したこと、自立心が強く1人でも生きていけるように勉強して看護師になったこと、「お父さんよりも稼ぐ」と仕事に一生懸命だったこと、事故後は友人たちが途切れることなく手を合わせに来てくれること、毎朝結香さんの好物を作っているが、戻ってこないことを実感し朝が来るとつらくなってしまうこと…
「少しでも交差点にいるタイミングがずれていれば…」悔やんでも悔やみきれない思いが、両親の心の中で巡り続けている。
「過失」運転か「危険」運転か
事故後の捜査関係者などへの取材で、逮捕時の過失運転容疑から「危険運転致死罪」に切り替えられる可能性があることが分かった。
法定刑の上限は拘禁刑20年の「危険運転致死傷」と、上限7年の「過失運転致死傷」。
2021年2月に大分市で発生した時速194キロ死亡事故では、当時19歳の男が危険運転致死容疑で書類送検されたものの、起訴時には過失運転致死になったことを受け、署名活動が行われるなど社会問題となった。(二審で福岡高裁が過失運転致死罪を適用して懲役4年6カ月の判決→福岡高検が上告中 ※2026年6月29日時点)
危険運転致死傷罪をめぐっては、成立要件が曖昧で、大幅な速度超過などがあっても、過失運転致死傷にとどまる例が相次いでいた。
その背景について元検事の上原幹男弁護士は、一般の感覚と、法律の“ずれ“を指摘した。
「法律の書き方が『その進行を制御することが困難な高速度』となっていて、一般道を時速100キロで走っていたら“危ない”という感覚はあると思うが、路面の状態など考慮して認定するのは難しい犯罪であり、『進行を制御することが困難』に当てはまらないケースがままある」
こうした状況を受けて法律を見直す議論が進み、2026年6月26日衆議院で自動車運転処罰法違反の改正案が可決・成立した。
「自宅に忘れ物を取りにいくために急いでいた」危険運転致死罪で起訴
山本さん(当時23)が亡くなった事故から20日が経った6月18日、仙台地方検察庁は過失運転致死容疑で逮捕・送検されていた男(31)を、危険運転致死罪に切り替えて起訴した。
起訴状によれば男は、赤信号を「ことさらに」無視し、時速114キロから136キロで交差点を直進したとされている。信号無視かつ、重大事故につながる可能性がある危険速度の走行の2つの構成要件が、男のドライブレコーダーの解析などから立証できると判断された。
また、捜査関係者によれば男は、「自宅に忘れ物を取りに行くために急いでいた」などと供述し、事故の前から複数の信号無視を繰り返していたことが分かった。
仙台市内の職場に出勤し、塩釜市内の自宅に戻る途中だったという。
一人娘の山本さんを亡くした両親は起訴後、仙台放送の取材に対し、「警察にきちんと捜査していただき、危険運転致死罪での裁判が始まることはとても感謝しています。ただ、まだ家族は事故の事実を受け止めきれずにいます。裁判で事実が分かっていくと思いますので、見守っていきたいと思います。今はこれが精一杯です」と話した。

取材後記 報道の在り方は
山本さんの両親からお話を聞かせてもらい、報道によって遺族がさらに傷付いてしまうことがあることを知った。今回の事故を伝える上で「出合い頭」と表現する報道が多かったことだ。「『出合い頭の事故』と表現されると、娘も悪かったように聞こえてしまった」正確な表現、言葉選びの在り方とは。このような事故が二度と起こらないように、交通ルールを守ることの大切さを訴えるには報道はどうあるべきなのか。私は22歳。亡くなった山本さんとは1歳違いだ。23歳で奪われた未来、両親の思いを忘れることなく、正確な取材・報道を考え続けるとともに、今後開かれる裁判の行方を見守りたい。
(仙台放送・氏家萌々香)

