多くのヒット作を生み出しドラマや映画の原作にもなってきた作家の湊かなえさん。故郷・因島での原体験が今の活躍につながっていました。


先月、福岡県内の商業施設に行列ができていました。

【湊かなえさん】
「映像も見てくださってありがとうございます写真はよかったですか」

ファン1人1人と丁寧に言葉を交わすのがベストセラー作家の湊かなえさんです。
現在は淡路島に拠点を置いていますが高校卒業までの18年間、尾道市因島で生まれ育ちました。

【湊かなえさん】
「因島…そんなに遠い場所になっていないかなと思います。自分の生活圏内で起きている出来事かもしれないって思ってもらいたいので、あまりそういった何県何市といったそういったことは書かないんですけれども、やっぱり自分の中に頭の中にはいつも映像があって、それを描写しているので、広島県の方が読むと私が見てきた景色と重なる部分がたくさんあって、同じ景色を思い浮かべてもらえる方がたくさんいるんじゃないかと思います」

2008年のデビュー作「告白」以来、湊さんは、人の心を突く後味がイヤ~になるミステリーで「イヤミスの女王」と呼ばれるように…テレビドラマや映画の原作者としても引っ張りだこになりました。

最新作の「暁星(あけぼし)」は今月、全国の書店員が選ぶ売りたい本「本屋大賞」にノミネートされました。

【湊かなえさん】
「今作は、宗教2世の問題について自分で考えてみたいなと思いました。自分には関係ないこと特に自分が被害者になった想像はやりやすいけど、加害者になる想像とか現状のこの地続きの生活とかけ離れたところに自分が身を置く想像っていうのは難しいと思うんですけど、そういう人はもう特別な人で自分とは考え方もまったく違うんだって思い込みそうですがいや、自分とよく似た人だったり、もしかしたら自分も生まれる場所が違っていたり関わる人が違っていたらそっちにいたんじゃないかなって。あんまり一番とか使わないんですけど本当に一番書けてよかったなと思える作品になりました」

この「暁星」で描いたテーマは「宗教2世」。実際に起こった事件とは異なるオリジナルの物語ですが、現役大臣を殺害した「宗教2世」の男の「手記」と現場に居合わせた女性作家の「小説」がパズルのように重なったとき、新たな真実が浮かび上がります。

【湊かなえさん】
「これを入り口に置いたことを非難する人がもしいたとしても最後まで読んだらあ、こういう世界を見るためだったのかと納得してもらえるものを書かなければならない。私の作品を今まで読んだことがないっていう方にも読んでもらいたいですし、ただ事件が起こって大変だったり辛かったりするだけの物語ではなく、その中で希望となるものを探したり人と人とのつながりであったり、じゃあ愛とはなんだろうとかそういったところにまで踏み込んで書いていますので、ちょっと怖いの苦手だなとかそういった方にも読んでもらいたいなと思います」

毎回、新たなテーマに挑戦し読者の心を掴んできた湊さん。
元々、読書家の両親の影響で幼いころから本に囲まれ育ちました。
青春時代の因島での「出会い」が今につながっていると言います。

【湊かなえさん】
「娯楽というものが限られているのはやはり島ならではだと思うんですけど、学校帰りに友達と書店に寄って本を見たりとかあと待ち合わせをしたりとか高校生のときは(因島の)書店の2階にある数学塾に通っていたりして、生活圏内に書店があると、本を目的としていなくてもそこに足を運ぶという環境が良かったんじゃないかなと思います。

外国のミステリーを読んでみたいなと思っても当時はインターネットがない時代なのでじゃあ書店がなかったらまずそんなふうにも思わなかったと思いますし、塾が始まるまでにまだあと20分ぐらいあるなっていう中でこの棚の前をうろうろすることで出会えたので、よく行っていたのは通学路上にあるたなか書店だったんですけど」

高校時代の湊さんが小説を買っていた「たなか書店」を訪ねると、新聞販売店に変わっていました。

【旧たなか書店・田中伸幸さん】
「おーい!テレビが昔の本屋の取材をするよって、ここが本屋だったんぞということで…」

インターネットの台頭などでおよそ20年前「本屋さん」として店を閉じました。
店主だった田中伸幸さんは当時、湊さんが客として訪れていたことを初めて知りました。

【旧たなか書店・田中伸幸さん】
「感慨がありますね。そういうことを聞かされるとあ、そうだったんかと。(湊さんの作品を)読ませてもらったりドラマを見させてもらったりしています。頑張っておられるというのは、うちの本を通してそういう才能が開花されていくというのは本屋としての冥利ですね」

「本との出会い」の場を担ってきた町の本屋さん。
全国的に減少が続いていますが、人口およそ2万人の因島に今も3軒の本屋さんが営業し地域の人たちに愛されています。
その中に湊さんが行ったことがある本屋さんもありました。

【湊かなえさん】
「高校の近くにあった興文館、興文館であっていますか。興文館は商店街の角のところですよね。本の思い出だけじゃなくて一緒に誰と行ったとかタロットカードどれにしようとかそこから一緒に行ったりとか、こういうものがあの頃流行っていたよねとか、その時代のなんか空気感とか書店内の様子とかそういったものも一緒に記憶と結びついているので、本当に本を通じてのいろんな思い出っていうのが書店にはあるなと思うので、残っていてくれて本当にうれしいです」

目まぐるしく変化していく時代ですが、湊さんは本の変わらない温もりが今に蓄積され、これからの社会にもきっと必要だと考えています。

【湊かなえさん】
「本を読むことによってやはりいろんな考え方があって、例えば今本当に様々なことが二極化していっていると思って、自分の考えがあってそれと同じでない人はもうなんか敵のように思ったり、この人とは合わないという極端な解釈になっていることが多くなっているように感じていてだけど、本を読むといろんな考え方があることが分かったり、自分が正しいと思ってることが相手にとっては正しくなかったりとか。じゃあ「誰か一人が正解なのか」というとそうではないっていうことが分かることによって、自分はこう思うけどこの人はどう思うだろう、でもこことここは違うけど他のところで何か理解し合えることがあるんじゃないかっていう、二極じゃなくてもっといろんな一人ずつにそれぞれの個性があって考え方があるんだっていう解釈ができたら、生きること自体がもっと楽になるんじゃないかなっていうふうに思うので、本を読むことによっていろんな人がこの世にいるんだなっていうその体験が生きる力をくれるんじゃないかなと思います」

テレビ新広島
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