会場に並んだ作品は、ただ美しさを競うためのものではなかった。そこに映し出されていたのは、障がいがあっても1人の表現者として自然に認められ、社会の中で関わり合う世界の姿だ。
日本人アーティストが描いたフクロウには、「あなたはひとりではない」というメッセージが添えられていた。そのやさしいまなざしと、この展覧会そのものが、私たちに社会のあり方を問いかけていた。

イギリス・ロンドンで15日、口や足で描くアーティストたちの活動を支える団体MFPAの設立70年を記念した展覧会が開かれた。会場には33カ国以上の作家による150点ほどの作品が並んだ。
ひげや爪など細かく描かれたネコ、写真のように鮮やかなオウム。ビッグベンなどロンドンの人気観光名所や、おなじみの赤い路線バスを描いた作品のほか、季節感あふれる風景画や肖像画がずらりと並び、訪れた人たちの目を引いていた。日本人アーティストの作品も展示されていた。
木村浩子さん(88)は、1歳のときの高熱で脳性まひとなったが、足で短歌を書き、編み物をし、水彩画を描いてきた。絵を描く際に大切にしていることは、土、自然、命、そして人生。展示への思いを尋ねると「恥ずかしい。光栄です。」と照れたように、優しい表情を見せてくれた。
子どもの頃からペンをくわえて絵を描くことが好きだったロザリーン・モリアーティ・シモンズさん(65)は、作品を通して情熱と可能性を伝えたいと話す。
作品で伝えたいのは、情熱と、そして『誰にでも可能性がある』ということです。作品を見た人に、障がいがあっても美しいものを生み出せるのだと感じてほしいと思っています。私たちが成し遂げられることを多く知れば知るほど、障がいのある人に対する否定的な見方は少なくなっていくと思います
モリアーティ・シモンズさんは、学校にも足を運び、子どもたちに絵を描く様子を見せながら交流を続けている。子どもたちは、絵のことだけでなく、暮らしについても次々と質問するという。
子どもたちにとっては、障がいのある人にずっと聞いてみたかったことを、何でも質問できる機会でもあるんです。少し話し始めるだけで、すぐにたくさんの質問が出ます。
みんな一斉に手を挙げて、どうやって食事をするのかも聞いてきます。私は結婚していて息子もいるので、息子のおむつをどう替えたのか、そんなことまで聞かれます。でも、そうした機会はとても大切だと思っています。若い人たちの視野を広げることになります。将来、彼らが管理職になったり、上司になったり、同僚になったりするわけですから
設立70年・・・日本と世界の差
森田眞千子さん(70)は、生後10カ月のときの高熱が原因で脳性まひとなり、両手が使えない。
「私たちは口や足で描いていますが、それではなく、まず作品として見ていただきたいです」その上で、作家それぞれのプロフィールや背景にも触れてもらうことで、「見る側の人が勇気を持てるようになれば」と願っている。
長年にわたり、障がいのある人たちへの社会の見方は変わってきたのか。
森田さんは「以前に比べれば、社会の一員として見ていただけるようになったと思う」と話した。一方で、日本にはまだ閉鎖的な面が残っていて「世界との差はまだ大きい」とも語る。
お互いがもっと積極的にコミュニケーションを取っていければ、日本も変わってくるのではないかと思います
特別なことではなく、自然に関わり合うこと。その積み重ねが、社会を少しずつ変えていくのだろう。
森田さんが長く描き続けているモチーフの一つが、取材時にも描いていたフクロウだ。森田さんにとってフクロウは、これまでも繰り返し描いてきた大切な素材だという。
あなたはひとりじゃない。
まわりを見てみて。
きっと誰かが、あなたを見守っている。

添えられていた英語のメッセージは、自身の詩画集に収めた言葉の一節から選んだものだ。
「あなたはひとりではない」という言葉には、障がいの有無を超えて、誰もが自然につながり合い、支え合える社会への願いが込められている。
森田さんの作品は、国や立場の違いを越えて人と人とを結びつけ、そのやさしいフクロウのまなざしは、誰かがそばにいる安心感を静かに伝えていた。
(執筆:FNNロンドン支局長 髙島泰明)
