ニューヨークタイムズの「2026年に訪れるべき52か所」に長崎市が選ばれ、推薦した米ライターが市長と対談した。ライターが長崎市を推した理由は「自分たちが住んでいる街の良さを再認識させること」だった。

「独自の文化」が消える脅威

「本日、ご招待いただき大変光栄に思います」。

市長との対談を“丁寧なお礼“から始めたのは、アメリカ人ライターのクレイグ・モドさんだ。

ライターのクレイグ・モドさん
ライターのクレイグ・モドさん
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日本をこよなく愛するモドさんは、日本へ住して26年。「旧街道を歩く」という独自の視点で街の魅力を深く洞察し、日本の良さを世界へ発信している。

2023年からニューヨーク・タイムズの「今年行くべき場所」の記事で盛岡、山口、富山を次々に紹介した。2026年に同紙で長崎を取り上げたことから、長崎市の鈴木市長との対談が実現した。

握手を交わす鈴木市長とクレイグ・モドさん
握手を交わす鈴木市長とクレイグ・モドさん

――数ある日本の都市の中から、なぜ長崎市に注目したのか?

モドさん:
「東海道中山道」など全国の旧街道を歩きながら地方の方々と話すと、過疎化や少子高齢化によって独自の文化が消えつつあるという問題に直面します。若い人が仕事を求めて東京や大阪などへ行ってしまう。そんな中で、盛岡や長崎のような、活気ある中核都市の存在に気づきました。地方の独自の文化を守るためには、中核都市を大切にしなければいけないと考えています。

「来れば来るほど、長崎への恋が深くなる」

モドさんは、ニューヨーク・タイムズは影響力がある新聞だけに、誰もが知っている場所を推薦してもあまり意味がないと考えた。だから「中核都市」を推し続けている。

長崎に恋しているモドさん
長崎に恋しているモドさん

モドさん:
以前、盛岡を推薦して大きな反響があったのですが、2025年に編集者から再び尋ねられたとき、迷わず「長崎市」を挙げました。

長崎には13年前から6~7回は訪れています。来れば来るほど、長崎に対する私の恋は深くなるのです。これだけ海外からの観光客が増えているのに、彼らの会話の中で不思議と長崎の名前はあまり聞かない。こんなに立派な街なのになぜだろうと。それで、観光客の話に出てこない場所を推したい、応援したいと思い、推薦しました。

長崎市長「大きなチャンスだ」
長崎市長「大きなチャンスだ」

長崎市の人口は、1970年代に約50万人だったのが今は38万人と人口減少が著しい。モドさんの話を聞いた鈴木市長は「モドさんの記事が長崎にとって大きなチャンスになる」と喜びを表した。

独自の文化に変化させるのが日本で一番上手な街

モドさんが思う長崎の魅力は「地形の美しさ」だ。

モドさん絶賛 長崎の風景
モドさん絶賛 長崎の風景

モドさん:
神戸、横浜、函館など、港町は多くありますが、長崎はちょっと違って、山に囲まれている。そのおかげで一歩坂を登ると景色が変わり、散歩していて楽しくて仕方がない。ヨーロッパの雰囲気もあちこちにあって、ちょっとサンフランシスコっぽくも見える。「あれ、これ日本かな」という違和感が結構楽しいと思うのです。

長崎独特の「和華蘭文化」
長崎独特の「和華蘭文化」

そして「文化の深さ」。日本、中国、オランダの文化が混ざり合った「和華蘭(わからん)文化」は、料理にも建築にも表れています。トルコライスやミルクセーキなど、謎でおもしろい食べ物も多い。自分の文化をなくすのではなく、海外の文化を取り入れて混ぜ合わせることで、独自の文化に変化させるのが日本で一番上手な街だと思います。

「紙一重の事実」こそが今この形で存在することの奇跡

――長崎は「平和」という大きなテーマを持つ街。「観光」と「平和」をどう結びつければいいか?

日本は来るだけで「平和」を感じさせてくれる
日本は来るだけで「平和」を感じさせてくれる

モドさん:
日本という国自体が、私にとっては非常に平和だと感じられます。

私の地元の話をすると、ちょっと治安の悪いところから逃げてきたんです。東京に住んでこんなに平和な国は初めてだと気づきました。日本ももちろん完ぺきではないのですが、市民が大切にされていると思うのです。なので、長崎に来るだけで、観光客は平和を感じ取るはずです。

ただ、長崎について残念に思うのは、海外ではいつも広島とセットで語られ、多くの観光客は広島を訪れて満足してしまうことです。長崎は広島の影に隠れてしまっている印象があります。

――記事の中では「スライディング・ドア(紙一重)」という表現が印象的だった。

モドさん:
原爆は長崎市中心部に投下される予定でしたが、天候によって北部にずれたと言われています。もし天候が少しでも違っていたら、今あるこの街の文化はすべて失われていたかもしれない。この「紙一重」の事実こそが、長崎が今この形で存在することの奇跡を物語っています。

市の北部は失われましたが中心部は失われず、戦前の風景が残っている。その歴史を知る被爆二世が営む店もある。存在するはずのなかった場所や文化が、原爆の影響を受けながらも失われずに残っている。原爆が投下されたことによって何が残り、何が失われたかがはっきり見られるのが、長崎ならではの特徴だと思います。

「核兵器を持つという責任は、人間には重すぎる」
「核兵器を持つという責任は、人間には重すぎる」

鈴木市長は被爆二世だ。「もし原爆が街の中心に投下されていたら、私はここにいなかった」と、モドさんの「紙一重」という言葉に共感している。

鈴木市長:
世界で核兵器が使用されるリスクがかつてないほど高まっている状況だからこそ、被爆地の平和への思いを世界中の人たちと共有したい。長崎を訪れていただくことが、そのきっかけになると信じています。

モドさん:
核兵器を持つという責任は、人間には重すぎる。世界から全ての核兵器をなくすことが本当に大事だと思います。

人に聞くことでおもしろい場所を発見する

モドさんは、その土地ならではの雰囲気や魅力が残る場所として、全国各地の喫茶店を訪れている。

今回の記事の中でも、ジャズバー「マイルストーン」、喫茶店「珈琲 冨士男」を紹介した。市長と対談した今回も、「365」、「1・1(ワンワン)」「Puha(プハ)」などの喫茶店を巡ったことを明かした。

長崎の喫茶店「珈琲 冨士男」
長崎の喫茶店「珈琲 冨士男」

――新しいお店に入るときは、どのように選んでいるのか?

モドさん:
足を運んだ店に「次はどこ行けばいいんですか」など、市民に聞くとおもしろい店を発見することが多いですね。冨士男はミルクセーキや卵サンドの作り方がおもしろく、スタッフの動きや制服が独特で私は好きで、昭和の文化が残されていると思いました。すでに行列店だったので推薦しても迷惑にならないと思い、推薦しました。

梅ヶ枝焼餅「きく水」
梅ヶ枝焼餅「きく水」

梅ヶ枝焼餅の「きく水」も、長崎市民の知り合いから「絶対行ってみた方がいいよ」と提案され、行ってみると本当に良かったなと思います。ニューヨークタイムズの力はすごくて、気をつけないと本当に迷惑になるから推薦するか迷ったんです。でも、お父さんお母さんは2人とも80代、90代になっていたので迷惑になるかもしれないけど、人生の中のちょっと面白いことになるのではないかと思い、これで「焼き餅の文化」が保存される確率が上がったらいいなと思い推薦しました。

100年以上続いた「焼き餅屋さん」は日本ではもう見かけなくなっているので。長崎は大都会的な文化的な深みがあるけれど、市民の優しさは優しい田舎の村に来たような気持ちにさせてくれる。独自の文化、長崎らしい文化をできるだけ大切にしてほしいと思っています。

「自らに投資し、独自の文化をさらに高めて」

――最後に、モドさんが今後の長崎市に期待することは何か?

自分の街に対して、「いいところに住んでる」って気づいてほしい
自分の街に対して、「いいところに住んでる」って気づいてほしい

モドさん:
どうかこれからも自らに投資し、長崎の独自の文化をさらに高めていってほしい。それが一番のメッセージです。

住んでいると、自分の街の良さや誇りを持つべきところ、自慢してもいいところを忘れたりする。特に若い人たちに、自分の街に対して「いいところに住んでる」と気づいてほしい。

例えば東京とか大阪とか京都の大学に出て、Uターンして会社を立ち上げたいなと思うときに、そういえば長崎はいいところだと思い出してほしい。

長崎の街並みを見渡すモドさん
長崎の街並みを見渡すモドさん

モドさんは、世界中どこに行っても同じようなビルが立ち並び、「街の個性」が失われていることに危機感を感じている。個人の喫茶店のようなその街ならではの佇まいや雰囲気、人々の暮らしを「街の魂」と表現し、“守ることの大切さ”を強調する。

モドさん:
独立している個人の店が多いことで「街の魂」が育まれていると思うのです。魅力的な「街の魂」をこれから大切にするという意味で、個人の店が存続できるよう土台を守っていくことが何より大事だと思っています。

日本のディープな文化を発信し続けてほしい
日本のディープな文化を発信し続けてほしい

全国各地を巡り、その土地ならではの魅力を発見してきたモドさん。「街の魂を大切に」というメッセージは、「私たちの何気ない日常が、かけがえのない大切なものだ」ということを再認識させてくれた。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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