2年連続で荒茶の生産量日本一となった鹿児島で、茶葉の価格が急騰している。背景にあるのは世界的な抹茶ブームだ。「ここまで大きくなるとは思っていなかった」と生産者は驚きを口にする。煎茶からてん茶への転換が進む産地の今を追った。

「覆いをかぶせる期間が違う」——煎茶とてん茶、同じ木から生まれる二つのお茶

南九州市に鮮やかな緑が広がる茶畑がある。一番茶の収穫を終え、現在は二番茶の収穫が行われている最中だ。この土地で祖父の代から荒茶を生産するのが、下窪勲製茶の下窪健一郎社長である。

この記事の画像(12枚)

栽培しているのは急須で飲む煎茶と、抹茶の原料となる「てん茶」の2種類。同じ木から収穫されるが、違いはバロンと呼ばれるカバーをかぶせる期間にある。

「煎茶は短い。大体1週間くらい。てん茶はその倍被覆をする」

『バロン』とよばれるカバー
『バロン』とよばれるカバー

覆いをかけることで鮮やかな色と濃い緑、特有の香りが生まれるという。下窪さんが当初栽培していたのは煎茶のみだったが、2年前からてん茶の栽培を始めた。現在、てん茶の生産は全体の6割を占めるまでになっている。

てん茶に軸足を置いた理由の一つには、生産効率のよさもある。「蒸して乾燥するだけなので、てん茶は蒸してから1時間ぐらいで製品になる」。さらに2年前にはてん茶専用の工場を新たに建設した。

「偶然にもコロナが明けて」——インバウンドが後押しした抹茶への転換

下窪さんがてん茶に本腰を入れた理由には、時代の流れもあった。

「偶然にもコロナが明けてインバウンドの関係で外国人の方が増えてきて、抹茶のほうに関心もあったのでいいチャンスだなと」

取材当日には、カナダからやってきた夫婦が鹿児島のお茶を求めて訪れていた。「毎朝ミルクで割って、抹茶を飲むの」「自然な茶葉の味を楽しみたい」と話す2人の姿は、世界規模で広がる抹茶需要を象徴している。

カナダから訪れた夫婦
カナダから訪れた夫婦

この波をいち早く捉えたのが池田製茶だ。2020年に県内で先駆けて抹茶の加工工場を整備し、現在は毎日フル稼働の状態が続く。池田研太社長はこう語る。

「ここまで大きくなるとは思っていなかった。そうなればいいなと思っていたのが来た感じ。まだスタートの段階かと思う」

一番茶の価格が2年で2倍以上——身近なお茶の値段にも波及か

抹茶ブームが産地にもたらした変化は、価格面でも鮮明に表れている。県内の一番茶の取引価格の推移を見ると、ここ数年の伸びは著しい。2026年には1キロあたりの平均価格が5228円に達し、2025年の2倍以上の水準となった。LDアグリの浅井祥平社長によれば「2年前からすると一番茶でだいたい3~4倍の価格になっている」という。

なぜこれほど価格が上昇しているのか。農林中金総合研究所の山本裕二研究員はこう説明する。

「国内の消費者が抹茶の消費を多く増やしたとは聞いていない。国内のインバウンド向け需要、輸出向けに伸びている。煎茶からてん茶への転換が起きているので、相対的に煎茶の需給が引き締まる状況が長く続く」

煎茶の工場機械

つまり、お茶全体の生産量が横ばいや微増にとどまる中で、てん茶の割合が増えるほど煎茶の供給量は相対的に減少する。煎茶はペットボトル飲料にも広く使われているため、このまま高騰が続けば、スーパーやコンビニで目にする身近なお茶の値段に反映される可能性もある。

大阪の飲料メーカーが鹿児島で茶畑を——需要に応えるための新たな動き

こうした状況を受け、県外の企業が鹿児島で茶の栽培に乗り出す事例も出てきた。南九州市知覧町の茶畑で栽培を行っているのは、大阪に本社を置く飲料メーカー、ライフドリンクカンパニーのグループ会社・LDアグリだ。

ライフドリンクカンパニーは流通大手イオンのプライベートブランドなど、年間10億本のペットボトル飲料を生産する大手企業である。もともと40年ほど前から南九州市で茶葉を仕入れていたが、煎茶の需要が供給を上回る状況を受け、2026年4月から茶畑を借りて地元の農家の協力を得ながら自社での原料生産を始めた。

ライフドリンクカンパニーが生産するペットボトル飲料
ライフドリンクカンパニーが生産するペットボトル飲料

「お茶王国」鹿児島、安定供給へ模索は続く

2年連続で荒茶の生産量日本一となり、「お茶王国」としての地位を固めつつある鹿児島。しかし世界的な抹茶ブームは、産地の内部構造を大きく変えつつある。てん茶の存在感は年々増し、煎茶との需給バランスは崩れ始めている。

下窪さんはてん茶への転換を「また頑張ることで皆さんやる気も出てくる」と前向きに語り、池田製茶の池田社長は「鹿児島のお茶の魅力を知ってもらえれば、どんどん広がりを見せていくのではないか」と展望を示す。

国内外の需要を見極めながら、安定的な供給体制をいかに築くか。鹿児島の茶産地は今、その答えを模索し続けている。

【動画で見る▶茶葉が急高騰 鹿児島の生産現場は今】

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(12枚)
鹿児島テレビ
鹿児島テレビ

鹿児島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。