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東日本大震災から15年が経過し、被災地の水産業では、震災前への復旧ではなく、環境の変化を逆手に取った「創造的復興」が始まっている。
宮城県南三陸町戸倉地区では、震災後の海の異変をきっかけに、廃棄されるはずのウニを高級食材へと再生させる、画期的な陸上養殖が軌道に乗っている。
「負の遺産」を新たな産業へと変える、水産加工会社の挑戦だ。

磯焼けの元凶・ウニを再生させる逆転の発想

志津川湾に面した陸上養殖場。ギンザケやナマコのほか、キタムラサキウニの水槽が並んでいる。このウニは、本来であれば海から「駆除」され、廃棄されるはずだった個体だ。

近年、三陸沿岸では海水温の上昇によりウニの活性が過度に高まり、エサとなる海藻を食い尽くす「磯焼け」が深刻化している。海藻を失った海で育つウニは身が入らず、商品価値がない。それだけでなく、同じように海藻類をエサとするアワビなども育たなくなる。
漁師たちは海の生態系を守るために定期的な駆除を行ってきた。

海底に広がるウニ 磯焼けの原因となってしまう
海底に広がるウニ 磯焼けの原因となってしまう

水産加工品などを手掛けるケーエスフーズは、この「厄介者」に着目した。海から回収した身のないウニを陸上の水槽で管理し、適切なエサを与えることで、短期間で高品質な食用ウニへと再生させる。
磯焼けの原因として疎まれ、廃棄されるはずだったウニを、再び市場へと送り出す、まさに逆転の発想でうまれた新たな産業だ。

廃棄物の野菜をエサとして与えている
廃棄物の野菜をエサとして与えている

ウニだけではなく、与えるエサも実は廃棄物。
自社工場でのワカメ加工の過程で大量に出る、本来は捨てるはずの部分を主なエサとして活用するほか、他の施設から廃棄物として出る野菜を、輸送費のみの負担で譲り受けて利用している。

自社などで抱える莫大な量の廃棄物を処理しつつ、ウニを育てるコストを最小限に抑えるこの手法は、環境負荷を低減できるうえに、経済的にも理にかなったものだ。

海の変化を未来への糧に

2011年3月、施設も東日本大震災の津波被害をうけた
2011年3月、施設も東日本大震災の津波被害をうけた

もともとこの場所は、ギンザケの稚魚を育てる養殖場だった。しかし2011年、東日本大震災の津波で、施設はすべて流失した。施設の再建までに費やした歳月は約10年。三陸の海が大きく変化するには、十分な時間だった。

ケーエスフーズ 西條盛美会長:
震災の後に海が変わって、海藻類が不足して磯焼けが騒がれ始めた。それが今回の事業をスタートするための大きな要因になっている。

ケーエスフーズ 西條盛美会長
ケーエスフーズ 西條盛美会長

現在はさらに、単に育てるだけでなく、駆除されたウニから人工授精させて稚ウニを育てる繁殖技術も確立。天然資源に頼らない水産業の構築に成功している。

平均価格は天然物の約6倍になることも

陸上養殖のメリットはそれだけではない。
宮城県の天然ウニは、例年5月下旬から9月までが漁の時期だが、陸上養殖は時期をずらして出荷が可能となる。市場の流通量が少ない時期に出荷することで、なんと天然物の約6倍もの平均価格になることもあるという。

2026年は特に生育状況がよく、当初予定していた5月上旬から4月末に前倒し、1100個余りを出荷。県外の業者が買い取ったという。

海を臨む町で、自然災害による被害は避けて通れない。さらに、海の環境は変わっていく。それを嘆くだけでなく、新たな産業の種として育ててゆく知恵が、水産業の新たな未来を生み出している。

仙台放送
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