丼のふちからこぼれそうな、山盛りのもやし。刻みにんにくは、遠慮なく頂に積まれている。分厚い豚、背脂、そして箸で持ち上げると存在感のある極太麺――。一見すると東京の二郎系ラーメン店のようだが、ここはドイツのベルリンだ。現地では「にんにくマシマシ」のコール制も踏襲し、リピーターもついているという。いま「JIRO」は、世界が熱狂する“最もディープな日本文化”の一つになろうとしているのだ。
訪日客増加で高まる“ディープ”需要
ラーメン二郎を源流とする「二郎系」は、大量の麺、豚、野菜、にんにく、背脂を特徴とする、いわば“濃すぎる日本食”の代表格だ。その存在は日本を飛び出し、公開情報で確認できるだけでも、ドイツ、イギリス、アメリカ、メキシコと世界各地に広がっている。
その背景にあるのは、訪日客の増加とともに高まる“よりディープな日本食”への関心だ。
寿司、天ぷら、ラーメンといった分かりやすい日本食だけでなく、現地でしか体験できない「専門店文化」や、独自のルールや注文方法を含めた食体験を求める海外の人たちが増えている。
ピザ粉で代用「本物らしさ」で勝負
ベルリンで店を構えるのは、埼玉県で二郎系を運営してきた吉田昌平さん。ドイツ進出のきっかけの一つは、埼玉大学近くの店舗に来ていた交換留学生の存在だった。中でもドイツ人に二郎系の熱心なファンが多かったという。
「小麦粉と豚肉」を愛するドイツの食文化との親和性の高さを感じ、吉田さんは2026年2月に現地へ進出した。
ベルリンで手に入りやすい安価なピザ粉を使い、二郎らしい麺を再現しつつ、日本から取り寄せた製麺機を使い、現地向けに味を変えず「本物らしさ」を重視している。
吉田さんが大切にする「本物らしさ」は、味だけにとどまらない。
吉田さんは、二郎・三田本店の店主「おやじさん」と学生客との掛け合いが織りなす人間味ある距離感に惹かれ「自分もああなりたい」と思ったという。
だからこそベルリンの地でも、接客で会話を重視し、店の雰囲気そのものを「二郎系」に作り上げている。
もちろんベルリンでの開業1年を経て、海外ならではの困難にも直面している
理由の一つは、メニューを二郎系らしく2種類に絞っていることだ。日本のラーメン専門店では珍しくないが、ヨーロッパのレストラン文化の中ではかなり尖った業態だ。
さらにラーメンは欧州では1杯15ユーロ(約2500円)以上と、少し贅沢なレストラン食に近い。熱狂的なファンには刺さるが、幅広い層に届けるには工夫が必要だ。
そのため近く開業する2号店では少し方向を変えて、より広い客層に届く店を目指すという。さらにイスラム圏の客も意識し、豚骨以外の出汁も取り入れたい考えで、将来的には10店舗展開も視野に入れる。
日本食専門家が見る「二郎系の本質」
ロンドンを拠点にする日本通のシェフ、作家のティム・アンダーソンさん。三田本店で二郎を数回食べたティムさんは、二郎の本質は単なる味や材料ではなく「体験」だと指摘する。
独特の注文方法や雰囲気、職人がタイマーを使わず感覚で調理する様子。そうしたすべてを含めた「体験」こそが、二郎を二郎たらしめているという。
“文化ごと“味わう段階へ
二郎系の海外進出は、海外の人々が日本食に対して、より深い体験や専門性を求め始めていることの表れともいえる。
関心は寿司やラーメンといった定番だけでなく、店のルール、職人の所作、地域性、こだわりにまで広がっている。
ティムさんによると、味噌やぬか漬け、納豆、醤油、麹発酵など、日本の発酵食品への注目が高まっているという。日本食は今、“食べ物”としてだけでなく、その背景にある“文化ごと味わう”段階へ進みつつある。
日本食の魅力は細部に宿る
ティムさんは、日本食の魅力を「多様性」と「文化的価値観」にあると話す。
二郎のように強く、にんにくが効き、脂っこく、塩辛いものもあれば、懐石のように繊細で美しく、洗練されたものもある。その幅広さこそが、日本食の魅力だという。
しかし、それ以上に重要なのが、細部へのこだわりだ。例に挙げたのは、コンビニのおにぎりだ。
海苔がしんなりしてしまうなら、どうすれば食べる直前までパリッと保てるのか。誰かがそこまで考え、海苔を外側に分けておく包装を発明した。
そんな日本の食へのこだわりについてティムさんは「それはとても素晴らしい考え方で、こちらにはあまりないものです。私にとって、それこそが日本食を本当に特別にしているものです」と話す。
二郎系ラーメンもまた、そうしたこだわりの延長線上にある。大量のもやし、太い麺、背脂、にんにく、そして決まった注文の作法だ。
一見すると豪快な一杯に見えて、その裏側には、作り手の思いと細部へのこだわりがある。にんにくマシマシの一杯は、単なる“重いラーメン”としてではなく、ディープな日本食文化の入り口として、静かに世界へ広がり始めている。
