平和大通りの大きなクスノキが、平和公園へと移された。背景にあるのは、原爆ドームを「空と緑」に囲まれた姿に近づけようという広島市の構想だ。自転車道整備の支障になっていたその木は、新たな場所で平和の風景の一部となった。
平和大通りのクスノキが“引っ越し”
「いま、ゆっくりと持ち上がりました」
6月9日未明、広島市中区の平和公園。クスノキがクレーンで宙に吊り上げられた。
この木はもともと平和大通り沿いに立っていた推定樹齢70年ほどのクスノキ。長年、人々の暮らしを見守ってきた木だ。
その“引っ越し”は、6月4日の夜から始まった。
しかし、作業は難航。当初の予定を大幅に超え、ようやく木が抜けたのは夜が明けたころだった。
世界遺産にふさわしい景観へ
背景にあるのは、世界遺産登録から30年を迎える原爆ドーム周辺の景観づくりだ。
原爆資料館、慰霊碑、原爆ドームを南北に結ぶ線は「平和の軸線」と呼ばれ、平和都市・広島を象徴する景観として重要な役割を担っている。
広島市が目指すのは、原爆ドームの背後にビルなどが見えず、空と緑に囲まれたような風景。その実現に向けた方法の一つが、植栽によって周辺の建物を隠すことだった。
当初は新たに木を購入して植える計画だったという。
しかし、「樹木の育成となると20年、30年かかる。比較的背の高い立派なクスノキがあれば持ってきてもいいんじゃないか」と、市は別の方法を模索。そこで着目したのが、平和大通りの自転車道整備で支障となっていたクスノキだ。
歩行者と自転車の安全性・快適性を確保するため、平和大通りでは2024年度から平和大橋より東側で自転車道整備が進められている。今回のクスノキは、2026年度に工事が予定されている田中町交差点付近にあり、整備の支障となる位置に立っていた。
広島市公園整備課の白松保幸課長は、「被爆樹木ではないが、みなさんに親しまれた平和大通りの大きな木。その木を大事に育てながら、平和公園の軸線の景観向上にも資する取り組み」と話す。
平和公園で与えられた新たな役割
6月8日、午後11時半ごろ。
クスノキを載せた長いトレーラーがゆっくりと公園内を進んでいく。周囲の木々に接触しないよう、クレーンで吊り上げ、慎重な植え込み作業が続いた。
そして9日午前3時。おおむね3日間に及んだ移植作業は、大きな山場を越えた。
白松課長は安堵の表情を浮かべる。
「樹木を移植した後も大事に育てながらということになりますので、すぐ完成ということはないが、いい環境で育つように維持管理を頑張っていきたい」
今後10年から20年かけて木を育成していくという。景観向上のため、ほかの木々も公園内で移植する予定だ。被爆100年を迎えるころ、原爆ドームの背後には青空と緑が広がる風景が実現しているかもしれない。クスノキは、伐採されることなく新たな役割を与えられた。
(テレビ新広島)

