原発事故で産地を追われた福島県浪江町の大堀相馬焼。一度は消えかけた300年以上の歴史を持つ伝統の“火”は、いま次の世代に受け継がれようとしている。故郷を離れた地で再開された窯で、若き担い手たちが新たな一歩を踏み出した。

再び灯された伝統の火

福島県いわき市四倉町。ここで伝統の“火”を再び灯したのは、300年以上の歴史を誇る大堀相馬焼の窯元・陶吉郎窯の9代目、近藤学さんだ。
この日、近藤さんは伝統の礎を築き、いまに伝わる「登り窯」という方法で焼き上げた作品を取り出していた。登り窯は、火の力と灰が自然の釉薬となり、一つとして同じものがない唯一無二の作品を生み出す。

陶吉郎窯の9代目・近藤学さん
陶吉郎窯の9代目・近藤学さん
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「千個入れたら、千個思うように焼き上げたいとは思っているけど、なかなかそうはいかない。この変形がね、自分の焼いた『証』みたいな感じで」と近藤さんは語る。
いわき市でこの伝統の火を再開させ、8回目となった2026年。この窯には、初めて自らの作品を焼くことを許された2人の若者の姿があった。

故郷を追われ、継承が危ぶまれる

大堀相馬焼の故郷、福島県浪江町大堀地区は、東京電力・福島第一原子力発電所から約10キロの距離にある。2023年3月に一部の避難指示が解除されたものの、かつて約20軒あった窯元のうち、故郷に戻ったのはまだ2軒にとどまる。産地は崩壊の危機に瀕し、伝統の継承が危ぶまれていた。

東京電力・福島第一原発から約10キロ
東京電力・福島第一原発から約10キロ

そうしたなか、希望の光となったのが「地域おこし協力隊」として町に移住した若者たちだ。福島県郡山市出身の伊藤礼香さんと神奈川県出身の青木映真さんは、大学で陶芸を学び、大堀相馬焼の魅力に惹かれて近藤さんの元で修行を積んできた。

近藤さんのもとで修業する伊藤さんと青木さん
近藤さんのもとで修業する伊藤さんと青木さん

2026年4月からは新たに千葉県出身の坂東愛さんも加わり、3人で登り窯の火入れに臨んだ。近藤さんは、若者たちの育成に産地の未来を託す。
「一度崩壊した産地をこれからまた何百年って続けるためには、一番は人材育成。未来に向かって繋いでいけるかという可能性を、その土台作りを自分の代でできれば」

今後を担う“輝く星”

火入れから3日目、登り窯の温度は1200度に達した。4日間、朝晩問わず24時間体制で火の番は続く。この熱と灰こそが、作品に命を吹き込む。
「一番はその場でこの熱さを感じながら、体験してもらうことだと思います」と近藤さんは言う。

4日間 昼夜問わず続ける火の番
4日間 昼夜問わず続ける火の番

初めての挑戦に、伊藤さんは伝統の重みと未来への決意を語る。
「大変な技術ではあるけど、それを続けていけているということは、すごい伝統だと思っている。難しいとは思うけど、自分たちも独立してから登り窯やってみたいなと思っています」
そして、ついに作品が窯から出される時が来た。
焼き上がった初めての器を手に、青木さんは「割れていなくて、良かったなっていうのが第一にあります」と安堵の表情を見せる。伊藤さんも「うれしいです。安心しました。きれいに焼けていて」と、2人で喜びを分かち合った。

焼きあがった作品を前に
焼きあがった作品を前に

若手の成長を見守る近藤さんの目には、確かな期待が宿る。
「大堀相馬焼の今後、伝統継承で言えば『輝く星』。これから大堀相馬焼を担う、そういう人材なので」

さらに続く伝統、新たな一歩

今回の登り窯で焼かれた作品は、浪江町の工房で販売されている。伊藤さんと青木さんが制作した箸置きもあり、訪れた人たちとの会話も弾む。
作品を購入した人は「馬のモチーフであれば良いかなと思って。色合いも良いので今回、購入させていただきました。新しい方とか、多く浪江町に来ていただいて、良い作品含めて、浪江の良さを伝えていただければ良い」と話した。

大堀相馬焼といえば“馬” 2人がつくった箸置き
大堀相馬焼といえば“馬” 2人がつくった箸置き

原発事故で傷付いた産地を復興させ、大堀相馬焼の伝統を継承していくための“一歩”は、確かに踏み出された。若き担い手たちは、それぞれの夢を描いている。
「若い世代から親世代まで、幅広くいろんな人の手に取ってもらえるような器を。大堀相馬焼も自分の考案したものも合わせて、色々なものをこれから沢山作っていきたい」と青木さんは語る。

受け継がれる伝統の炎
受け継がれる伝統の炎

伊藤さんは、産地全体の未来を見据えている。
「大堀を中心として、窯元の所に人がいっぱい来るような浪江町にしていきたい」
100年、200年先を見据えて、大堀相馬焼の“火”は、新たな世代によって確かに受け継がれていく。
(福島テレビ)

福島テレビ
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