震災発生当日の宮城野区榴岡周辺
震災発生当日の宮城野区榴岡周辺
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東日本大震災の発生から15年。震災直後、宮城県内ではあらゆる場所に避難所が設置され、ピーク時には約32万人が避難生活を送っていた。
未曾有の事態において、誰が、どのように避難所を運営していくべきなのか。辿り着いたキーワードは、避難者自身の「自立」と、それを支える仕組みの構築だ。

想定外の3000人…教職員が直面した限界

久能和夫さん
久能和夫さん

震災当時、仙台市立榴岡小学校の校長を務めていた久能和夫さんは、あの日、溢れかえる人々を前に決断を迫られていた。仙台駅に近い同校に、帰宅困難者など、想定の5倍を超える3000人以上が押し寄せたのである。

久能和夫さん:
駅の近くの学校だということを差し引いても、あれだけ多くの人が学校に来るのは想定していなかった。戸惑いというより、決断を急がなくてはいけないという思い。

当時、実際に配られたアルファ米(提供・久能和夫さん)
当時、実際に配られたアルファ米(提供・久能和夫さん)

行政との連絡も遮断される中、久能さんの判断で避難所を開設。しかし、初動を担ったのはほぼ教職員のみだった。

800食の備蓄ではとても足りず、翌朝の提供を目指して地域を駆け回り、乾パンやアルファ米など3080食を集めた。教職員はバケツリレーで貯水タンクの水を運び、夜通しアルファ米を戻すなど、対応に追われた。しかし、一部の避難者からは厳しい声が飛んだ。

久能和夫さん: 
「えーこれっぽっち?」とか、食に対してのクレームが一番多かった。

空気を変えた「子供たちの行動」と脱・お客さん意識

地域の子供たちが自主的に避難所の運営に入った
地域の子供たちが自主的に避難所の運営に入った

殺伐とした避難所の空気を変えたのは、地域の小学生たちの姿だった。5年生、6年生の児童たちが、自然発生的に運営のサポートに入り始めたのだ。

久能和夫さん:
地域の5年生、6年生の子たちがサポートに入ってくれた。いわゆる自然発生的な共助。「これだけ?」とか言っていた人が沈静化したのは事実。

当時の榴岡小学校のようす
当時の榴岡小学校のようす

その後、大人たちの間でも「手伝う」という動きが広がった。
そんな経験から、久能さんは、避難所が円滑に機能するために不可欠なのは、避難者の「お客さん意識の脱却」だと強調する。

久能和夫さん:
学校や行政が、避難してきた人たちの思いに100%応えられるかというと、それは不可能だと思う。少しでも自分たちもやれるんだ、やらなければならない、という気持ちを醸成させていくことが大事。

「町内会の弱体化」という壁

震災の教訓から、仙台市は避難者全員が運営に携わるマニュアルを作成。県内各地で訓練も行われてきた。しかし、15年が経過した今、新たな課題が浮き彫りになっている。運営の核となるべき「町内会」の加入率低下と高齢化である。

仙台市青葉区台原の防災団体「台原地区の防災を考える会」が地区の町内会長を対象に行ったアンケートでは、8割以上が「避難所運営の人員がいない・わからない」と回答した。

中條さんらが製作している「初動キット」
中條さんらが製作している「初動キット」

この深刻な人手不足を解消する「切り札」として注目されるのが、「台原地区の防災を考える会」の中條めぐみさんらが製作中の「初動キット」だ。専門知識や経験がなくても、キット内の手順書に従うだけで避難所を開設できる仕組みになっている。

避難所を開設する際に、1から順にファイルを開けば、何をすべきか指示が書かれているほか、名簿や掲示用看板などの必要な物品がセットになっていて、専門知識がなくとも、誰でも避難所運営の初動対応ができる。

中條めぐみさん
中條めぐみさん

中條さんは、以前台風被害で避難所が開設された際、地域の人の中から運営する人がいなかったという状況を見て、仲間たちと「防災を考える会」立ち上げに至り、防災キットを製作している。

中條めぐみさん: 
これがあればスムーズに開設準備できる。町内会の自発的な対策ではなくて、仙台市の全体の装備として、こういうふうになるといいと思う。

専門家が指摘する自発性と判断力の重要性

東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授
東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授

災害科学の専門家である東北大学の佐藤翔輔准教授も、避難所運営に際しての自発性の重要性を指摘する。

東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授:
状況が分からない期間が長く続いてしまうのが巨大災害。東日本大震災の経験を踏まえると、災害が起きた当初、自立的に自発的に運営できる体制づくりが必要になってくる。

一方で、佐藤准教授は「避難所に行かない」という選択も立派な防災だと話す。
自宅の安全性が確保されている場合、避難しないことで自身のストレス軽減も見込める上、避難所の過密を防ぎ、本当に助けが必要な人に支援を届ける余裕を生むことにもつながる。
避難の判断も、自分が当事者であるということを念頭に置いて考えておく必要がある。

15年前、子供たちの善意に救われた避難所。次の災害では、その「善意」を「確実な仕組み」へと変え、誰もが運営の担い手となれることが求められている。

仙台放送
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