アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズの「今年行くべき52カ所」2026年版に長崎が選ばれた。推薦したのは在日26年のアメリカ人ライターだ。推薦の理由を聞くと、そこには観光業の発展につながるヒントが隠されていた。
日本で一番、海外の文化を混ぜ込んだ街
NYタイムズの記事に長崎を推薦したのは、アメリカのライター、クレイグ・モドさん(45)だ。
モドさんは、長崎を何度も訪れて気づいた街の魅力や老舗のカステラ店、喫茶店、ジャズバーなどを記事の中で紹介している。
特に評価しているのは、かつて交流があった中国、オランダの文化が入り交ざった長崎独特の「和華蘭(わからん)文化」だ。江戸時代、西洋・中国との海外貿易が日本で唯一許されたのが長崎の出島。当時、取り入れた海外文化が、現在の長崎の魅力につながっていると語る。
「長崎は日本の中で一番うまく海外の文化を混ぜ込んだ街で、それが建築や、料理に色濃く出ている」とモドさんは評価。「トルコライスは本当に謎でおもしろい」と笑顔で話す。「トルコライス」とは、ピラフ、ナポリタン、トンカツを1枚の皿によそったB級グルメだ。モドさんは、長崎独自の文化を高く評価している。
「洋館に日本瓦」グラバー園の魅力
モドさんは記事で長崎市内の6カ所を紹介した。
・グラバー園
・樹齢約800年のクスノキ
・福砂屋
・珈琲 冨士男
・ジャズバー・マイルストーン
・梅ヶ枝焼餅「きく水」
グラバー園でエリアの中心に建つ旧グラバー住宅は、1863年に建設された。洋館だが屋根に日本瓦が使われている「和洋折衷」の造りが特徴だ。
モドさんは「下からトーチまで見ると洋館のたたずまいが地元(コネチカット州)を思わせるイメージがあるが、屋根に行くと急に和が出てくる。瓦が使われていて、建築のバランスがとても美しい」と表現した。
“昭和レトロ感“がおもしろい純喫茶
中心部の商店街の一角にあるのが、「珈琲 冨士男」だ。
1946年創業の純喫茶で、店内はどこか懐かしい雰囲気が漂う。
「インテリアの昭和時代のレトロ感はおもしろいし、スタッフの動きとか制服とかも独特で好き」と、モドさんは語る。
記事で紹介されたのが、長崎名物の「ミルクセーキ」(税込800円)だ。練乳、卵黄、砂糖を使った手作りの一品で、口当たりが柔らかく、卵のコクとさっぱりとした甘さが特徴となっている。
マスターの川村達正さんは選出の知らせを受け、「いまだに信じられない」と驚きを隠せない。「こういうクラシックなお店なので評価されたのかなと思う。オートメーション化せず、今まで通りでなんとかやっていければ」と語った。
全て消え去るはずだったのに…
モドさんが今回のタイミングで長崎を推薦した理由の一つに、世界に暗い影を落とす「核拡散の脅威」がある。
2026年は、戦後81年目となる。モドさんは、「こういう話はもうしなくていいはずだったのに、さらに核兵器が増えている。危険な状態になってきて、81年経っても甘く思うのはいけないと皆さんも考えてほしい」と、平和を強く願っている。
長崎は、原爆による甚大な被害を受けたが、中心部は壊滅を免れた。モドさんは記事の中で、「全てが消え去るはずだったのに、どういうわけか生き残った」と表現している。
同じく原爆が投下された広島と異なる長崎の良さは「原爆で失われたものと残ったものを感じられることだ」と、モドさんは話す。
「グラバー園もその一つ。全部ないはずだったのに残されている、免れた。その奇跡、ギャップ、コントラストは長崎でしか感じられないこと」と語る。
長崎市西小島にある樹齢約800年で、県内最大級のクスノキ。「原爆の被害を免れたおかげで残されているから、さらにクスノキの大切さ、メモリー、記録が強くなっている」と話す。
長崎の特徴や個性を見つめ直すきっかけに…
記事が掲載されて2か月が経った3月。モドさんは、長崎市の鈴木史朗市長と長崎市内で対談した。
モドさんは「来れば来るほど、長崎市への恋が深くなる」と話し、「こんな立派な町があるのに、なんで長崎を訪れないのかな」と“長崎愛”を惜しみなく語った。
「地方の独自の文化を守るために、これからは中核都市を大切にしないといけない。NYタイムズの力を借りて、長崎を応援するための推薦だった」と、推薦理由を明かした。
長崎市も今回の記事掲載を、観光面での大きなチャンスと捉えている。
モドさんは2023年のNYタイムズで、岩手県盛岡市を推薦した。大きな反響があり、選ばれた2023年に約6万5000人だった市内の外国人宿泊者数は、2025年に約12万4000人(速報値)にまで増加した。NYタイムズの記事が世界中の旅行者に注目され、観光業の追い風になったのだ。
地域経済を研究する長崎大学経済学部の山口純哉准教授は、今回の選出をきっかけに「今までインバウンドの人が関心を示さなかったところにも経済が廻ることになるだろう。量が増えるというより隅々まで行き渡るという意味での経済効果が出てくる」と期待を寄せる。
一方で、山口淳教授は「選ばれて人が来て効果もあって街も良くなる…ではない」と考えている。
「私たちが普段の考え方や行動をどう変えるかによって、選ばれたことが本当に生きてくるのか決まる」と話し、選出の効果を本当に生かすためには、行政や企業、市民が長崎の特徴や個性を見つめ直す必要があると強調した。
選ばれたことを生かすのは“市民”の行動次第
モドさんは、街の文化を守るために“市民”にも訴えかける。
「住んでいると忘れてしまう、自分の街のよさや誇りを持つべきこと、自慢してもいいところを、NYタイムズの話題をうまく使って思い出してほしい」。
世界中から注目される機会だからこそ、街が一体となって観光客を迎える準備をしなければいけない。「長崎らしさ」とは何かを行政・企業・市民が改めて問い直し、今後の投資や行動につなげていく必要がある。
(テレビ長崎)
